第1099話 どエルフさんとアキ○ーター

【前回のあらすじ】


 破壊神の都市の地下。

 下水道を彷徨っていた女エルフ達。

 ようやくたどり着いた出口と思われる扉だったが、残念なことにその解錠方法が彼女達には分からない。


 頼りになるのは技術職のワンコ教授。

 しかし彼女ははおねむでまともに動けない。

 しょうがないなと解錠に挑もうとしたのは女エルフだ。


 ワンコ教授がやってくる前は、パーティー内で解錠の役目を担っていた彼女は、昔取った杵柄と道具を取り出すなりやる気満々でそれに挑んだ。


 しかし、ちょっと油断したが運の尽き。

 魔力で動作するタイプのその扉に、うっかり魔力を注いでしまった彼女は、扉に宿っている妖精を呼び起こしてしまったのだった。


「この扉を通りたいですか? でしたら、ひとつ私とゲームをしましょう。なに簡単ですよ。貴方はただ頭の中で、知っている人物の顔を思い浮かべればいいだけ」


 そう言って微笑む、砂漠の民っぽい衣装の扉の妖精。

 いったい彼はナニネイターなのか。

 そして、いったいどんなゲームがはじまろうとしているのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「どうします、お義姉ねえさま? ゲームするんですか?」


「うーん、するもしないもそうしないと外に出られないんだから、実質選択肢なんてないわよねこれ」


「気をつけてくださいモーラさん、うっかりと愛読しているちょっとエッチな小説に出てくるキャラクターなんか思い浮かべたら地獄ですよ?」


「思い浮かべへんわい。何を言うとるのだお前は」


 怪しく笑う謎の扉の妖精。

 正直、こんな怪しいゲーム受けたくなかったが、そうするより他にこの下水道より脱出する手段はない。しぶしぶ、女エルフは誘いに応じた。


 どうすればいいのと目で合図をすれば、首をすくめる扉の妖精。


「これから君は好きな人物の顔を思い描いて欲しい。思い描いたら、その人物が誰か当てるために、私が君に二十問質問をする」


「ふーん、それで?」


「二十問が終わった時、私は君が思い描いた人物が誰か当ててみせよう。当たれば僕の勝ち。外したら君の勝ちだ」


「待って、それって途中で変えたら意味ないんじゃない」


「それも全て私には分かる。ズルは無しだよモーラちゃん」


 名乗っていないはずなのに自分の名前を言い当てられたことで、女エルフが少し狼狽える。いや、きっと寸前までの会話から聞き出したのだ。

 それにしても気味の悪い妖精である。


 女エルフの額を脂っこい汗が流れる。

 やりにくそうに彼女は眉間に皺を寄せた。


「私がその勝負に勝ったら、この扉を開けてくれるのね?」


「もちろん。その代わり、負けたら開けることはできない。君が勝つまで、永遠にこのゲームに付き合ってもらうよ」


「……いいわ、やってあげようじゃない」


 交渉成立という感じに、ぱんと扉の妖精が手を叩いた。

 それじゃぁ人物の顔を思い浮かべてと促されて女エルフは顔をしかめた。


 数秒の間の後、いいわよと彼女は扉の魔人に応える。


「けっこう意地悪な顔を思い描いたけれど、分かるかしら?」


「扉の妖精はなんでもお見通しさ」


「言うじゃないの」


「それじゃ、さっそく行こうか――」


 当てられるはずがない。たった二十問の質問で、頭の中に思い描いている人物が誰か、特定できるならばそれは魔術の類いだ。

 それでなくても、目の前の扉の妖精は女エルフとは初対面。


 彼の知らない縁者の顔を思い浮かべれば当てられるはずがない。

 できるはずがないのだ。頭に思い描いた人物が誰か当てることなんて。


 そう思っていた。


「というか、二十問も要りませんね」


「……え?」


「もう分かりました。当ててみせましょう」


「ちょっと、嘘でしょ? 分かったって言うの!? はったりでしょ!?」


 不敵に笑う扉の妖精。

 その自信満々の口ぶりと反応に、女エルフが言葉を失う。まだ質問もなにもしていないのになんで頭に思い浮かべた人物がわかるというのか。


 間違いない、これはなにかしらの魔法――。


「貴方、どういうつもり!? 魔法を使うならそれは卑怯でしょ!!」


「いえ、魔法なんて使っていませんよ。それに、卑怯なのはこんな顔を思い浮かべた貴方でしょう。酷い人ですね、まったく」


「……嘘でしょ? あなた、本当に分かっているの?」


「えぇ、もちろん。妖精はなんでもお見通しなんですよ」


 クククと笑った妖精がすっと指先を上げる。その指先に吸い寄せられるように、女エルフパーティの視線が集まる。


 本当に、妖精は女エルフの心を読んだのだろうか。

 だとして女エルフはいったい誰を思い描いたのか。

 卑怯な顔とはいったいどんな相手なのか。


 そんな疑問が錯綜する中、扉の魔人はおもむろに指先を自分の鼻頭の前に向けた。

 それは、そういうポーズでもなんでもない――。


「モーラさん。貴方が思い浮かべたかは、私ですね?」


 自分自身を指し示すためのものだった。


 女エルフパーティに衝撃が走る。それは、扉の妖精が見事に女エルフの思考を読んだことへの衝撃ではない。むしろそれは女エルフ側の問題だった。

 それはそうだろう――。


「セコッ!! モーラさん、セコいですよ!! なんですか、クイズを出す相手の顔を思い浮かべるとか、セコすぎますよ!!」


「まさか自分の顔を思い浮かべているなんて思わないだろうって、そういう浅ましい発想ですかお義姉ねえさま!! ちょっとがっかりです!!」


「……だぞ、それはちょっと、恥ずかしいんだぞ」


 頭が良いようでいて、誰もがやりそうなセコい行為。

 誰も知らないニッチな人物を思い描くよりも、よっぽど性質の悪い奴であり、いざ当てられてしまうと赤っ恥も良いところな子供じみた策略だった。


 いやまぁ、好きな人物の顔を思い描けと言われた訳なので、別にそれが目の前の男でもそれは全然問題ない。

 問題ないが……当てられてしまうとこのうえなく恥ずかしかった。


「嘘でしょ。そんな一発で当てるとか、ないじゃないの」


「まぁ、このゲームやると、だいたい一番最初に私の顔を思い浮かべますよね。ぶっちゃけ、すぐに人の顔を思い浮かべろって言われても、ぽっと出て来ませんから」


 当たっているし、割とメジャーな展開の奴だった。

 それだけに、そんな皆が当たり前のようにやっちゃう行為を「アタシってば頭良いわ!」と、軽くやってしまったのが女エルフにはショックだった。


 たまらなくこっぱずかしかった。


「……くっ、殺せっ!!」


 その場に蹲ってその真っ赤な顔を隠す女エルフ。

 どうやら、最初の勝負は接戦展開になる間もなく、女エルフの負けのようだ。

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