第1059話 どエルフさんと破壊神の盟友

【前回のあらすじ】


 全力モーモーダンスを終え、ネタも終わった女エルフ達。

 そんな彼女達の前に現われたのは黒塗りの潜水艦。神々の方舟の一つこと、戦艦六三四であった。


 破壊神の盟友から渡されたというそれは、女エルフたちがいる砂浜で妖しい光を放つ。さらにその上部ハッチから現われた謎のマントの人物は、神々にも等しい強力なプレッシャーをその肩から立ちのぼらせていた。


 いったい彼は何者なのか。

 そして、彼の目的はなんなのか。


 浮揚する戦艦六三四。

 まるで女エルフ達を誘うように照射された青い光の階段を、先んじてイカスミ怪人工場人事部長と案内役が戦艦に向かって歩み出る。


「さぁ、どうぞ乗ってください。中で詳しいお話はいたしましょう」


「……いったい、これは」


「言ったでしょう。ここでの出来事は他言無用と。そう、我々のミッションは、誰にも知られてはいけないんです。壊れてしまったライダーンさまにも、そして、敵対するアリスト・F・テレスにも」


 謎と神々の思惑が交錯する本章。女エルフ達を待ち受けているものはいかに。


◆ ◆ ◆ ◆


「ここは怪人工場の地下ドック。南の大陸には超巨大な地底湖が存在しており、そこを使ってライダーンさまの都市を繋いでいるんです」


「地上部はアリスト・F・テレスが放った巡回ドローンによってまともに行動することはできないからね。そして、その地底湖の最深部に格納されているのが、この潜水艦六三四だ。ただし、ライダーン様の盟友から借りたこの船は、都市のネットワークには接続されておらず」


「あー、えーっと、すみません、なんか何を言っているのかさっぱりわからなくて。よければ、もうちょっと分かりやすく話していただけませんか?」


「モーラさん、たぶんこれ、優しく説明してもらってる奴ですよ」


 戦艦六三四の中に入った女エルフ達。

 まばゆい光で満たされた船内を、人事部部長と案内役に先導されて彼女達は進んでいる。逃げることもできたが、結局彼女達は謎の神の誘いに乗って、この船へと乗船していた。


 長年、冒険をしてきた女エルフには、彼らに敵意がないことはもう分かっている。

 むしろこれは、自分たちに助けを求めている。それもアリスト・F・テレスたちよりも切実に、真剣な感じで。


「……お人好しが移っちゃったかしらね」


「というか、お人好しだから私たちもパーティーを組んでいるんでしょう」


 類は友を呼ぶ。

 男騎士という無類のお人好しが集めたパーティである。彼がいるときは、彼が率先して厄介ごとを引き受け、それを彼女達が諫めるのがお決まりの流れだが、彼がいないならいないで、同じ流れになってしまうのだった。


 それはまぁさておき。


「そうですね。まぁ、簡単に言えば、ここなら何を話しても、ライダーン様にもアリスト・F・テレスにも伝わらないということです」


「……伝えちゃいけないってこと?」


「貴方たちはライダーンのELFではないのですか?」


「私たちはライダーン様にお仕えするELFには間違いありません。しかしながら、アリスト・F・テレスのELFと違って、我々には独立して思考する機能が備わっています。それこそ、ライダーン様が暴走した際には、それを止めるために敵陣営に回ることも、独立して立ち向かうこともできるんです」


 もっとも、神々に対して刃向かった所で、そんなのは虫が象に挑むようなものですがねと、寂しく笑うELFたち。


 その言葉に女エルフたちは察する。

 どうやらこのELFたちが、破壊神ライダーンに刃向かってこのようなことをしているのだということを。一枚岩だと思われた、破壊神の陣営の中に、どうやら複雑な亀裂が入っているということに、彼女達は複雑に顔をしかめた。


 そうこうしているうちに、女エルフ達がたどり着いたのは艦橋。

 大きなチェアーにふんぞり返ってブランデーを飲む謎のマントの男。白い歯をむき出しにしてにっと笑うと、彼はボリボリとお尻を掻いた。


 彼の真向かいにある丸いテーブル。それを囲うように椅子が足下から出現する。どうぞ座ってくれと促されて、女エルフ達はそこに着席した。

 テーブルには彼が飲んでいるブランデーと、よくわからないキノコ。

 その一つを木の棒で刺すと、ひょいと謎のマントの男は口に運んだ。


「食べたまえ。おいどんがタンスで栽培したきのこだ」


「いや、誰が食うかそんなもん」


「まぁ、俺のキノコを食べろだなんて。いけませんよ、そんな乱暴なセリフ」


「確かにその通りだけれども、そういうんじゃないでしょこれ」


 美味しいのにと少し不満げなおいどん男。

 しーしーと木の棒で歯の間を梳くと、彼はさて何から話したものかなと、椅子にふんぞり返って目を閉じた。なんだか、先ほど船上に登場した時とはひどい違いだ。


 しかし、こんな男にも関わらず、びんびんと伝わってくる神威は衰えない。間違いない、彼は七つの神々と同格あるいはそれ以上の神。どういう経緯か人に名こそ知られていないが、絶大な力を持つ存在に間違いなかった。


「まぁ、なんだ、おいのことはどうでもいいんだ。それよりもライダーンだ。お前達はこの争いが、本当にアイツの意思で引き起こされていると思っているか?」


「それは……正直、半信半疑だけれども」


「そうですね。ライダーンさまは、破壊を司る神と言っても、人類を守護する七柱の一つです。とてもそのような暴挙にでるとは考えられません」


「……まぁ、その通りだ。ここ、南の大陸に残された破壊神の都市は、実際には既にライダーンの思惑から外れている。より正確な言葉を使うなら、破壊神ライダーンはこの地で起きていることに一切関与していない」


 どういうことだ。


 破壊神が主導して、人類滅亡のために暗躍しているのではなかったのか。

 既にこの世界に満ちた、アリスト・F・テレスが造りし人類を滅ぼし、己のデザインした人類を再び大地に芽吹かせんと画策していたのではなかったのか。


 思ってもみなかった言葉に女エルフ達が動揺する。

 そんな話、信じられないと食って罹ろうとも思ったが、相手は神だそんな気安くものを言えるはずもない。

 ぐっと黙った彼女達に、ニヒルに笑っておいどん男は続けた。


「この都市は、かつて破壊神ライダーンに直々に統率されて機能していた機械都市。その機能は、七つの柱の神々が、今の人類にこの大陸を委ねた瞬間、一時凍結されて破棄されたのだ。アリスト・F・テレスの都市と同じくな」


「アリスト・F・テレスの都市も!?」


「ちょっと待ってください。私たちは、知恵の神から頼まれてこのようなことをしているのですよ。向こうの都市――ア・マゾ・ンも普通に機能していました。話が矛盾しています」


「いや、矛盾していない」


 そう言って、おいどん男はテーブルの上に置かれていたリモコンを手に取った。

 なんだか凄く古いフォルムに、セロファンテープがびっちり貼られているその先を中空に向けると、彼はぽちぽちとボタンを押下する。


 正面、ブリッジの大スクリーンが明滅したかと思えば、そこにマップが表示された。見たことがある。それは、かつて女エルフ達が、アリスト・F・テレスの拠点で見たのと同じ、この地の見取り図――。


 しかしその都市の頭上には、なにやら怪しい青色の雲が漂っていた。

 どちらの都市にも同じように。


「……これはいったい」


「先ほど言ったな、この都市はライダーンが残した機械都市だと」


「機械の意味がわかりませんが。まぁ、確かにそんな話を聞きましたね」


「そして、アリスト・F・テレスの都市もまた、全自動化された機械都市だ。これらの都市は、ライダーンたちの裁可があれば、たちまちのうちに再起動し、勝手に活動を再開する」


 まさかと女エルフと女修道士シスターが目を見開く。


 この一連の争いは、神が引き起こしたのではない。

 神の不在が引き起こした混乱。


 高度に組み上げられた機械都市が生んだ予想外のエラー。


「ライダーン、アリスト・F・テレス。二つの神々とは別なるものが、この神が作りし自動都市を勝手に再起動した。何かしらの目的を持ってな」

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