第1082話 どエルフさんとゾンビパニック

【前回のあらすじ】


 出撃メンズエステ隊!!


「いや、わからんやろ元ネタ!!」


 男二人に女三人という編成でおさっしいただきたい。いただきたいけれど、作者も実はちゃんと履修していないから、これで合っているかわからない。


「履修しろ!! パロはせめて履修してやれ!!」


 という訳で、キングエルフ率いる機械鎧チーム総出撃。エースの少年勇者と仮面の騎士だけの活躍かと思いきや、戦乙女にアシガラ、第四王女もちゃんと活躍するたいしたチームの仕上がりぶり。急造チームにしては、なかなかの初陣であった。


 彼らのサポートもあり、デビルほにゃンダムに肉薄したキングエルフ。

 ほとばしるエネルギー!! 回転する身体!! 繰り出される必殺技!!


 デビルほにゃンダムを倒すには、やはり同じパロ元でなければ――。


「喰らえ!! エルフリアン柔術奥義!! 扇風機ぐるぐるアターック!!」


「「微妙に配慮しやがった!!」」


 けれども、流石に超級覇王○影弾で倒すのはまずい。

 微妙に配慮する生身ユニット実質東方不○なキングエルフなのだった。


 もう、なんでもアリだなこのエルフ。こいつが世界救うんじゃないの……。


◇ ◇ ◇ ◇


 キングエルフがデビルほにゃンダムと交戦しているその横で、男騎士と合流した女エルフル。あまりの超展開にただでさえ乏しい知性が追いついていないのだろう、放心するばかりの男騎士は、女エルフをぽかんとした顔で受け入れた。


「ティト!! 大丈夫!?」


「あ、あぁ、モーラさん。俺は大丈夫だ」


「そう!! よかったわ!! それじゃエリィは?」


「まだ気絶している……。だが、命に別状はなさそうだ」


「……なんとかなったか。ほんと、あのアホ兄貴にしては、役に立ってくれたわね」


 男騎士の背中で寝息をたてる新女王。

 何かあってはいけないと気にかけていた女エルフは、そんな彼女の容態にほっと息を吐いた。とはいえ、ピンチが終わった訳ではなかったが。


 雷撃魔法を喰らってしびれていた銀色のスケルトンたちが次々に起き上がる。

 麻痺の効果が切れたらしい。


 再び敵意をむきだしにしてこちらに向かってくるモンスター達に、女エルフは雷撃を、男騎士は斬撃を加えた。

 うかうかとしている場合ではない。


「モーラさん、コーネリアやケティとすぐに合流しよう」


「……えぇ、そうね」


「二人はいったいどこに居るんだ?」


「おそらく、ホテルの客室だと思うわ。この様子じゃ、きっと二人も気がついて何かしら行動していると思う」


 そう言って、女エルフが視線を向けたのは、この階までやってきた上下に移動する箱である。その仕組みを、なんとなくではあるが彼女は把握していた。

 入り口上部に表示されている数字。

 あれがおそらく階数。


 この宿を利用している客が何人居るかは不明だが、そう宿泊者は多くないように彼女は感じていた。もし、ワンコ教授たちが逃げおおせているなら――。


「たぶん、二人は一階に居るわ」


「分かるのか?」


「その施設内を移動する箱なんだけれど。今居る階数を上部のランプに表示しているみたいなの。それを信じれば、今それが止まっている場所にコーネリア達は移動しているはずだわ」


 ランプが指し示す階数は一階。

 もちろん、女修道士シスターたち以外の人間が、移動に使ったことも考えられる。だが、確率としては一番高いだろう。


 すぐに女エルフは、それを動作させるためのボタンを押下する。

 押せばたちまち点灯するボタン。ほんの数度しか使用したことのないアイテムだというのに、女エルフはその些細な反応の違いから、どうやらそれが壊れているということを瞬時に察した。


 同時に、彼女は次の一手を考える。


「ティト。ちょっとどいていて」


「うん? あぁ……」


「ウォーターソード!!」


 四角い部屋の入り口前、分厚い両開きの扉に立って女エルフが魔法を繰り出す。

 繰り出したのは超高圧の水流をたたきつけて物体を切り開く魔法だ。


 戦闘においては使いづらくて出番のないそれだが、設備の破壊やちょっとした工作など、時間的な余裕がある状況ではこれほど頼もしい魔法はない。


 分厚い扉を無理矢理にこじ開ける。人一人分の大きさにさっくりと切り取られた鋼鉄の板が倒れ込んでくるのを、これまた水魔法を使ってうまくコントロールすると、彼女は一階へと続く穴をのぞこんだ。


 おそらく箱を吊していたのだろう。メタリックな色味をした縄は、ちょうど女エルフ達の目の前で切れていた。


「ここから降りましょう」


「……なかなかの高さだな。モーラさん、飛翔魔法は使えたな?」


「なに言ってるのよ。そんなの魔法使いにとって基礎の基礎よ。聞くまでもないわ」


 ほら行くわよと女エルフが男騎士を誘う。

 すると、その背中で「……うん」と、新女王が小さな声で呻いた。どうやら、意識を取り戻したらしい。


「……ここは? あれ、お義姉ねえ様に、ティトさん。どうして」


「よかった。無事に目が覚めたみたいね」


「あれ。あの銀色のスケルトンはどこに」


 混乱する新女王。そんな彼女に女エルフは近づく。

 すぐさま、男騎士は新女王を背中から下ろすと、彼女達から離れた。少し男騎士に申し訳なさそうにしながら、女エルフが新女王の背中を撫でる。


「まだアイツらとは交戦中よ。これからコーネリアたちと合流するために、下の階に降りる所なの」


「……え? いや、けど、こんな高い所から、どうやって」


「さっき私たちがここまで上がってくるのに使った箱があるでしょう。あそこが通っている空間がちょうど空洞になっていてね。そのまま一階に繋がっているのよ」


「そこを降りるってことですか?」


 階段から落下した恐怖がまだ残っているのだろう、新女王が肩を抱えて怖がる素振りを見せる。これはすぐにはいかせられないと、女エルフが男騎士の方を見る。

 すぐに視線の意図を察した男騎士が、女エルフと入れ替わりに洞を覗く。


 その暗い縦穴を眺めて、「深いな」と彼はその頬に汗を滲ませる。

 銀色のスケルトンは今は女エルフの魔法で停止しているが、いつ動き出すやも分からない。もたもたとしている場合ではなかった。


「モーラさん、俺が先に行く。問題ないな」


「えぇ、お願いしても問題ないかしら、ティト?」


「あぁ、それより、エリィをよく見てやってくれ。どうもまだ、混乱しているみたいだ。こんな事態になってしまっては無理もないが」


「待ってね。今、飛翔の魔法をかけるから」


 怯える新女王にそっと耳打ちして、女エルフが立ち上がる。心配そうに新女王が見つめる中で、彼女は魔法を編むと男騎士の背中にそっと手を当てる。


「……所で、ティト?」


「どうした、モーラさん」


「あなた、いつからエリィのことをエリザベートじゃなくてエリィって呼んでいたの? 律儀で融通が利かなくて、人に対して馬鹿馬鹿しいくらいに敬意を払う、貴方らしくないけれど?」


 男騎士の不意を突くように、女エルフが指摘した。

 何を言っているんだと聞き返す間もなく彼女が魔法を発動する。

 男騎士の背中にあてがわれた腕が、放ったのはけっして飛翔魔法ではない。より単純で、そして、威力のある攻撃魔法。


 衝撃に弾かれて男騎士の身体が洞の中に飛び込む。


「……モーラさん!?」


「その顔とその声で私の名前を呼ぶな、この偽物め!!」


 女エルフが冷たい顔で言い放つ。その言葉をかけた相手は、決して空を飛ぶことなく、暗い穴の中に吸い込まれていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る