第1055話 どエルフさんとモーモーダンス

【前回のあらすじ】


 イカスミ怪人工場の人事部長と女修道士シスターは知り合いだった――という体で繰り広げられる謎のコント。二人の繰り出す、なんとも大人でドラマな雰囲気に、あれこれちょっと真面目な奴なのではと、女エルフも思わず困惑する。


 見つめ合う男と女。

 垣間見える過去と悲しい別れ。

 残してきた後悔に女エルフが触れた時、あれこれ、ちょっと普通にシリアス回じゃないと茶番にもかかわらず息をのむ。いったいどこに着地するのかと、女エルフがはらはらと見守る中、二人のコントは――。


「最後に、どうかもう一度、モーモーダンスを踊って貰っても構わないか」


「教授」


「君が僕たちのために踊ってくれた、モーモーダンスを最後にこの網膜に焼き付けさせてくれ。それで、もう君のことは忘れるから」


 コント番組で困ったときになる奴。歌ネタへと繋がるのだった。


「最近はなんかこういうネタ見ないわよね。昔、それこそウッ○ャンナン○ャンとかが流行っていた頃は、なんていうかもうミュージカルみたいなことやった時点でギャグとして成立してた気がするけれど」


 時代の流れというか、コントより漫才という風潮のせいですかね。

 まぁ、どちらがいいというモノでもありません。どっちもそれぞれ良いところがあるということじゃないでしょうか。

 まぁ、それはそれとして。


 モーモーダンス。いったいどんなダンスなのか……。


◆ ◆ ◆ ◆


「モーモーダーンス!! はじまりますよー!!」


「モーモー!! モーモー!! モーモー!!」


「モーモー!! モーモー!! モーモー!!」


 牛柄の水着にコスチュームチェンジした女修道士シスター

 両手には愛用のスタッフを握りしめ、それをぐるぐると回す。

 きわどい水着に包まれたたわわとお尻が彼女のダンスに合せて揺れる。陽気な太鼓の音楽と、声援が辺りに木霊する。


 ここはさながら南国のビーチ。

 夜のビーチでかがり火を焚いて、旅行者をもてなすダンスの如し。匂い立つのはハイビスカスと椰子の実の甘い香り。


 あぁ、トロピカル。ここは夜のビーチサイド。


「……いや、本当にダンスだ!! なんで!! 歌ネタじゃないの!?」


 歌ネタ展開と思いきや、打って変わって本格リンボーダンス。いや、モーモーダンス。きわどい水着に着替えた女修道士シスターと、どこから湧いて出たのか彼女を取り巻く現地スタッフに囲まれて、女エルフは思わず叫んでいた。


 どうしてこうなる。


 歌って踊ってバカなことになる展開を予想していたのに肩透かし。コメディ染みたミュージカルじゃなくガチ目のダンスがはじまったことに、女エルフは動揺した。

 というか、普通についていけていなかった。

 いつもは自分が周りを置いてきぼりにするせいか、いざ自分が置いてかれる立場になるとどうしていいか分からなかった。


 そしてなんか流れで彼女も牛水着に着替えていた。まっこと少しもありがたくないペチャパイ牛水着に着替えていた。どこに需要があるのか。牛さんに失礼なのでは。

 そんな不安になる仕上がりに、哀れみの視線を女修道士は向けていた。


 ほんと、なんで着替えた。


「モーラさん。そんなに恥ずかしいなら無理に着替えなくてもいいんですよ。牛柄水着は着る人を選ぶ装備。きわどい水着以上に、装備できるキャラクターが限られてくるのですから」


「装備くらいできるわい!! 舐めんな!! 水着一つでそんな差なんて!!」


「めちゃくちゃ胸元余っているじゃないですか」


 ぶかぶかだった。

 無理矢理着た感が半端なかった。


 いい歳なのに犯罪臭がしてくる着こなしにちょっと心配になってくる。そんな状態になるのに無茶に着ちゃう所もだし、普通に着てそんな風になっちゃうのもたいへん残念だった。


 水着一つの差が大きい。

 装備はできるが何かが足りない。無理矢理着ているこの感じ。

 圧倒的屈辱に、うぅっと女エルフはその場にうずくまった。水着一つ着こなせないで何がエルフか。何がRPGの正ヒロインか。悔しさに黒光りする床を叩きながら、女エルフは自分の力のなさと胸のなさを呪った。


「いや、違くて!! なにやってんのよこれ!! なに素直にダンスする流れになってんの!!」


「いやだって、最後に一度モーモーダンスを踊って欲しいって言われたから」


「なに素直に言うこと聞いてるのよ!! 敵に攻撃されているのよ!!」


「ほら、私、ギアス・スクロールの効果で、イカスミ怪人工場のみなさんに逆らえないようになっていますから」


「ノリノリで着替えておいて言うことがそれか!!」


 無理矢理操られているなら、もっとこうそういう演出があるだろう。

 魂が抜けている感じだったり、あきらかに操られてる感じだったり。

 そういうのまったくないくせにどの口がそんなことを言うのか。


 しかもなんかノリノリにダンスの音頭までとって。


 もうちょっと危機感を持ってくれと肩を落とした女エルフ。もちろん、それで話を聞くような女修道士ではないのは彼女も承知している。彼女に今回のコントのお鉢が回った時点で、もはやどうしようもないことだった。


 仕方ない。

 もうモーモーダンスは避けられないものとして受け入れる。


 それはそれとして――。


「なんなのよ、モーモーダンスって。どういうダンスなわけ、これ?」


「あ、この格好を見てもピンと来ませんか」


「ぴんとくるようそがなにもない」


 牛柄の水着。

 振り回している火の棒。

 多くの取り巻き。


 こちらの世界の知識で言えば、間違いなくリンボーのそれだが、あいにくながら女エルフ達のいる世界は異世界。情報網もろくに発達していない。当然のようにそんな南国の伝統文化を女エルフが知るはずもなかった。


 いったい何をしようというのか。いつもセクシャルでセンシティブな役回りを担当している女修道士のすることだけに、想像がどうしても暴走し気味になる。

 まさか、やらしいことをするんじゃないだろうか。そう思って女エルフがはっと胸元を隠す。周りに流されて迂闊に着替えるべきではなかった。そんなことを思って、彼女は額に汗を滲ませた。


「そんなにびっくりしなくても大丈夫ですよ。モーモーダンスは、身体の柔らかさをパフォーマンスするだけのダンスですから」


「あ、そうなの?」


「ほら、あそこに竹で組まれた枠組みがあるでしょう。ちょうど私たちの胸元に掲げられている棒を、落とさないように身体を反らしてくぐるんです」


 お手本とばかりにイカスミ怪人工場の人事部長がそこをくぐる。太鼓のリズムに合わせて徐々に動いていくそれは、なるほど確かにやらしさのない、牧歌的なダンスパフォーマンスのように見えた。


 なんだ、たいしたことないわね――。


「これならコーネリアじゃなくてもできそうだわね」


「あ、それなら先にやってみますか、モーラさん?」


「あら、いいのかしら。私、これでもけっこう、身体の柔らかさには自信があるのよ。うふふふ……」


 そして、まんまと女エルフは墓穴を掘った。

 リンボーダンス。男がやると伝統舞踊以外の何ものでもないが、女性がやるとそれはたちまち――。


「ふっふっふ、見てなさい。モーラさんが華麗にこんなのくぐっちゃうんだから。私だってね、これでもこのパーティのアタッカー要員なのよ。コーネリアやエリィより私の方が運動神経がいいんだから」


 という解説を入れるのもどうかと戸惑うくらい、女エルフノリノリであった。

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