第1058話 どエルフさんと美味しい展開

【前回のあらすじ】


 女修道士シスター全力モーモーダンス。

 その豊満な肉体を存分に躍動させて彼女はダンスを踊りきる。その肉の動きにオーディエンスの男達は湧き上がり、砂浜の空に歓声が満ちあふれた。

 流石の女修道士。どこぞの自称ヒロインとは女としての器量が違う。


「いや、仕方ないじゃないのよ!! こいつそういうポジションのキャラなんだから!! 私は清楚ポジだからそういうことしないの!!」


 やったくせに何を言うのか。


 これがヒロインとしての格の違い。

 女の色気ステータスの差。


 どうして同じ事をしているのに、かたや女エルフが余興のように扱われ、かたや女修道士シスターが催しの目玉のように扱われるのか。


 これもうヒロイン交代した方がいいんじゃないのか。


「こんな色ボケモンスターにヒロイン任せたら、それこそもう取り返しのつかないことになっちゃうわよ!! やめなさい!! バカ!!」


 必死にヒロイン交代を止めるどエルフさんはさておき、ど女修道士さんもありかもしれませんね。というところで、無事にダンス回も終了した所で、今週もぬるぬるとどエルフさんはじまります――。


◆ ◆ ◆ ◆


「いや、失敗してるじゃないのよ。それはいいの、展開的に」


「むしろ失敗するからいいんじゃないですか。モーラさん、問題はダンスが成功することよりも、撮れ高がどれくらいあるかですよ」


 撮れ高とは。


 どこの異世界に自分の行動がどれだけ視聴者に受けるかを考えて行動する冒険者がいるのか。女修道士シスターの発想は演者のそれであった。

 流石はセクシー担当。そういう所まで考えてくれているのはありがたい。


 ありがたいが、正直このギャグ小説では持て余しているのが申し訳ない。


 とにもかくにもモーモーダンス失敗。

 やってしまいましたと砂にまみれた身体をはらいながら、女修道士は女エルフの前に戻って来た。失敗したというのにこの盛り上がりはなんなのか。真面目な女エルフは、男達の歓声に眉をしかめた。


 さて、そんな男達の中からひょっこり顔を出したのは赤ら顔のおっさん。


「ありがとうホルスタイン・モーモー。いいモーモーダンスだった」


 イカスミ怪人工場の人事部長だ。


 この謎空間に案内したのも彼ならば、モーモーダンスのセッティングをしたのも彼。またオーディエンスを呼んできたのも彼だった。

 なんというか、戦いに来たというのにこんなナーナーな絡みでいいのだろうか。

 そんなことを思ってまた女エルフが苦い顔をする。


 そんな彼女たちに、赤ら顔で微笑んで人事部長は頭を下げた。


「いや、急なネタぶりにもかかわらず応じてくれて助かりましたよ。なかなか、こういう巻き込み型のネタの場合、巻き込まれる方が渋ることが多いですから」


「おい、なんでそこで私を見る。おい、誰だって嫌じゃこんなもん」


「いえいえ大丈夫ですよ。皆様の期待に応えるのも愛というもの。むしろ、私にこのように話を振っていただいてありがたいくらいです」


「なんでアンタはそう何事につけても前向きなのよ」


 もう完全に水に流すような展開である。

 女エルフ達はこのダイナモ市の秘密を探るためにこうして工場に潜入していたはずなのに、そんなことまるでなかったかのようなこの親密感。

 コントを抜きにしても人事部長は良い奴っぽかった。


 ついでに言うと、案内役もさっきからなんかドリンク持って来たりタオルを差し出したりとやけに気が利く。もうなんていうか、すっかりと女エルフ達は毒気を抜かれていた。任務の始まりから、どうにもしまらないというか、すっとぼけた感じはあったけれどもここまでとはと彼女は一人肩を落とした。


「ほんと、最初のシリアスな入りはなんだったのよ。なんかこう、罠にはめられたっていうピンチの匂いがぷんぷんしてたのに……」


「モーラさん、これも撮れ高という奴ですよ」


「だからなんだよ撮れ高って」


「皆さんのおかげでいい画が撮れましたよ。これで、再生数一万超えは固いと思います。ありがとうございました」


「いったい私たちは何と戦っているのか」


 はぁとため息。

 すると、急に人事部部長と案内役がシリアスな顔になる。

 なんだやっぱり、トンチキはここまででやり合うのかと思ったその次の瞬間、大きな波音と共に機械音が辺りに木霊した。


 何が起こったのか。

 かなりの物音にもかかわらず、この場所に集まったELFたちは一様に静か。そして、女エルフ達を前にした人事部部長たちも落ち着きすましている。いや、それよりも音の元だろうと、女エルフが視線を海原に向ける。


 黒い海岸線。どこからともなく降り注ぐ光源の下、それは静かに波間に漂っている。黒い巨体。けれども鯨ではない。それはかつて、女修道士達も一度は乗ったことがあるもの――。


「あれってまさか、潜水艦?」


「左様。戦神ミッテルが鋳造したポ性ドン。オッサムの従神であるトミ神が操るオーカマ。そして我らが主神、破壊神ライダーンが盟友より借り受けし巨大戦艦六三四。神々の方舟と呼ばれる人の歴史からも隠された神造兵器です」


「……どうして、そんなものがここに」


 黒い巨体の上部扉が開く。

 丸い影を背負って現われたのは、マントを羽織った小柄な男。寂しく響く海風にその裏地の赤いマントを靡かせて、彼は冷たい視線を女エルフ達に投げかけていた。


 どうしてだろう。とるに足らない小柄な男相手に、おそろしいまでのプレッシャーを女エルフは感じていた。このプレッシャーを前にも彼女達は感じたことがある。


 そう、前もこうして、ほの暗い夜の海岸沿いで――。


「まさか、貴方は!!」


「……残念ながら、私は七つ柱の神ではない。しかし、古くからの我が盟友であるライダーンに迫る危機を打開するため、あえてこの六三四内に顕現した」


「ライダーンを救う!? それはつまり、私たちを倒すということですか!?」


「……いや、そうではない」


 むしろ逆だ。そう言うや、潜水艦が海を割って浮揚する。黒い巨体からまばゆい光を放って飛んだそれを見上げて、女エルフ達が震えた息を漏らす。

 その側面から伸びる青色の光。階段上になったそれは登ってこいと女エルフ達を導いているようだ。


 戸惑う彼女達の前で、人事部部長と案内役が先んじて前に出る。

 青い光の階段を彼らは登りはじめた。どうやらそういう魔法らしい。空中に浮遊したまま二人は、女エルフ達に少し寂しげな視線を寄こした。


「さぁ、どうぞ乗ってください。中で詳しいお話はいたしましょう」


「……いったい、これは」


「言ったでしょう。ここでの出来事は他言無用と。そう、我々のミッションは、誰にも知られてはいけないんです。壊れてしまったライダーンさまにも、そして、敵対するアリスト・F・テレスにも」

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