第1098話 どエルフさんと解錠技能
【前回のあらすじ】
視点戻って女エルフパーティー。
男騎士の偽物についての情報や、都市に立ちこめている青い雷雲について話を共有した女エルフ達は、しかし未だに水路を彷徨っていた。
進めど進めど見つからない出口。
敵の追跡をまくために回り道をしているにしても、ちょっと時間がかかり過ぎではないだろうか。かれこれ二刻ほど小さな機械蜘蛛に連れ回されて、ヘイトが溜まった女エルフ達。
そんな折り、ようやくボートが停止する。
しかしながら停止したのは水路のど真ん中。
外の気配をまるで感じない場所だった。
本当にここから外に出られるのだろうかと訝しむ女エルフ達。そんな彼女他達の視界に、古めかしい鉄の扉が入ってくる。
はたしてそれは本当に出口なのか。さらなる深淵への入り口ではないのか。
ここの所、シリアス展開ばかりで落ち着かない感じの本作ですが、今週はちょっと砕けたギャグ展開――の予定。
「なんか、ここ最近本当に粗くなってきたわね。大丈夫?」
すみません、実はめちゃくちゃ急いで書き溜めをしています。
新作をゆっくり書きたいなと思いまして。二ヶ月分ほど、固め書きしているんです。なので、勢い優先でお送りさせていただきます。
などと、ちょっと読者のみなさんに筆が粗いのを謝りつつ、今週もどエルフさんはじまります――。
◇ ◇ ◇ ◇
「うーん。これ、どうなってるのかしら。取っ手がないんだけれど」
「……見るからに扉ですよね? えっ、これ、本当にどうなっているんだろう」
「うーん、困りましたね。こういうのに詳しいケティさんは、こんな時に限っておねむですし」
「だぞ……だぞ……もう食べられないんだぞ……」
下水道の中程、ゴムボートを下りた女エルフ達は、外へと続いていると思われる銀色の扉の前で立ち尽くしていた。
扉の開け方が分からなかったからだ。
冒険の中で、時たまこういう解錠されていない扉には遭遇する。
古代遺跡のダンジョンなどは現代文明と異なる仕組みで動いていることがあり、魔法で開け閉めする扉や、特殊なからくり機構など、いろいろな扉があるのだ。
そういうのを突破するのが盗賊職やワンコ教授のような技術職なのだが――。
「ケティ。ねぇ、ケティ、起きられないかしら?」
「だぞー、無理なんだぞー、もう寝たいんだぞー」
女エルフパーティの頼りになる技術職は、これこの通り夢の中。ちょっと解錠できる状態ではなかった。
こてりと
その幸せそうな寝顔を無理に壊す気には女エルフもなれない。とはいえ、こんな下水道の中でもたもたしている場合でもない。
悩んで女エルフ。しょうがないパンと手を叩いた。
「久しぶりにやってみるか」
「え、お
「まぁ一応ね。ケティがパーティに参加するまでは、私がそういうのやってたからね。結構、魔法使いがそういう役を兼任してるパーティって一般的よ」
そう言って、女エルフがローブの中から箱を取り出す。
四角い木箱。蓋を外せばその小さな箱の中からごろごろと道具が出てくる。
箱の大きさから考えて、ちょっとあり得ない数。
金槌にノコギリ、ちいさな針金にどう使うのか分からない水銀まで。ちょっと魔法使いの持ち物とは思えないバリエーション。
多くの道具を取り出した女エルフ。
だが、最初に彼女がしたことは――意外にも【触診】だった。
まずは彼女の専門領域、魔法による解錠が可能かどうかの確認に走った訳だ。
扉の中央に手を当てて、目を閉じる女エルフ――。
「あ、これ、魔法で動くタイプだ」
「えぇっ!? もう分かっちゃったんですか!?」
「いやだって魔法系はこの手の構造の中で一番分かりやすいからね。原動力になる魔力炉がどこかにあるから、ちょっと魔力を通わせれば一発よ」
なんともプロっぽいセリフだ。
尊敬の視線を向けてくる新女王にむず痒そうに女エルフが頬を掻く。
実際、ちょっとびっくりするくらい鮮やかな手際だった。
「すごいです、お義姉さまにこんな才能があっただなんて」
「まぁね。けど、馴れればこんなのそんなに難しいものじゃないわよ。貴方も、コツさえ分かればすぐできるようになるわよ」
「そうでしょうか」
「いえ、これは立派なスキルですよモーラさん。そんな謙遜しては嫌味になってしまいますよ」
「あら、アンタが素直に私を褒めるなんて珍しいわね、コーネリア」
女エルフが扉に手を当てる後ろで、そのやりとりを眺めていた女修道士。
同じ後衛魔法使い。
知恵働きがメインの彼女には、女エルフのスキルに思う所があるようだ。
本人はスキルを持っていることをなんでもないように言うが、女修道士のようにできない人間もこうして存在している。
そう考えれば、たしかに謙遜は嫌味だったかもしれない。
「やはり天稟の問題ですよ。私には、そういうことをする才能がなかった」
「ちょっとやめてよ、むず痒いわね」
「そうやって、こっそりと扉を開けて人の私生活を盗み見しようとするスケベなテクニック。なかなか習得しようと思えるものではありません」
「おい」
「加えて、その迷いのない動き、よっぽどそういうことをするのが好きでないとできない手つきです。本当にいやらしい」
「やめろや。たしかにそうかもしれんけれども。ほめられんことをやっているじかくはあるけれども。そういうんじゃないから」
「流石ですねどエルフさん、さすがです」
違った。
いつもの鮮やかなどエルフ弄りだった。
褒められて嬉しくなったのも束の間のちゃぶ台返し。
だから違うって言ってるでしょうがと女エルフが叫ぶ。
その時だ。まるでそんな彼女の怒りに感応するように、突然扉が明るく発光したかと思うと甲高い電子音が辺りに木霊した。
ラッパの音を高くしたようなその音色に、ひゃぁと女エルフが目を丸める。
すぐさま彼女は扉から手を話すと杖を手にして構える。
「やばい!! コーネリアが変なこと言うから、魔法が誤動作したじゃない!!」
「えぇ?
「しておらんわい!! お前はこのままこの下水道から出られなくなってもいいのか!! えぇいもう、さっきから本当に……」
「言い争っている場合じゃないですよ二人とも!! 見てください扉に人影が!!」
新女王の言葉に、言い争っていた女エルフと女修道士が振り返る。
銀色の扉にいつの間にか浮き上がっていたのは人の姿。
それほど身長は高くない。スクーナ族のようにも見えるフォルムのそいつは、腕を組んでぷかぷかと揺れている。頭にはなにやら大きな白い帽子。
そして、絶妙に彫りの深い顔。
砂漠の民のような陽気な笑顔を振りまいたそいつは、魔力を通した女エルフに視線を向けると、いやに陽気な笑顔を振りまいた。
「やあ、私は扉の妖精です」
「……扉の妖精?」
「この扉を通りたいですか? でしたら、ひとつ私とゲームをしましょう。なに簡単ですよ。貴方はただ頭の中で、知っている人物の顔を思い浮かべればいいだけ」
その人物が誰なのか、私が当てて見せましょう。
そういうと謎の扉の妖精は不敵に口の端をつり上げるのだった。
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