第1080話 キングエルフさんと生身ユニット

【前回のあらすじ】


 女エルフ達を強襲した機械の巨人。

 その正体は、人間が搭乗しなければ動かすことのできない機械鎧を、無理矢理無人機化しようとした結果生まれた最悪の殺戮兵器。


 デビルほにゃンダムだった。


 そして、その正体は機械鎧のマニュアルに載っていた。

 やはりマニュアルこそ正義。マニュアルは全てを解決してくれる。


「ファンタジーなのに、なんて夢のない問題の解決方法」


 いきなり感覚でロボット動かせる方がどうかしていません?


 デビルほにゃンダムの情報についてはともかく。このまま無視していい相手ではないことは分かったオーカマクルーたち。南の大陸での活動のために、まずはダイナモ市を陥落させなくてはいけない。そのためにも、デビルほにゃンダムを倒す。


 ここに意思統一を果たしたオーカマクルーたち。ついに、英雄ではないただの人類が、神へと挑む戦いがはじまった。


 はたしてキングエルフたちは、女エルフ達も圧倒したデビルほにゃンダムに勝つことができるのか。人類の意地を見せつけることができるのか。


「あの、そろそろ主役に視点を戻してくれると助かるんですが……」


 頑張れ宇宙戦艦オーカマ!! 負けるな宇宙戦艦オーカマ!!

 君たちの勇気が、人類を救うと信じて!!


◇ ◇ ◇ ◇


「オラァッ!! でけえなりしてるだけあって、小回りは利かねえみてえだな!! それならこっちは手数で押し切らせてもらうぜ!!」


「セイソさん、弾薬には限りがあるんですから、攻撃は慎重にしてください!! あくまで僕たちは、キングエルフさんがコクピットに突入するまでの囮!!」


「わかってらぁ!! そういうお前も気をつけろよ坊や!! おもりはしてやれねえぞ!!」


「言われなくても、分かっていますよ!! そんなこと!!」


 機械の巨人の周囲を飛び回り翻弄する二つの機体。ピンク色をした小柄な機械鎧は、意外や意外かなり善戦していた。

 まさしく仮面の騎士が語った通り、鈍重な巨大機械鎧に対して手数で勝っている。小さすぎるからこそ、射程に捉えることが難しく、反応速度が追いつかない。


 デビルほにゃンダムの巨躯を隠れ蓑にして戦う二人。体格差を見事に戦術利用した玄人染みた戦い方であった。


 やはり生粋の戦士はどのような戦い方をさせても強いということか。

 初陣でここまで見事な戦いをしてみせるとはと、キングエルフはもちろん彼らを拾い上げた艦長、オーカマクルーまでもがその戦いぶりに息をのんだ。


「すごいものだな。まるで時代の寵児とも言うべきパイロットを、二人も同時に拾ったような気分だよ」


 そして、意外なことに二人の息が思いのほか合っている。


 仮面の騎士が正面に切り込んだかと思えば、その横で少年勇者が次の攻撃の準備をしている。デビルほにゃンダムが仮面の騎士が駆る機械鎧に照準を合わせようとしたところで、その刺客に少年勇者が切り込んで邪魔をする。

 これを交互に繰り返し、まったく敵に自分たちを攻撃する機会を与えない。


「……やってくれるな。私も負けてはいられない」


「ちょっと兄さん!! どういうことか説明しなさいよ!! なによ、デビルほにゃンダムって!!」


「フェラリア!! ここは兄とその仲間達に任せろ!! お前はティトとその仲間と合流して、まずはこの場を逃れるんだ!!」


「任せろって……」


「いいから行け!! たまには、この私に兄らしいことをさせてくれ!!」


 その前にやるべきことがあるだろう。


 毎度毎度、現われる度に身内の恥ずかしい姿を周囲にさらして青い顔をしている女エルフとしては食い下がりたかった。けれども、確かにここは彼の胸を借りておいた方が良いかもしれない。


 不意打ちで、ろくに装備も調えられないまま脱出したということもある。

 別れてしまった女修道士、ワンコ教授のことも心配だ。

 なにより新女王。急に階段から飛び出した影響で気を失っているだけだと思いたいが、何かあっては申し訳ない。


 少し迷って、女エルフは決断する。


「……分かった。後は任せるわね、兄さん」


「任せろ!! この尻に誓って、お前達を守ってみせるぞ!!」


「誓わなくていいから、力も入れなくていいから!!」


 プリッ!!

 いつものように引き締まるいいお尻!!

 軽い冗談を交わして女エルフはキングエルフに背中を向けた。彼女は、まずは自分たちパーティの安全を優先することを決めた。


 と、その前に。


「そうだ!! もしかしたらこれ、使えるかもしれないから渡しておくわ!!」


「うん? なんだフェラリア……」


 ひょいと女エルフが投げて寄こしたのは、昼間彼女が破壊神の盟友から渡された謎のアイテム。エルフの中のエルフが持つことで、力を発揮すると言われている武器。

 エルフの銃であった。


 長い筒状になったそれを投げ渡されたキングエルフ。

 彼が持てば何か起こるかもと期待した女エルフだったが、特に何か、キングエルフの身にもエルフの銃にも変化はなかった。


「これはいったいなんだフェラリアよ?」


「……うーん、なんかね、エルフを選ぶアイテムらしいのよ。貰った人が言うには、エルフの中のエルフが手にすれば、凄い力を発揮するらしいんだけれど」


「なるほど。つまり、私はまだ道半ばということか。分かっているではないか」


 才能を認められなかったのに、ポジティブに返すキングエルフ。

 間違いなくコイツだと思ったんだけれどなという感じで頭を捻る女エルフ。ただ、返して貰っている時間も無い。

 そして、自分よりも彼が持っている方が、何かと都合が良さそうだ。


「とりあえずそれ、預けておくわ。きっとこの戦いの切り札になるアイテムだから、くれぐれもなくさないでね」


「あぁ、任せろ」


「あと、死ぬんじゃないわよ。寝覚めが悪くなっちゃうから」


「そこは素直に、死なないでお兄ちゃんでいいんだぞ、フェラリア」


「うっさい○ね!!」


 きつい言葉を残して男騎士達が待つカプセルホテルの扉に向かって飛ぶ女エルフ。それをニヒルな笑顔で見送るキングエルフに、まるでその隙を逃さないとばかりに触手が一斉に躍りかかった。


 空中戦で静止する奴がいるか。

 もらったとばかりに飛び交う触手の打撃を、しかし危なげなくキングエルフは躱す。しかも視線も向けず、完全に気配だけでそれを躱しきってみせたのだった。


 その肩から、強キャラらしく青いオーラが立ちのぼる。


「ふふっ、運が悪かったなデビルほにゃンダム。今の私は、肉親から珍しく頼られてちょっとばかり機嫌がいいぞ!!」


 そんな言葉と共に再び飛翔するキングエルフ。

 青い弾丸と化した空飛ぶエルフは、野太い触手を避けながら、その本体――デビルほにゃンダムのコクピットめがけて疾走するのだった。

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