第1097話 どエルフさんとさらなる深淵へ

【前回のあらすじ】


 ロ○コンから伝えられた、南の大陸の歴史に思わず敬服するキングエルフたち。

 真に人類の守護者たらんとする破壊神。そして、その思想に共感して長らくこの南の大陸を守護してきたロ○コン。彼らは決して今の人類の敵などではなかった。


 では、いったい誰がこの一連の陰謀を裏で操っているのか。

 見えない敵の素性にやきもきとするキングエルフたちオーカマ一行。


 南の大陸の各都市の上に渦巻く青い雷。

 封印されたELFやロボットたちはおろか、人類さえも振り回しているのはいったいどのような人物か。その正体をロ○コンたちもしらない。


 いやあるいは。

 ふと、この大陸の安寧を願う赤いロボットはとある名前を持ち出す――。


「デラえもんくんなら、きっと、何か知っているかもしれない。そもそも、彼は僕たちとの戦いにも消極的だった。今も僕たちとの戦いに胸を痛めているはず」


 知恵の神陣営の都市、密林熱帯都市ア・マゾ・ンのマザーコンピュータ。

 デラえもん。


 しかしながら、彼こそが男騎士達に破壊神たちの行いを訴えかけ、今回の潜入ミッションを頼み込んだ張本人。明確に破壊神側を敵視している存在であった。


 どうにも、話が食い違う。

 既にデラえもんは黒幕の手に落ちてしまったのか。

 それとも、彼こそが今回の事件を裏でたぐる存在なのか。


 オーカマ陣営とロ○コンの接触により、また思わぬ情報が見えてきた所ではございますが、ここでそろそろ本来の主人公達に視点を戻します――。


◇ ◇ ◇ ◇


 所変わって、ここは下水道の中。

 相変わらず暗く清潔な水路の中を、女エルフ達は小さい機械蜘蛛に誘われるまま、奥へ奥へと進んでいた。


 しかしながら――。


「ねぇ、まだ出口に着かないの?」


「なんだか随分長いことうろついていますよね」


「だぞ……だぞ……もう疲れたんだぞ……」


「ケティさん、無理せず寝てください。何かあったら起こしてあげますから」


 少しばかり時間がかかりすぎている。かれこれ、穴に入ってから二刻弱、女エルフ達はダイナモ市の地下を彷徨っていた。


 いくら敵の追跡を撒くためといっても周到すぎる。ここまでするか、やらなくてもいいんじゃないかという倦怠に、女エルフ達は陥っていた。

 船の上というのは意外と体力と神経を使うモノ。それでなくても、彼女達は宿屋に入って休もうかとしていた所だった。不満を抱くのは仕方が無い。


 そこに加えて――。


『もうしばらくお待ちください、現在ルート再検索中……』


「さっきからそればっかりじゃない」


 この要領の得ない機械蜘蛛の返答である。

 ヘイトが高まっていくのは仕方がなかった。


 まさかのこのサイバーシティでタクシーたらい回しの刑である。もうすぐ着くと言われ続けて、延々と街を巡り続ける辛さよ。女エルフ達の堪忍袋の緒も、そろそろはち切れそうな塩梅であった――。


「しかし、ティトさんがまさか偽物だっただなんて」


「全然気がつきませんでしたね」


「まぁ、一番長く一緒に居る私がすっかり騙されるんだから無理もないわよ。もしかすると、このメンバーもすでに誰か入れ替わっているのかも」


「やめてくださいよお義姉さま!! 縁起でもない!!」


「そうですよモーラさん、私たちは大丈夫――のはずです。そこはどエルフの絆を信じましょう。心配しなくても、モーラさんのどエルフ力について行けるのは、本物の私たちだけですから」


「なにがどエルフ力じゃい、そんなもんないわ」


 しかしながら、今更言われてみると、確かに偽物の男騎士は反応が控えめだったような気もする。


 このパーティのノリに微妙についていくことができなかったということだろうか。

 なんにしても、そういう細やかな違いに気がつけなかったことを、女エルフは素直に恥じた。


「まぁ、ティトの事だからきっと大丈夫だと思うけれど」


「これまで結構なんどか死にかけていますものね」


「というか、何度も死んでいるような」


「だからまぁ、今回も大丈夫でしょう。そのうちきっと、ひょろっと合流してくるわよ。それよりも、今はこの大陸に渦巻いている陰謀をなんとかしなくちゃ」


 女エルフが話題にしようとしたのは、女修道士シスターと遭遇した例の破壊神の盟友のことだ。


 伏せるように言われていた話だったが、もうこの情報は共有しておいた方がいいのかもしれないと、彼女は思いきってパーティーメンバーに話を切り出していた。


 ギアススクロールに女エルフは署名していない。

 話すか話さないかは彼女の裁量だ。もちろん、先ほど女修道士が言ったように、既に仲間内に男騎士のように敵が紛れ込んでいる可能性もある。


 だが――出し惜しみしている状況ではない。


 破壊神の都市を探る限り、いつまた同じような展開に巻き込まれるか分かったモノではない。仲間達を守るためにも、情報は共有しておくべきだった。


「いったいなんなんでしょうね、その都市の空に蔓延している青い雷って」


「ヨシヲさんということはないですよね」


「アイツらの移動した方向は南と真逆だしね。まぁ、兄さんの船に乗って渡って来ている可能性もあるけれど、たぶん違うでしょ」


 正体が分かったところでどうとなる訳でもないが、当面はそれをなんとかするために行動するしかない。するしかないが、やはり何をすれば良いか分からない。

 何か明確なヒントがあればいいのだが――。


 異邦ということもあるが、文明レベルが違い過ぎていまいちどういう行動を取ればいいのか判断しかねる女エルフ達。なんとか危機は脱したが、本当にやらなくてはいけないのは、もっと根本的なことではないかと首を捻る。


 ふとその時――。


『目的地に到着しました。おつかれさまでした』


「あら、到着したの?」


 小さい電子蜘蛛が声を上げる。ただ、女エルフ達はその場所にちょっときょとんとした顔をする。出口も何も、そこは下水道のただ中。下界の雰囲気を少しも感じない暗い水道の上だったのだ。


 どうなっているのだろう。

 女エルフと女修道士シスターが顔を見合わせて首をかしげる。

 もう着いたのかと起き上がるワンコ教授。そして、どうしていいかわからず、おろおろと事の成り行きを見守る新女王。


 動かなくなった機械蜘蛛から視線を逸らした女エルフ。どれどれと、彼女はその指先に得意の火炎魔法で炎を灯すと、じっとその暗い闇の向こうを覗き込んだ。

 はたしてそこには――。


「……あ、なんか扉があるわね。ちょっとさび付いてるみたいだけれど」


「そこが外に繋がっているんでしょうか」


「だぞー、どこでもいいんだぞ。はやく、ちゃんとした場所で寝たいんだぞ」


「もうちょっとの辛抱ですよケティさん」


 闇の中に銀色の輝く両開きの扉が見えた。


 人の背丈と同じくらいあるそれは、文化の違う街にあっても扉だと判断できた。

 ただ、これまで彼女達が見てきた構造物のなかでも、一等古めかしいものだった。

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