第1056話 どエルフさんとローアングル

【前回のあらすじ】


 レッツモーモーダンス。

 牛柄の水着に着替えてスタンバイ完了の女エルフと女修道士シスター


 女修道士はなんというか流石の巨乳・豊満キャラということもあり、胸やら尻やらぷりんぷりんでとてもモーモー。赤い布を見せられた牛さんのような仕上がり。

 まったくけしからんイベントコスチュームとなっている。


 対して女エルフ。


 出るところどこもなくすってんどん。貧相すぎて水着の方に女エルフの方が着られている状態。余った布があまりにも残酷な状況となっていた。

 しかし、それはそれでマニアックな良さがある――。


「なにがマニアックだ!! 変態、変態、このど変態!!」


 そうなることが分かっていて着たモーラさんがいけないんじゃないですか。

 なんにしても、ちょっと特殊な水着回状態に思いがけず二人は移行していた。


 そんな二人が満を持して挑むモーモーダンスは、こっちの世界で言うところのリンボーダンス。棒の下を上体を反らしてくぐる、それはそれはきわどいダンスだった。


 水着、女の子、リンボーダンス。どう考えてもサービス回。

 無事に終わるはずもなく。


 はたして女修道士の口車にまんまと乗せられた女エルフは、これくらい楽勝よと竹で組まれた枠組みにに挑むのだった。

 さぁ、みなさんもご一緒にご唱和ください。


 レッツ、モーモー!!


◆ ◆ ◆ ◆


 お通夜。

 女エルフ達がたむろする浜辺に今、重苦しい沈黙が漂っていた。

 そのただ中に居座っているのは他でもない。


 この手の展開で常に貧乏くじを引き続ける女。そういう星の下に生まれてしまった生粋の弄られ役。


 女エルフだった。


 膝を抱え、ぎゅっと身体を縮こまらせて座る彼女。まるでそのまま貝にでもなりたいとばかりに、膝に額をくっつけて塞ぎ込む姿を前に、誰もかける言葉を失っていた。そう、女エルフはただいま、絶賛落ち込んでいた。


 理由は言うまでもない。リンボーダンスが原因だ。


 どうして誰も伝えなかったのか。


 リンボーダンスをしている時の格好が恥ずかしいとうことを。


 大股開き。

 それも股を前に突き出して歩いて行くそのポーズを、どうして伝えなかったのか。


 いや、そんなものは男がしてみせた時の光景から推測できる。

 なのにうかれて「私こういうの得意よ」と、勇み足で出ていった女エルフが文句のつけようもなく軽率だった。


「……死にたい」


「まぁ、モーラさん。幸いな事に、ここにいらっしゃる方々は、全員人間ではありませんし。向こうの大陸の知り合いという訳でもございませんし」


 そんな恥ずかしい格好を見られてしまったのだ。年ごろの女エルフとしては言葉も出なくもなろう。いや、年ごろというにはちょっと歳を食っている感じがしないでもないけれど――気持ちは理解できた。


 どうして人前でそんな格好をしてしまったのか。

 こんな恥ずかしいダンスだと知っていたら、絶対にやらなかった。

 許されるならば、今すぐここにいる者達の記憶を消してしまいたい。

 いや、記憶ではなく存在ごと消してしまってもいいんじゃないか――。


「別にいつも恥ずかしい格好はしているじゃないですか。今更ですよモーラさん」


「うるさい!! したくてやっているんじゃないわよ!! それと、いつもは衣装とかだけでそんなきわどいことはしてないでしょ!! なによこれ、冷静に自分のやってたことを見つめ直したら、どう考えても痴女じゃない!!」


「よかった、ようやく自分のことを冷静に見つめられるくらい回復したんですね」


「うっさいわ!!」


 どうしてその冷静さをやる前に取り返せなかったのか悔やまれる。

 もしそこで、これ絶対おかしい奴やんと、女エルフが行為のいかがわしさに気がついていれば、ここまで彼女が苦しむこともなかったことだろう。


 エッチな衣装と、エッチな行動はまた違う。

 そして、エッチな衣装を着て、エッチな行動をするのではまた意味合いが違ってくる。私はそんな、奴隷快楽オチした女エルフじゃないのよと、めそめそと彼女は小粒の涙を目から流した。


 状態異常にかかっていたのだ。

 なんかそういう、異世界特有のステータス異常だったのだ。恥ずかしいダンスとか格好とかしちゃう奴だったのだ。

 そう思い込んでも辛かった。


「もう、そんな落ち込まなくてもいいじゃないですか。そんな風に落ち込まれたら、これから私もやるのになんだか気分が落ち込んじゃいますよ」


「いや、やるんかい」


「やりますよ。そのために皆さん集まってくれたし、セッティングもしてくれたんですから」


「どういう心臓しているのよ。アンタね、嫁入り前の娘がしていいダンスじゃないわよ。伝統舞踊の名を借りた、セクハラダンスじゃないのよ。こんなの、踊り子の踊りよりもよっぽどセンシティブ案件だわ」


 むっと女エルフの言い草に眉をしかめる女修道士シスター

 ここまで女エルフのことを慰めてきた彼女だけれども、どうにも看過できぬものいいだったらしい。彼女は少し険しい視線をうずくまったままの女エルフに浴びせる。


 気配で察したのださろう、なんだか居心地が悪そうに女エルフが身をさらに縮こまらせた。


「そういう職業をどうこう言うのよくないと思いますよ。ダンスはダンスじゃないですか。それでパーティメンバーのステータスを底上げできたりするんですし、私はどんなダンスにも貴賤はないと思いますよ」


「……確かに、私の言い過ぎだったわ」


「それに、そんなに悲観しなくても大丈夫ですよ。モーラさんの貧相なモーモーダンスなんて、誰も真剣に見ていないんですから」


「それが一番腹が立つんだよなぁ!!」


 複雑な乙女心。

 やってしまった後悔、犯してしまった間違い、決して消せない恥ずかしい過去。

 それも確かに歯がゆいが、なにより歯がゆいのは、そこまでしたのにリアクションが薄いことだった。


 こっちは真剣に、ダメもうお嫁に行けなくなっちゃう――くらい考えているのに、なんでこんなに華麗にスルーされなくちゃいけないのか。


 せっかく汚れ役をしたのだからそこはちゃんと見て。雑に処理しないで。

 なんのためにこんなサービスしたのよ。


「というか、サービスシーンもカットされてるしね!! なんなのよもう!! 結果だけとか一番がっくり来る奴でしょ!!」


「知らないんですかモーラさん、なろうはそういう描写をガッツリすると、垢バン食らっちゃうんですよ?」


「ここはカクヨム!! なろうじゃないわよ!! ヒロインがキワキワな格好してどうかと思うようなエッチなポーズ取ってるのに、全カットってどういうことよ!! なんでそんな鬼畜演出しちゃうかなぁ!!」


「キワキワ? ウワキツの間違いでは?」


「ちょっと表でろやこのホルスタイン!! 皮と牛肉にしてクラフト素材にしてやるからなぁ、覚悟しやがれ!!」


 あわれ。

 三百歳エルフ。どこに需要があるのかというマニアックな身体を使ってのサービスシーンなど、特に需要なんてない。むしろカットされてしまった方が、ネタとして美味しいのだった。


 これぞウワキツヒロインの真骨頂。


「なにが、真骨頂、じゃい!!」

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