第1113話 どエルフさんとイカスミ怪人工場社長殺人事件

【前回のあらすじ】


 今日も元気だご飯がうまい。酒もうまい。

 ダンジョン潜ってモンスターで酒を飲む。


 ザ・どエルフメシ!!


「ファンタジー漫画の金字塔に喧嘩を売るのはやめなさいな!!」


 だって、モーラさんが少しの躊躇も無くモンスターを食べちゃうから。


 ということで、イカスミ怪人工場へと向かう途中、排水溝に住んでいた巨大タコを倒した女エルフたち。証拠隠滅&腹ごしらえ。ちょうど倒した巨大モンスターが、食べられてる奴だったのが悪い。


 丸焼きに、ソーメン、タコ焼き、そして煮付け。

 美味しく料理してどエルフメシ。女エルフ達は巨大タコを使って急遽腹ごしらえに入るのだった。


 たった四人で人と同じくらいあるタコなんて食べられるのか。

 どう考えてもお腹に入らないだろう。なんていう細かいことはいいっこなし。このファンタジー世界の住人の胃袋は、見かけの三杯くらいあるんですよ。


 まぁ、そこは冗談で済むんですけれども――。


「タイトルがまたついにいよいよ不安なことに」


 もうなんというか、オチがそろそろ見えて参りましたよね。ここ最近というもの、バトルやらシリアス描写がメインで、ギャグのノリが緩くて申し訳なかった。

 そろそろこの巨大タコ騒動にもオチがつく頃合いでございます――。


◇ ◇ ◇ ◇


 山ほどあった白タコの姿はどこへやら。

 いや、それは知ってる分かっている。食ったんだから行き先なんて決まっている。

 女エルフパーティの胃袋の中――。


「はぁー、食べた食べた。もうお腹いっぱい、ごちそうさま」


「だぞ、だぞ。お腹いっぱいなんだぞ。もう入らないんだぞ」


「これだけ食べたのは久しぶりですね。ちょっとしばらく動きたくないです」


「ちょうど良い感じにいろいろと置いてありますし、ここで一休みしていきましょうか?」


「「「賛成!!」」」


 ぽっこりお腹を膨らませた女エルフパーティー。サービスシーンでへそちらなんかはよくあるけれど、ぽっこりと腹を膨らませてヘソが出るとは誰が思ったか。

 女エルフも新女王も、ワンコ教授も女修道士シスターも、その見事に育ったお腹をさすって満足そうに笑う。


 タウンアドベンチャーどこへ行ったとばかりのくつろぎよう。

 女エルフ達は食後の余韻にすっかり浸っていた。


「よく考えると、食事もしていませんでしたし寝てもいなかったんですよね私たちってば。それでここまでよく戦えたものですよ」


「本当よね。おまけに、遠回りするだけして時間潰されるし」


「だぞだぞだぞ!! お腹も空くし、眠たくもなるんだぞ!! 当たり前なんだぞ!! 二十四時間冒険できるほど丈夫じゃないんだぞ!!」


「ケティさん。私たちは一応、冒険者なんですよ……」


 そんな談笑を交わして女エルフが辺りを見渡す。

 どこかに寝るのに適した場所でも無いだろうかと思ってのことだ。流石に、ガッツリ寝るのは隠密行動中にどうかとも思うが、交代しての仮眠くらいはしても許されるだろう。どのみち、かなりの量を食べた後だ、腹ごなしにしばらくは動けない。


 別にまだイカスミ怪人工場の部屋の中に侵入した訳ではないのだ、ちょっとくらい大丈夫と、女エルフの中で理性のたがが少し緩んでいた。


 そんな胡乱な目をした女エルフの顔がある方向を向いて止まる。


「……あり? 見てコーネリア、この排水溝だけれど、ここで行き止まりになってるわよ?」


「本当ですね。もうちょっとでイカスミ怪人工場だったんでしょうか?」


「だぞ? けど、妙なんだぞ? 工場に上がる梯子や、扉なんかが見当たらないんだぞ? どういうことなんだぞ?」


「これ、よく見たら、排水溝の奥から上水が供給されているんですね。いったいどういうことなんでしょうか……」


 うぅんと、赤ら顔で腕を組んだ女エルフ。

 一応、考えたポーズを取ってみた彼女だったが――。


「分かんないや!! 仕方ないか、もうよっぱらっちゃってるんだから!!」


 酔った頭では、まともに思考なんてできるはずもない。

 だははと笑ってまた寝床を探して視線を暗闇に彷徨わせる女エルフ。

 それに釣られて、女修道士シスターたちも、眠い目を擦りながら辺りに視線を向ける。


 今日はもう冒険者は閉店終了。みせじまい。一休みして、また明日から頑張ろう。


 そんな空気が零れ出たまさにその時だった――。


『おはようございます!! おはようございます!! 夜勤のみなさん、おつかれさまでございました!! 一足早く、昼勤に来られた皆さん、今日も一日明るく元気に業務に従事しましょう!!』


「……なにこれ?」


「だぞ?」


「なんの声でしょうか」


「というか、もしかしてもう朝なんですか?」


 女エルフ達の頭上に響き渡ったのは陽気な男の声。まるでアナウンスをするために生まれてきたような、そんな快活なしゃべりだった。


 まったりとしたまどろみに落ちていた女エルフ達が再び現実に引き戻される。

 ちょっと冴えた耳と思考で、しばしパーティーメンバーはそのアナウンスに聞き入る。もしかすると、何か重要な情報を得られるのではと勘ぐったからに他ならない。


『さて、本日は月に一度の全体朝礼の日です!! ドクターオクトパス社長から、今期の生産目標と売り上げ目標の発表があります!!』


「ドクターオクトパス」


「確か、イカスミ怪人工場を率いている人物の名前でしたよね」


「だぞ。けっこう真面目にやっているんだぞ、ドクターオクトパス」


「けどタコ博士って。ふざけた名前ですよね。もしかして、本当にタコだったりして。どうしてそんな名前にしたんでしょうか」


「さぁ、どうしてかしらね……」


『それではドクターオクトパス社長どうぞ!!』


 はたしてイカスミ怪人工場を率いている社長とはどういう人物か。音声だけしか聞こえてこないが、声だけでも聞いておきたいと女エルフは身構えた。


 もはやこのイカスミ工場はもちろんダイナモ市にも興味は無い。

 それでも聞くのは、せっかく来たのだからというスケベ根性に他ならない。

 さぁさぁ、いったいどんな奴かと期待して待つ四人だが――。


「あれ、全然聞こえてこないわね?」


「どうしたんでしょう?」


「だぞ。ちょっとがっかりなんだぞ」


「……なにか事故でもあったんでしょうか」


『えー、社長? 社長どうかされましたか? 返事をなさってください社長?』


 いつまで経っても、社長の声が流れてこない。

 なんだ、もしかして時間にルーズなワガママ社長なのかなと、社員でもないのに変なヘイトを彼女達は溜めるのだった。


 ただ、そのヘイトは、そう長くは保たなかった。


『えー、なにやら機材トラブルの模様ですね。では、ちょっと前後してしまいますが、先に撮影しておいた先期の収支決算報告のVTRを流させていただきますね』


「臨機応変ね。まぁ、会議はそれくらい柔軟な方が捗るわよね」


「社長さんの生声を聞けなかったのは残念ですね」


「まぁいいんだぞ。それより、まずは一休みなんだぞ」


「そうですね、流石にちょっと限界というか――」


『イカスミ怪人工場!! 先期決算報告!! だおだお!! 社長なんだお!! みんな、先期もよく頑張って働いてくれたんだお!! 社長は嬉しいんだお!!』


 寝ようとした女エルフ達の耳に聞こえてきたのは、どこかで聞いたことのある声。

 いや、どこかもクソもない。ついさっき、間近で聞いた断末魔のそれ。


 姿は見えない音声だけ。

 けれど、その特徴的な喋り方と声色は、聞き間違えることなんてない。


「「「「このタコ!! 社長だったぁああああああ!!!!」」」」


 女エルフ達が倒し、そして食べてしまった巨大タコ。その正体は――実はしれっと自分で明かしていんだけれども――まさに今、頭上で流れている声の主。


 イカスミ怪人工場の社長、ドクターオクトパスくんなのだった。 

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