第1061話 どエルフさんとELFの銃
【前回のあらすじ】
南の大陸にそびえ立つ六つの都市。
その都市の上空を覆う青い雷。それは意思を持った稲妻。その光によって攪乱された機械都市は、神々の手によって一度は停止させられたその機能を再始動させた。
意思持つ雷によって騙され、再び人類創造を開始した都市。
これを人類に与えられた試練とみなした七つの神々は、必要以上の不干渉をやめてあえて見過ごすことにした。それが、今回の事件の真相である。
とはいえ、それを快く思わない神もいる。そして神の従者も。
「我が盟友の築き上げた都市をどうかお前達の手で再び眠りにつかせてほしい。それをこの街に住まう者達も望んでいる」
破壊神の盟友。そして、破壊神の従者たちから、この事態の解決を依頼された女エルフ。はたして、彼女たちの選択は――。
◆ ◆ ◆ ◆
「……まぁ、何かあるだろうなとは思っていたけれど、なるほどそういうことか」
「神が私たちを見捨てていなかったのは僥倖ですが、これはなんというか、想像していない展開になってきました。軽々しく、話を受けていいものやら」
悩む女エルフと
二人で決断するには、ちょっと重すぎるその内容。ここに男騎士が同席していたならば、きっと間違いなく任せろと言うに違いないだろう。
彼女達も助けたいとは思う。
ここまで情報を開示してくれたことをありがたいとも感じている。
しかし、仲間と離れたこの状況では軽々しく協力を申し出ることはできなかった。そんな約束を取り付ける権限を二人は持ち合わせていない。
「持ち帰って検討させてもらってもいいかしら」
「私たちだけでは、ちょっとどうにもお返事することが難しくて。一度、パーティーのリーダーに相談してからのお返事でも構いませんか?」
急にビジネスめいたことを言い出す、女エルフに
助けたいのはやまやまだったがそこは現実的な判断を彼女達は選んだ。
とはいえ、これだけ抜き差しならない状況だ。ここでうんと言え、確約していけと言われるのではないかと不安が過る。
実際、その返事に対して鋭い視線がおいどん男からは飛んできた。
「即答できないというのは分かるが、もう少し言い方というのがあるんじゃないか。それに、ここに連れてきた意味やギアス・スクロールをわざわざ使って、君たちの口を封じた意味も考えて欲しい」
「我々の動きを知られては後々厄介です」
「この街にもアリスト・F・テレスの街にも、幾重にも監視の目が行き届いています。もし貴方たちがこの街に起こっている惨状に気づいたと感づかれれば、どのような報復を受けるかわかりません」
「……けど、こんなのいったいどうしろっていうのよ」
自分たちには荷が重い。
せっかく自分が望んだようなシリアスな展開になってきたというのに、無様に泣き顔を晒して弱音を吐く女エルフ。勘弁してくださいとでも言いたげなその青い顔に、ふぅとため息を漏らすとおいどん男が立ち上がる。
急に彼女達に背中を向けたかと思うと、彼はなにやらマントの中で手を動かす。
「分かった。この場で君たちに約束を取り付けることはあきらめよう。どのみち、ここから出れば連携するのも一苦労だ。仲間達と一緒に君たちが訪れなかった時点で、運が悪かったと思うことにしよう」
「いや、けど、話自体はありがたいとは思っているし、力になりたいとは」
「なので、お前達にこれを預ける」
「……これ?」
振り返ったおいどん男がテーブルに置いたのは、皮のホルスターに入った銃。
しかしながらリボルバー式でも自動式でもない。どこにも薬莢を排出する機構が見つからないその奇妙な銃を、女エルフ達はきょとんとした顔で見下ろした。
もとより、二人は銃の存在を知らない。これはいったい何なのかと首をかしげるのも仕方なかった。
「これはELFの銃という」
「……ELFの銃?」
「そう。我が盟友に壊れて、私が仕立て上げた兵器の一つ。ELFだけを貫き、戦闘不能にする破壊光線を発射する銃だ」
「そんなアイテムをどうして私たちに預けるの?」
「さきほども言っただろう。ここ以外でお前達と連絡を取り合おうとすればどうしてもそれを敵側に察知されてしまう。もし我々の動きを察知されてしまえば、それこそ奴らに一矢報いる手立てさえ失ってしまう。だから、我々にできることはもうお前達を信じることだけだ――」
女エルフ達が自分たちに協力してくれることを信じてこのアイテムを託す。
それが、行動を制限された彼らにできる精一杯の抵抗だった。
おいどん男の言葉と口ぶりからそれを察して女エルフと
それに聞こえの良い返事をしてあげられないのが心苦しいが――。
「分かった。とりあえずこれは預かるわ」
「機を見て、必要とあれば使わせていただきます。人類のためにも、この街に住む皆さんのためにも」
「そうしてくれ。そもそも、我々にできることも限られている。これが君たちにしてあげられる最大限なのかもしれないな……」
よろしく頼む。そう言って、頭を下げる代わりにおいどん男は目を瞑った。
何かを祈るようなその深い沈黙に、女エルフ達は静かに頷いて答えた。
ここに女エルフ達は、謎の神からこの現状を打開するための切り札を授かった。はたして、その託された武器がどのように使われるかは分からない。
ただ――。
「どうもおかしいと思ったのよね。なるほど、マイコーの奴も操られていたってことなら納得だわ。まぁ、心配しなくても思い通りにはさせないわ」
「神々の名を語り、人類に仇をなす不埒者。神の僕たる私が成敗してみせましょう」
「……頼もしい限りだな」
確約はできないが、彼女達は十分にやる気だ。
銃を握りしめて意気込む女エルフに、ふっと爽やかな微笑を浴びせるとおいどん男はどこか疲れたように椅子に腰掛けるのだった。
「……それはそれとして、これ、どうやって使うのかしら?」
「見たことのない武器ですね。見た感じから、さっぱり使い方が想像できません」
「安心しろ。その武器は、手にした者の心に感応して自ら動く。使う必要のある時になれば、自ずとその使い方は分かるさ。ただし……」
「ただし?」
目を瞑ったまま、おいどん男が少し苦悶の顔をする。
迷うような表情を見せた彼は、どこか一人で納得するように頷くと再び口を開く。
意味深なタメに首をかしげる女エルフ達に告げられたのは――。
「その銃を真の意味で使うことができるのはELFの中のELFのみ」
「……ELFの中のELFのみ」
「……なんだかそれ、どこかで聞いたことがあるフレーズですね」
「もしこの銃を真にELFな者が握りしめたならば、ただ一度引き金を引くだけで、どんなELFでも、いや、都市でさえもたちまちのうちに壊滅させることだろう」
ゆめゆめその力の使い所は間違えないように。そして、渡す相手を間違えないように。そう言付けると、おいどん男は肩の力を抜いて静かな眠りについた。
どうしよう、渡しちゃいけない男に心当たりがありすぎるぞ。
そんな不安に脂汗を滝のように流す女エルフ達を残して。
「……間違いないキッカイマンのことだ」
「……エルフの中のエルフである、モーラさんのお兄さんを模したキッカイマンさんなら、確かに使えそうですね」
どうやら女エルフたちは、とんでもないアイテムを渡されたようだった。
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