第1066話 ど師匠さんたちとセンシティブワード

【前回のあらすじ】


 大浴場で魔法使いとおぼしき女性二人と遭遇した女エルフたち。

 傷心かそれとも慰労か、なんにしてもお疲れの様子の女魔法使いたち。どうやら結構な年齢のようだが未婚らしい。


 独り身でも社会的にそこまで五月蠅く言われない異世界。

 だが、それでもやっぱり本人達は気にしているらしい。出てくる愚痴は、行き遅れ、お見合い、花嫁修業とちょっと艶めかしい。


「いや、艶めかしいとか言ってやんな!! 重要な話でしょう!!」


 流石は物語を通して、独身の悲哀を体現しているヒロイン。

 言うことが違う。


 そう、別に今のご時世、結婚するもしないも自由。

 たとえ本当は結婚できないだけだとしても、独り身であることをとやかく言われる筋合いはないのだ。人生は一度きり。自由に生きる権利が僕たちにはある。


 だから大丈夫。大丈夫なのだ。

 未婚だというのに夫婦のいちゃラブ小説を書くことになってしまったとしても、なんの問題もないのだ――。


「いや、それは問題あるでしょ?」


 現在、頑張って書籍化作業継続中。

 具体的には、三週間くらい向こうの原稿やって、二週間でストック何週分か溜めて、他の非商業の原稿もやってという感じでやりくりしているkatternです。

 今週もちょっと内容が粗いかもしれませんがご容赦ください。


 という感じで、謎の女刺客二人にどう対応するのか。

 いきなりセンシティブワードをぶっ込んでくる女魔法使い。はたして、吹き出してしまった女エルフたちの運命やいかに……。


◇ ◇ ◇ ◇


「イタタタ。なによ、ふにゃふにゃの棒だからたいしたことないと思ってたのに、いざ受けると滅茶苦茶痛いじゃないの」


「しなるのがいけないんですかね。こう肉に食い込むような痛さがあります」


 風呂場でケツをしばかれた女エルフ達。

 話によってはけっこうなお色気シーン。陵辱展開にも見えなくはないが、そこは健全安心どエルフさん。一糸まとわぬ姿でケツをしばかれた割には、特に色めいた悲鳴も上がらなければ、物悲しいセリフもなかった。


 出るのは悪態ばかりである。

 流石だなどエルフさん、さすがだ。


「いきなりあんな直接的な言葉を言うかしら。ギャグにしたって、もう少し躊躇があるわよ」


「モーラさんでもあんな直接的な表現はしませんよね」


「私でもってなんだ。どういう意味だ」


 女エルフの普段の行いはさておき。

 確かに、いい歳をした女がいきなりセンシティブワードを叫ぶインパクトはギャグにしたって強烈だった。絶妙の間合いで叫んだ魔法使いの女だが、コントにしたってもう少し恥じらう素振りがあってもいいはず。


 芸に人生を賭けている女芸人ならいざしらず、長期連載作品に登場するゲストキャラの行動としてはちょっと破天荒な行動。


 話を聞いた感じ、どうも女エルフたちと同じような匂いがする女魔法使いたち。

 彼女達のやって来た世界も、女エルフ達の世界とそう変わらず、雑に下ネタが飛び交いヒロインが汚いギャグをやっているなら、センシティブワードを咄嗟に叫ぶのも理解はできる。


 どうなんだろうかと女エルフが視線を向ければ――。


「嫌ですわこんな役回り!! 私、こんなこと言いませんの!!」


「泣くな南条。もう連載も終わって、復活の目処もないのに弄って貰えるだけありがたいんだから。な?」


「それにしたってあんまりではありませんの!!」


「「……めっちゃ気にしてらっしゃる」」


 センシティブワードを叫んだ金髪の女魔法使いは、顔に手をあてて嘆いていた。

 その顔は「お風呂につかって温かいから」では説明できないほど赤面している。どうやら、ちゃんと恥ずかしかったらしい。


 羞恥心は死んでいなかった。

 それはそうだ、年頃の、しかもいろいろと気にしている女性に、ギャグとは言ってもあんな言葉を叫ばせるものではない。ネタにしたって、ちょっと配慮が必要な行動だった。


 黒髪の女魔法使いの胸にすがって泣く金髪の女魔法使い。

 黒髪の女魔法使いが「気にするなよ」と慰めるが、気にしない方がおかしいというもの。うわんうわんと泣く金髪の女魔法使いに、女エルフも女修道士シスターも、離れた所でやりとり眺めていた新女王もいたたまれない気分になった。


 誰だって、汚れ役なんてやりたくないもの。

 そんなことをほいほいやるのは――どエルフくらいである。


「うぅっ、確かに私は行き遅れの嫁ぎ遅れ、嫁のもらい手も怪しい女ではありますけれども。それにしたって、こんな扱いあんまりではございませんの。これでも、それとなく婚活パーティなどに参加しておりますのよ」


「うわ、それはそれでまた笑ってはいけない話が出て来た」


 そしてまさかの場外乱闘。

 まだコントは再開していないというのに、ちょっと濃い話が飛び出してくる。


 制裁は終わったのだからさっさとネタを再開してくれればいいのに。そうは思っても、鬼気迫る感じで取り乱す金髪の女魔法使いに物申すことが怖い。

 仕方なく、女エルフ達は話の行く末を見守ることにした。


「まぁ、流石にコント以外で笑ったとしても、ケツはしばかれないでしょ」


「分かりませんよ。そういうのもカウントするかも」


「お二人とも、真剣に悩んでいらっしゃるのに笑うのは失礼ですよ」


「だぞー、よくわかんないんだぞー」


 集まった女エルフパーティたちが、じとりとした視線を金髪の女魔法使いに向ける。コントが中断するや、途端に年頃の女性らしくなった金髪の女魔法使いは、恥ずかしそうに胸の前に腕を持ってくると、うっうっと詰まった嗚咽を漏らした。


「結婚願望、あったんだな南条」


「そういうんじゃありませんの。ほら、私、これでも貴族の一人娘ですから、家を潰すわけにはまいりませんのよ。だから、周りからもいろいろと言われて」


「別にいいじゃん。家くらい適当に養子を迎えれば」


「ごめんなさい嘘ですわ!! めっちゃ結婚したいんですの!! 素敵な旦那様も自分にそっくりな顔した女の子も欲しいんですの!! お家のためとか嘘ですわよ!! 自分のために結婚したいんですわ!! なにか文句おありでして!!」


 いえ、何も。


 あまりにも必死な返しすぎて、黒髪の女魔法使いも女エルフも何も言えなくなる。

 なるほど確かに、どことなく緩いというかやわらかい空気を纏った金髪の女魔法使い。女性の幸せなんて今や人それぞれ、何が幸せかなんて一概に言えない時代になってしまったが――。


「素敵な旦那様と甘々な新婚生活がしたいですわ!! 娘にかわいらしいお洋服いっぱい着せて肖像がいっぱい描いて貰いたいですわ!! なのに、なのに――どうしてお見合い上手くいきませんの!! あんまりですわー!!」


「なんだ、意外とこのねーちゃんかわいらしい人だな」


「ですね。できる女エリートみたいな感じで出て来て、乙女ですね」


 金髪の女魔法使いは、見た目以上に乙女だった。

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