第1112話 どエルフさんと社長

【前回のあらすじ】


 イカスミ怪人工場へと侵入しようとする女エルフたち。

 そんな彼女達を突如現われた謎の巨大白タコが襲う。


 フレンドリーというか甘えたがりというか、敵のくせになんだか「だおだお」と子供みたいな喋り方をしてじゃれついてくるモンスター。とはいえ、その野太い触手で絡みつかれれば身動きは取れない。


 どういう手合いか分からないが、女エルフ達も人類の未来を背負った戦いの最中。

 容赦も手加減もできないと真っ向からモンスターに立ち向かう。


 ギリモザによる目潰し。

 ぬめる触手を片栗粉を使ってぬめりを取って脱出。

 そして、氷の桶に閉じ込めて、なにやら謎の魔法を使って意識を失わせる。

 男騎士はいないが知能プレイで、彼女達はこの危機を乗り切るのだった。


 おそるべし男騎士パーティ。流石は歴戦の冒険者である。どんなモンスターでも、どんな素性の怪人でもおかまいなし。目が合えば、即殺すという凶暴ぶりにはもう言葉も出てこない。


 いったい誰が彼女達を止めることができるのだろうか。


 そして、勢いで倒してしまってよかったのだろうかオクトパスさ――白たこ。


「……まぁ、その、なんというか。いろいろと一生懸命で気がつかなかったというか、まさかこんなのがその、アレだとは思わなかったというか」


 前回タイトルで正体バレしておいたのに、あっさり倒してしまうとはどういうことなのか。はたして、女エルフ達のこの行動は吉と出るか凶と出るのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「いやー、こんな狭い通路で巨大なモンスターに襲われた時には、もうどうなることかと思ったけれど、意外となんとかなるものね」


「モーラさん、鬼人の如き立ち回りお見事でした。今回のMVPは間違いなくモーラさんですね」


「だぞ!! 僕も頑張ったんだぞ!! 褒めて欲しいんだぞ!!」


「……ぐすん。また私は皆さんのお役に立つことができなかった。どうせ私は、パーティのお荷物なんです。何も満足にできないんです」


「もーっ、エリィったらまたそうやってすぐ拗ねるんだから。大丈夫だって言ってるでしょう。そのうち貴方にも、適切な役割ができあがるわよ。ほら、そんな弱気はお腹が減っているから出てくるのよ。今は落ち込むのは後回しにして食べなさい」


 そう言うと、女エルフは自分の腕くらいある、デロリとした白い何かを新女王に差し出した。表面はこんがりと焼けて、ぷりぷりふわふわとした身がなんとも食欲をそそる。軽く振りかけられた胡椒と塩。


 シンプルな味付けとワイルドな見た目。

 そんな謎食材を手に取ると、新女王はくすんと鼻を鳴らしてからかぶりついた。

 するとどうだろう、さっきまで悲嘆に暮れていたその表情が、ぱぁと明るくなる。


「あ、これ、美味しいです。なんでしょう、とっても上品なお味が」


「ねぇ。綺麗な水で育ったからかしら、こんなごつい見た目に反して繊細な味してるわよね。よかったわ、王室育ちの舌にも合格点を貰えて」


「もーっ!! お義姉ねえさまったらまたそんなこを言って、私のことをからかうんですから!! 励ましたいのか落ち込ませたいのかどっちなんですか!!」


 わははと笑う女エルフパーティ。

 それから、彼女達は思い思いの料理を手にして口に運ぶのだった。


 新女王はワイルドに焼かれた白い謎の肉。


 女修道士シスターは、ちゅるりと長い麺のように加工された白い謎の肉。


 ワンコ教授は、小麦粉で作った生地に包んで焼いたほくほくの玉を一口。


 そして女エルフは、ダイコンと一緒に醤油で甘辛く煮付けたものを、爪楊枝でちびちびと突きながら日本酒と一杯。


「「「「いやー、見た目から大味かと思ったら、意外といけるやこのタコ」」」」


 食っちまってた。


 女エルフたち、倒した謎のモンスター白い大タコを、なんの躊躇も遠慮もなく食ってしまっていた。


 某ダンジョンを潜りながらいろんなご飯をクッキングしていく、ファンタジー小説の有名作品だったら、ごねてわめいてけんかしての大惨事になる場面である。

 どんなに美味しく調理しても、「これ、元がモンスターなんだよな」ってなり、エルフが落ち込むシーンだ。


 なのに――。


「かぁーっ!! やーっぱタコはダイコンと一緒に煮るにかぎるよ!! 何倍でもエルフ水(大吟醸)が入っちまうんだな!!」


 この体たらくである。


 女エルフ。ヒロインとしてはいろいろと逞しすぎた。

 敵として現われた大タコを躊躇無く倒すのもそうだが、美味しそうに調理して食べてしまう所もどうかしている。こんな奴に出会ってしまったのが、大タコの運の尽きという奴だった。


 そう、タコである。


「しかしよく咄嗟に機転が効きましたね。まさかタコの周りの水を、魔法で真水に替えてしまうなんて」


「そう? タコの真水嫌いなんて誰でも知ってるでしょ?」


「えー、知りませんよ、お義姉さまだけですって。知ってましたかケティさん?」


「はふはふはふ。たこやきおいしーんだぞ」


 タコの真水嫌いという言葉がある。

 古くからタコは淡水を嫌い、これをかけられるとじっと動かなくなる。科学的な理由については不明だが、雨の日のタコ漁は不漁のことが多く、また、梅雨が長く続くとタコの漁獲量が減るとまことしやかに言われているんだそうな。


 そんな伝承をしっかりと覚えていた女エルフは、咄嗟に氷の桶を作ると、その中の水を真水に替えてしまったのだ。そこからはその伝承の通り。真水の中にいきなりつけ込まれた白い大タコは、毒状態に陥ってそのまま死亡した。


 鮮やかな機転で大タコを倒した女エルフ達。

 ボス級のモンスター討伐の報酬は、経験値でもコインでもない。隠すにも難しそうな図体をした、大きな大きな絞めたてのタコであった。


 ぐぅとそこに準備良く、お腹の音が鳴ったのが運の尽き。


「こんな時間にお夜食なんて、本当はよくないんだけれどね。このまま放っておいたら、きっと敵に感づかれちゃうからしかたないわね」


「証拠隠滅です。それに、たとえボスモンスターでも、命を無闇に奪ってしまうのはいただけません。供養のためにもちゃんと食べてあげないと」


「とはいえ、この量を四人で食べきるのは難しいですよね。どうしましょう。冷凍保存しておきます?」


「だぞー、次はお好み焼きが食べたいんだぞ!! タコ煎餅でもいいんだぞ!!」


 タコづくしパーティー開催。

 証拠隠滅、そして、よく考えると昼から何も食べて居ないことに気がついた女エルフ達は、倒してしまったタコを食すことにしたのだ。


 流れるように。本当に自然な感じで。


 タフすぎるな女エルフさん、タフだ。


 流石はギャグファンタジー世界で、かれこれ五年くらいヒロインやっている女エルフ。モンスターの一体二体、捌いて食べるくらいなんてことはなかった。


「そうは言うけど、ほれ見てみなさい。もう半分くらい食べちゃったわよ」


「「「ほんとだぁ!!」」」


「火を通すと結構縮んじゃうものね!! 逆にこれくらいあって助かったわ。さぁ、せっかくだから、みんなお腹いっぱい食べるわよ!!」


 そしてとんでもない大食漢だった。


 うぅん。


 ヒロインとは。エルフとは。ギャグファンタジーとは。

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