第1065話 どエルフさんと婚活問題
【前回のあらすじ】
カプセルホテルにすっかりと順応し、さっさと大浴場へ向かう女エルフ達。
今日はもう完全に休息日。休むことを優先することに決めた彼女達は、大きな浴槽にその疲れを溶かすのだった。
都会のただ中と言っても大きな湯船はやはり人の心と疲れをほぐす。
すっかりと骨まで蕩けて気の抜けた顔をする女エルフ達。するとそこに、どうにもファンタジー世界と親和性の良さそうな顔の女二人組が現われた。
「あら。なかなか立派な浴場ではございませんこと。ほらほら、朝倉さん見てみなさいな」
「はしゃぎすぎだ南条。ったく、急な視察で疲れてんのによく動けるな」
なんだか百合百合しい会話を交わすいい歳をした女二人。
会話の内容から、なにやら同門の姉妹弟子という関係のようだが――。
「どうしよう、なんだかとんでもなく他人の気がしない」
「奇遇ですねモーラさん。私も、あの大きなお胸のお方に、なみなみならないシンパシーを感じてしまいます」
それよりなにより、女エルフと女修道士は二人の絶妙な立ち位置が気になった。
そう、気苦労の多いツッコミポジションと、その気の置けない親友ポジションに。
◆ ◆ ◆ ◆
「ふぅー、ノエルの奴もだいぶ落ち着いてくれたなぁ。俺が大陸放浪をしている間にすっかり大人になっちまってまぁ」
「あらあら、もしかして弟子が構ってくれなくなっちゃって悲しいんですの?」
「バカ言え、アイツに振り回されていた頃の生活を思ったら、そんなこと口が裂けても言えんわ。お前はアイツの無茶苦茶さを知らんからそういうことが言えるんだ」
「あらあら仲のよろしいことで羨ましいですわね」
「俺はお前ん所の方が羨ましいよ。カミュちゃんみたいな素直な弟子だったらどれだけ気が楽だったことか。アイツも、もう少し友達を見習って欲しいよ……」
そう言って、身体を清めた黒髪の女が湯船の中に入ってくる。
あふぅと気持ちよさそうにい声を上げると、すぐにそのまま肩までつかる。その隣にすっと座った金髪の女は、ゆっくりとした所作で腰までつかると、ふふと余裕のある笑みを浮かべた。
入浴の仕方に作法など何もない。
ただ、どちらもこの手の大浴場の楽しみ方をよく知っている所作だった。
無防備にいろいろな所を曝け出して、浴槽の縁に身体を預けて堪能する。あるいは、少し人目を気にして身を縮こまらせつつ静かに楽しむ。
大浴場という特異な場所にもかかわらず、実に画になる美人二人。
知らず女エルフと女修道士の視線が二人に惹きつけられる。
そんな彼女達の前で、ふふふと金髪の女の方が黒髪の女の肩に優しく指を這わした。不意打ちに、うんとちょっと艶めかしい声が黒髪の女の口から漏れる。
「お互い、弟子が自立してくれたおかげで、すっかりと暇になってしまいましたわね。気が楽なようでちょっと寂しいような」
「……だな。弟子中心の生活だったんだがこれからどうすりゃいいんだか」
「すっかり婚期も逃してしまいましたものね」
「魔法使いはちゃんとした所帯持つ方が珍しいだろう。まぁ、師匠を見てるとそんなこと言えないけれどもさ」
どうやらこの二人、見た目は随分若い感じだがそこそこ歳は行っているらしい。
うらぶれ女友達の傷心旅行――という訳ではなさそうだが、どうにもちょっとそういう悲哀が漂っていた。黙っていればもてそうなものを、よっぽど色々と事情があるんだろうなと、女エルフが心の中でそっと同情する。
ふとその時、そうでしたわと金髪の女の方が何やらはっとした顔をした。
「そういえば報告するのを忘れておりました。私、近々お見合いする予定ですの」
「……え、動物園のゴリラと?」
「違いましてよ!! お父さまが懇意にしている商家の方からの紹介です!! ちゃんとした貴族のご令息ですわ!!」
「こんな三十越えのゴリラおばさんつかまされるとは、そのご令息も災難だな」
「朝倉さん!!」
もうっと言って腕を振り上げる金髪女。
なんだかかわいらしい感じで彼女はやっているようだが、女にしてはちょっと野太いその腕が振り上げられると、確かに背筋がざわつくプレッシャーがあった。
これは確かに、お見合い相手がちょっと可哀想になる相手だ。
魔法使いにも色んな種類のがいるのねと女エルフ。よく見ると、黒髪の女の方も、けっこう立派な身体付きをしている。胸こそまぁ、女エルフと良い勝負だが、それ以外の部分は格闘家もかくやという仕上がりだった。
自分が言うことではないけれど、はたしてこんな二人に嫁のもらい手なんてあるのだろうか。ちょっと女エルフも心配になって女修道士と顔を見合わせる。
金髪の方は近々見合いが決まっているそうだが、どうなることやら――。
「大丈夫でしてよ、これでも私も貴族の娘。花嫁修業もちゃんと修めておりましてよ。ばっちりキメて見せますわ」
「貴族の花嫁修業ってあれか。朝と昼と午後三時に紅茶を飲めばいいんだよな。いいよな、貴族の奥さまはなんでもかんでも周りがやってくれて」
「そんな前時代的な貴族の奥さま、今時いませんわよ!!」
「うんじゃぁ、これから俺が夫婦生活の場面でどういう行動を取ればいいか質問するか答えてみろよ。お前の花嫁修業が間違ってないっていうなら、きっと答えられるだろう」
「いいですわよ」
随分と導入が長く回りくどくなったが、なるほど今度は質問タイプのネタかと女エルフが納得する。この手の質問映像ネタはお笑いの鉄板である。
しかもちょっと一般人と感性がズレていそうな天然ボケの気がある人間にボケさせるととんでもない威力を発揮する。
ただまぁ、映し方を間違えるといじめのようにもなってしまうので、そこの塩梅が難しい所でもある。
「これは質問の内容が重要よねコーネリア」
「そうですね。あまり回答者を傷つけず、彼女の面白さをシンプルに引き出すような質問でないといけませんから。なかなか、高度なお笑いネタを使ってきました」
どうやら目の前の二人も笑いの刺客らしい。
いいだろう、ならば受けて立ってやろうと女エルフと
それじゃ第一問と黒髪の女が指を立てる。
どーんと来なさいと胸を張る金髪女。
はたしてその最初の質問は――。
「旦那様が家から帰って来ました。奥さまの貴方は彼に尋ねます。お風呂にする、ご飯にする、それとも――なんでしょうか?」
「セーッ○ス!!」
「「ぶふぅううううう!!」」
淀みなく、そして、まったくぼかさない回答に思わず吹き出す女エルフ達。
不意打ちも不意打ち。全力の私にする宣言に女エルフの腹筋がはじめて陥落した。
力一杯、遠慮無しに言うのは流石にちょっと卑怯だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます