第1101話 どエルフさんと性別不明の登場人物

【前回のあらすじ】


 突然の異世界ファンタジーアキ○ーター。

 女エルフが頭の中で思い描いた人物を、なんとか当てようとする扉の妖精。

 しかし、質問の返答がどうにもおかしい。


「その人物は男性ですか?」


「……どっちかしら?」


「そいつは君にとって身近な人間かい?」


「違うわね。ほぼ他人と言っていいかしら」


「それは実在する人物ですか?」


「はい」


「その人物は人間ですか?」


「うーん、どうなのかしら、これも微妙ね」


「五問目だ。それは、君が今のパーティーで旅をしている時に出会った人物?」


「はい」


 性別不明で身近じゃない人物。さらに実在して人間かどうかもわからない。今までの冒険の中で出会ったことのある相手。


 そんな奴いただろうかと、長らく一緒に旅していた女修道士シスターも首をかしげる。しかしそんな彼女に、貴方も会っているし忘れちゃいけない相手でしょと女エルフは言い放った。


 そんな人物、本当にいただろうか。


 混乱する扉の妖精と女修道士シスター。一回戦では酷い醜態を見せた女エルフだったが、思いがけずさっそくの挽回。ちょっと行方が見えなくなってきた。

 はたして彼女が頭に思い描いている人物とは誰なのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「それはもしかして冒険者ですか?」


「うぅん、これも難しいわね。けど、これはたぶんいいえね」


「もしかしてそれは街によくいる仕事をしている人ですか?」


「いないかなぁ。たぶんこの世に一人だけみたいな仕事だと思う」


「座り仕事ですか?」


「いいえ」


「その人はみんなの人気者ですか?」


「うぅん、人気なのかなぁ。人徳はある感じだけれど、人気かは微妙かも。あ、けど、よく考えたら裏方の人だわ彼」


「……十問目です。もしかして、架空の人物ですか?」


「いや、違うわよ。実在する人物だってば」


 質問の返答に思わず本当に実在する人物なのかと聞き返してしまった扉の妖精。そういう不安を抱いてしまうのも、このやりとりの後では仕方なかった。


 そもそも、曖昧な返答が多すぎる。

 はいかいいえで答えろと言っているのに、どうしてどちらとも言えない回答が出てくるのか。いや、確かに人間はそういう切り分けられない部分が多いものだけれど。


「やっぱり、性別が不明で人間かどうかも不明っていうのが大きいですね」


「職業もよく分からないですし、なんていうか投げかけた質問が、要領を得ないまま帰ってきているのも厄介ですよね」

 

「いや、こっちは真面目に答えているのよ。本当に、答え合わせしたらみんな、あぁなるほどって思うような人物なんだから」


 そうは言うが、本当にこんな人物いるのだろうか。

 疑惑の視線が女エルフに嫌でも飛ぶ。それに対して、「なによ信じてくれないの」とふてくされる女エルフ。本当に真面目にやっているようだった。


 女エルフ陣営も混乱する中、質問は続く。


「その人は地位の高い人物ですか?」


「うーん、まぁ、確かに地位は高いかな。いや、どうなんだろう。これもちょっと微妙だなぁ」


「誰かを指導する立場にいる人物ですか?」


「はい」


「名前がカタカナではじまりますか?」


「だいたいカタカナじゃないのよ。ファンタジーで漢字の名前使ってる奴なんて、うちの兄貴くらいだっての。はい」


「ニックネームは三文字ですか?」


「いいえ。なんかちょっとずつ分かったような質問になってきたわね」


「十五問目。魔法使いですか?」


「いいえ。けど、後衛タイプね」


 質問を重ねるごとに少しずつ質問の内容が絞り込まれていく。

 なんとなく女エルフが頭に覚えている人物に近づいている感じがしないでもない。

 扉の妖精の表情もすっかりと落ち着いたものに変わってきた。


 これはもしや感づかれたかなと女エルフがちょっと顔をしかめる。


「もしかして、もう絞り込めている?」


「えぇ、まぁ、ここまで聞けば、なんとなく分かって来ますよ。しかしまぁ、なるほど分かってみればどうということはない。貴方らしい選じゃないですか」


「それ、質問かしら?」


 丁々発止。盛り上がってくる女エルフと扉の妖精。

 その傍らで女修道士シスターと新女王は、いったいどういうことなのだと頭を抱えていた。どれだけ情報が出て来ても、それらしい人物の顔が浮かんで来ない。


 本当に自分たちが会った人物なのだろうか。

 そして、パーティーメンバーでも思いつかないような相手をあててしまうなら、この扉を突破するのは相当難しいのではないのか。


 疑問と女エルフへの応援を込めて、熱い視線が仲間から飛ぶ。

 そんな中――。


「その人物はもしかして女装していますか?」


 確信を突くような質問が、ついに扉の妖精から飛びだした。


 その言葉を聞いて、はっと女修道士が何かに気がつく。


「はい」


 そう、この作中で女装を好んでやる人間などそうそう居ない。

 そして性別が不明というのは、彼の肉体と精神が剥離しているのならそう表現することが出来る。女装しているなら、確かに性別が分からないという解答は、成立しうる話だった。


「もしかしてその人物は鬼ですか?」


「はい」


 ここでさらにダメ押し。

 分かっていなければ出てこない質問が飛び出す。


 鬼族の呪いをその身に受けた者は、人間とも妖しとも判別のつかない存在になる。人間かどうか分からないという解答もまた、彼がそのような特殊な事情を抱えていると考えれば納得出来るものだった。


 間違いない。

 女エルフが思い描いていたのは――。


「その人はもしかして、勇者パーティーのメンバーですか?」


「はい」


「……これってやっぱりあの人ですよね、エリザベートさん」


「もしかしなくてもこれ、お義姉さまは彼のことを」


「勇者スコティと仲の良い人物ですか?」


「うーん、仲良いのかなぁ。傍目から見てる分には仲良さそうだけれど」


 性別が不明で、鬼で、勇者パーティーのメンバーで、魔剣エロスと仲のいい人物なんて、この世に数人もいないだろう。

 いや、一人居れば良い方。


 もう既に、質問の時点で扉の妖精はその候補を絞りきっていた。


 にたりと余裕の表情をかまして扉の妖精。彼は組んでいた腕を崩すと、余裕の笑みを浮かべて女エルフに最後の質問を投げかける。


 もう分かった。

 便宜上、聞いてやるという感じに――。


「その人物は、貴方が所属しているパーティーのリーダーですか?」


「……やっぱり!!」


「どうしてお義姉さま。そんな分かりやすい相手を思い浮かべたんですか。ダメですよ、ティトさんなんて思い浮かべたら」


 そう。

 女エルフが思い描いたのは男騎士。

 それも、エルフィンガーティト子状態の、女装した時の奴。


 変化球。

 思い浮かべる顔の人物が、変装していてはいけないとは誰も言っていない。

 またしても女エルフは、そういう小ずるい罠を張り巡らせて、扉の妖精をはめようとしていたのだった。


 おそるべし。

 しかし、それをなんなく破る扉の妖精もおそるべし。


 これが最新の情報技術の神髄ということ――。


「いいえ、違います。誰のこと言ってんのよ」


「「「えぇっ!?」」」


 違った。

 女エルフが思い描いている人物は、男騎士などではなかった。


「バカな、君たちパーティのリーダー、ティトしかこんなのいないじゃないか」


「いるわよ失礼ね。それに、ティトはれっきとした男よ。変なこと言わないで」


「いや、まぁ、そうだけれど……」


「それより、ティトが答えってことでいいのかしら」


 立場逆転。焦る扉の妖精を鼻で笑う女エルフ。

 頭に血管が浮き上がらせる扉の妖精だが、その苦悶の表情が晴れることはない。そして男騎士以外の人物以外にこれらの条件が当てはまる人物の名前も、どれだけ待ってもその口からは出てこないのだった。


 どうやら勝負の軍配、は女エルフの方に上がったようだ。

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