第1102話 どエルフさんとサーバールーム

【前回のあらすじ】


 はたして女エルフが頭に思い描いた人物とは。


 性別不明。

 身近な人物ではない。

 実在する人物。

 人間かどうか怪しい。

 女エルフパーティが作中で出会った相手。

 冒険者ではない。

 特殊な仕事をしている。

 立ち仕事。

 人気者かは判断できない。人徳はある。

 架空の人物ではない。

 地位は高い。

 人を指導する立場にある。

 名前がカタカナで始まる。

 ニックネームは三文字ではない。

 魔法使いではないが後衛タイプ。

 女装をしている。

 鬼。

 勇者パーティのメンバー。

 勇者スコティと仲が良い。

 女エルフパーティのリーダーではない。


 はたしてこんな条件が当てはまる奴が存在するのかどエルフさん。適当を言っているにしては、妙に応答が具体的。誤魔化しているということはなさそう。

 だとしてもこんなおかしな人物をよくもこの場面で出せたものだ。


「いやだって、簡単に当てられるような相手じゃダメでしょ。みんなが知らないような人物じゃないと当てられちゃうかなと思って」


 女エルフ、どうやら思った以上に本気でこの勝負に挑んでいる。

 そしてここまで言うからには、本当にそんな奴がいるのだろう。


 はたして女エルフが頭に思い浮かべている人物とは誰なのか――。


 という謎から、今週もどエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


「正解は、教会の闇ことクリネス大僧正ね。なんで気がつかないのよコーネリア」


「……あぁ!! そうでした、大僧正ってばそういうキャラでした!!」


「うわぁ、懐かしい。何年前のキャラですか」


「いや何年前って。一ヶ月もしない前に会ったばかりじゃないのよ」


 いた。

 確かにそういう奴がいた。


 すっかりと登場してから年月が経っているのと、濃いキャラに反してゲストキャラのためその後出番がさっぱりなくて、いまいちピンと来なかったが、確かに全ての条件を満たすキャラクターが居た。


 オカマで吸血鬼の大僧正。

 元勇者パーティーのメンバーで、勇者スコティとは抜き差しならない仲。

 教会の闇に君臨し、人々を今も導く英雄の一人。


 僧侶クリネス。


 言われてみればまさしくその通り、彼は質問の条件を全て具備する人物だった。そしてこういう質問には持って来いの、絶妙に答えるのが難しく、けれども言われてみると確かにそこそこ重要な人物で、なんで分からないんだという相手だった。


 これには扉の妖精もぐぅの音も出ない。

 最初の勝負のような変則技を仕掛けられたのならまだしも、罠でもないし嘘も吐いていない。おまけにそこそこの知名度――今は教会の暗部に君臨してこそいるが、世に知られた大英雄には間違いない。


 質問も真面目に答えている。

 正体が分かった今、改めてその回答を見直してみれば、大ヒントも良いところだ。

 オカマの鬼なんてこの作中で出てきたのは彼くらいである。もっとも、吸血鬼という亜種ではあるけれども、それでも鬼は鬼。


 まさに完敗。ここまで見事に欺かれるとは思っていなかったのだろう、なんだかすがすがしい表情で、扉の妖精は両手を挙げた。


「すごいじゃないか。まさか一回目ですんなりと騙されるとは思わなかったよ。ティトくんと答えると踏んでのひっかけだったんだね?」


「いや、別にそこまで考えていたわけじゃないんだけれど」


「モーラさん、そこは分かっていてもそうだって言っておくべきですよ」


「そうですよ。自信満々で答えて外した時の気まずさは、先ほど嫌って言うほど味わいましたよね。可哀想ですからやめてあげましょう」


 自分が失敗したときにはこれでもかとこけ落としたのに、なんで敵にはこうも優しいのか。仲間の歪な対応に少し憤りつつも、確かに自分もやられて嫌だったことではある。女エルフはそれもそうねとそこは矛を収めた。


 女エルフパーティの情けに感謝するように、ちょっと寂しい顔をする扉の妖精。男に二言はないということか。彼は、それじゃぁ約束だからねと呟くと、扉の前から姿を消した。


 しばらくして銀色の扉がゆっくりと上に向かって動き出す。どうやら引き上げ式の扉だったらしい。駆動音が停止すればぽっかりと女エルフ達の前に暗い穴が広がる。


「さぁ、さっさと入っちゃいましょう。流石にこんな所じゃ安心して寝られないしね。といっても、今から入れる宿はないから野宿だろうけれど」


「せっかくいい宿に泊まれたと思ったのに、残念ですね」


「ごめんなさいお義姉さま。私がもっとしっかりしていれば」


「……だぞ、もう、眠たいんだぞ」


 女エルフを先頭に、女修道士シスター、ワンコ教授を背負った新女王の順番で暗い穴の中へと入っていく。すると、彼らが扉をくぐったのに反応するように、ぱちりぱちりと天井で何かが煌めいた。


 すぐに降り注いできたのは白い光。

 自動照明。魔法かからくりかは分からないが、人が入ったのに反応して点灯したらしい。助かるわと女エルフがすかさず息を吐いた。


 しかし――。


「あれ、ちょっと待ってください。これ、行き止まりではありませんか?」


「……へ? 出口じゃないの、ここ?」


 照らし出された扉の向こうの様子が、何かおかしい。てっきり外に通じる通路の一部かと思いきや、そこは袋小路。というよりも部屋になっている。


 壁には女エルフ達の背丈とそう変わらない棚。

 無造作に積み重なっている木箱――にしてはやけになめらかな茶色い箱。

 中央にそびえ立っている黒い塔は、なにやら緑と赤の光を交互に点灯させている。そこから無造作に伸びる青色の糸はいったいなんなのか。


 そして、もう一つ気になることがある。


「ていうか凄く寒いんだけれど」


「……確かに。言われてみると、一気に体感温度が下がりましたね」


「これはちょっと、過ごすのがしんどいような場所ですね。氷室という感じでもないですが、どういうことでしょう」


「だぞぉ、寒いんだぞ、眠いんだぞ」


 この状況で流石に眠らせるのはまずいんじゃないか。お子ちゃまなので甘やかしてあげたい所だったが、そんなことも言っていられない。女エルフと女修道士シスターが、ちょっと焦ってワンコ教授を起こす。


 そんなことをしながらも周囲に気を配るのを忘れない。

 白塗り、やけに光がよく反射するその部屋を眺めて、女エルフパーティーはこれはいったいどういう場所なのだろうと頭を捻った。


 その時だ。


『サーバールームに入構者を確認。これより、対話型コンソールを起動します』


「へ?」


『はじめての来訪者の方ですね。ようこそ、ダイナモ市行政システムのサーバールームへ。いったいどのようなご用件でしょうか』


 女エルフ達の前に現われた立体映像。

 表示されているのは先ほどの扉の妖精とはまた違う人物。女エルフやELFと同じような尖った耳を持った、白い肌の女だった。

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