第1060話 どエルフさんと人類進化計画の真実

【前回のあらすじ】


 誘われるまま戦艦六三四の中へと歩みを進める女エルフ達。

 そこで聞かされたのは、イカスミ怪人工場本社で出会ったELFたちが破壊神ライダーンの支配下にないという真実。

 彼らは、人類を滅ぼそうとしているはずのライダーンに従っているのではなく、逆に反旗を翻していたのだった。


 どうしてそんなことになっているのか。

 知恵の神から受けた説明と食い違う状況に混乱する女エルフたち。

 その真実を、艦橋に待ち受けていた謎の神――おいどん男についに彼女達は聞かされる。


 破壊神と知恵の神が南の大陸に築き上げた六都市。

 それらは既に一度その機能を封印されて破棄されていた。

 それが再び稼働しているのは、破壊神ライダーンが人類創造をあきらめきれていないからではない。


「ライダーン、アリスト・F・テレス。二つの神々とは別なるものが、この神が作りし自動都市を勝手に再起動した。何かしらの目的を持ってな」


 全自動の機械都市。その再起動のスイッチを、何者かが動かしたのだ。

 神々の作ったシステムに対するハッキング行為。


 どエルフさん第九部 部絶対発○戦線 熱帯密林都市ア・マゾ・ン


 いよいよ物語の核心へと話は進み始めます。


◆ ◆ ◆ ◆


「……ちょっと待って、それじゃ、人類の危機でもなんでもないっていうこと?」


「破壊神ライダーンが、人類を滅ぼそうとしている訳ではないのですか?」


「まったく違う。そもそもライダーンは、その荒ぶる神性を不用意にふるわないようにその身を自分から封印している。彼がこの世界に顕現するためには、七柱のうちの二つの柱からの承認、あるいは彼の盟友である神々と従神の承認が必要だ。もしくは人類の危機を前にした限定顕現のみ」


 そんな神々の事情を女エルフ達が知るはずもない。

 言われて初めて知る破壊神の事情に二人は息を飲んだ。


 やはり神々は人類を見捨ててなどいなかったのだ。


 しかし、そんな神々を欺く程の存在とはいったい――。


「まさかこれも、魔神シリコーンの魔の手だというの?」


「いや、シリコーンではないだろう。彼は人類への影響力を高めることを目的としている。あくまで七つの柱に成り代わって、自分を人類にあがめさせるのが奴の目的だ。彼をあがめる人類を滅ぼすなんてことはしないはずだ」


「……だったら、その他の神々? やはりアリスト・F・テレスが、我々を騙しているということは?」


「それもないだろう。アリスト・F・テレスは神々の中でも最も聡明で、最も思慮深い者だ。まぁ、彼の興味が時に人類に災禍を呼び起こしたことは何度もあるが、基本的には彼もまた破壊神と同じ方向性だ。有事でもない限り、人類には不干渉を貫く」


 そんな神々を欺いて、いったい誰がこの都市を起動させているのだろうか。

 それも、現在進行形で露見していないのはどういうことだ。


 ますます分からなくなる状況に、女エルフと女修道士シスターが絶句する。

 そんな彼女達を気遣うように優しい視線を向けたおいどん男。彼はまたいそがしくリモコンを操作すると、街の上空に蔓延している青い雲をクローズアップした。


 一見すると雲にしか見えないそれ。しかしながら、よくよく凝視すれば、青い無数の電撃がそこには走っている。


「これが再起動された六つの街にはびこっている謎の現象だ。どうにもこの雲のように見える電撃の群れが機械都市を自在に操り、人類創造の実験がまだ続いているのだとこの地に住まうものたちに誤認させているらしい」


「……なんなのこれ」


「……電撃魔法。それもこんな大規模な。あり得ない」


「どうもこの雷自体が意思を持っているとしか思えない。長らく人類やこの大地の営みを見守ってきたが、このような現象は初めてだ。そして、おそらくではあるが、それ故に七つ柱の神々はこの事態を静観している」


「どういうことよ、人類の危機なんでしょう? そこは救いの手を差し伸べるべきなんじゃないの」


「……いえ、逆です。これもまた、人類が乗り越えるべき試練だと、そういう風に神々も考えているということですね?」


 そう補足したのは、神に仕える女修道士シスター

 彼女は神々が時に人類を試すべく、大いなる試練を与えることを理解している。


 これはつまりそういうこと。

 この試練に負けて人類が滅びるのならばそれはそれまで。彼らは人類の守護者でこそあるが、あまねく全てを救うわけではない。魔神シリコーンによる蹂躙と言った、彼ら神々の思惑から出た問題でもない限りそこは見守る。


 もちろん発端は神々かもしれないが、この南の大陸で人類を滅ぼす存在が生まれるというのならばそれはそれ。あの青色の雷をまき散らす生命体が、人類にとって変わるならばそれも受け入れようというスタンスなのだ。


 そう、女修道士は神々のここまでの行動を理解した。

 もちろん理解はできても納得はできない。悔しそうに彼女は唇を噛みしめる。神々の従順なる僕とはいっても、その理不尽さに反感を抱くのは仕方なかった。


 心配そうにその肩を撫でる女エルフ。

 悔しさに震える二人の女を前に、どこか冷たい表情でおいどん男が話を続ける。


「……もちろん、七つの神々がそこまでこの事態を重く受け止めていないということもある。人類で乗り越えることができる事態だと思っているからこそ放置しているという側面もあるのだ。しかしながら、我が盟友の名の下にこの世界が滅ぼされるのはいささか気分が悪い」


「なるほど。それでアンタはわざわざしゃしゃり出て来たと」


「そういうことだ。もちろん、解決するのはお前達人類だ。私はそれに関して、いささかの補足と助力をするのみ。その上で、お前達に頼みたい」


 手に持っていたグラスとリモコンをテーブルに置き、じっと女エルフを見つめるおいどん男。頭は下げない。誠意を込めた瞳を向けて、彼は女エルフ達に語りかける。


「我が盟友の築き上げた都市をどうかお前達の手で再び眠りにつかせてほしい。それをこの街に住まう者達も望んでいる」


「我々、イカスミ怪人工場はこのような争いをするためにライダーンさまの手によって生み出された訳ではありません」


「そして、おそらくですがアリスト・F・テレス側の陣営もきっと同じです。真実を知れば、彼らもまた再び眠りにつくことを選択することでしょう」


 どうか、この南の大陸の平穏を取り戻して欲しい。


 人類の危機を救うという話が、どうしてこうも大きく覆るか。

 女エルフと女修道士シスターは、思いもよらない願いを彼らから向けられ、しばし何も言えずに沈黙するのだった。

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