第1054話 ど女修道士さんとホルスタインモーモー

【前回のあらすじ】


 ギアス・スクロールにより自由な発言を拘束された女修道士シスター

 この手のやり口に理解がなかった訳でもない女エルフが、なぜ気がつかなかったのかと嘆く中、まんまと彼女達はイカスミ怪人工場の魔の手に落ちてしまった。

 いったいこれからどんなエッチな仕置きを受けてしまうのだろうか。


 しかも、本作中で一番凶暴なたわわを持つ女修道士シスターが催眠に落ちるなんて。

 女所帯なのにちっとも性を感じさせない男騎士パーティ。

 その中で、唯一まともなヒロインとして機能し、下ネタ以外のエッチなハプニングを引き受けている、女修道士が捕まってしまうなんて。


 いったいどんなサービス展開が――。


「女怪人ホルスタインモーモー!! かつて私が育て上げた最高傑作、ホルスタインモーモーじゃないか!! 帰ってきてくれたのか!!」


「そんな!! 貴方は私の産みの親、タコ田タコ彦名誉教授!!」


「違った、これこんどはシコりんが弄られる流れの奴だ」


 そんなことはなかった。


 出て来たイカスミ怪人工場の人事部部長に驚く女修道士。

 知り合いみたいに返しているが、絶対そんなことない雑なアドリブ。どうやらここから、女エルフに代わって女修道士シスターを加えたショートコントが始まるようだった。


 という感じで、今週もおちゃらけ全開どエルフさんはじまります。


◆ ◆ ◆ ◆


「なんやねんホルスタインモーモーって。確かに牛みたいな乳しとるけれども。そんな怪人名はつけへんやろ」


「なにを言っているんですかモーラさん。ホルスタインモーモーは、エルフ後でグンバツどちゃシコイケてるねーちゃんって意味ですよ?」


「なんだこのエルフは。エルフ語も理解できないのか。いったい、どこでどういう教育を受けてきたんだ」


「そんな言語知らんわい!!」


 いつものように狙い澄ましたようなエルフ弄りが女エルフを襲う。

 女修道士シスターがコントの一員として巻き込まれたと思われたが、相変わらず弄る主体は女エルフらしい。結局こうなるんかいと、彼女はなんとも言えない感じで顔をしかめた。


 それはそれとして、どうやら古い知り合いという体で話が進むらしい。


 にらみ合う女エルフと人事部部長のタコ男。いったい二人の間にどんな関係があったのか。そもそも元怪人という設定でどう話を展開するのか。


 女エルフがふと見ればさきほどまで悪の組織のエージェントみたいに気取っていた案内役も「これどういう流れです?」という顔をしていた。

 そりゃまぁ、そうなるだろう。誰が思ったかこんな展開。


 そんな中、人事部長が女修道士シスターにおそるおそる歩み寄った。


「本当に、君がいなくなってから心配したんだぞホルスタインモーモー。君ほど聡明で美しく、そしいて女怪人として完成された怪人を私は見たことがなかった」


「……タコ彦教授。もしかして、こんな所で人事部長をしているのは?」


「あぁ、その通りだ。君が脱走してから、僕はその責任を取らされて大学から追放されてしまった。君のような、歩いているだけで純真な男の子に自分の性別を分からせてしまう、強烈なセックスモンスターを世に放った責任を取ってな」


「いいかたよ」


「すみません。あの頃の私は、あんな乱暴なやりかたしか選べなかったんです。もう生きるのに疲れきっていた私は」


「いや、いいんだホルスタインモーモー。もし君が脱走することを僕が知っていたとしてもこの道を選んでいただろう。情けなく振り返ってしまったが、今こうしていることに私は後悔なんてしていないんだ」


「……タコ彦教授」


「……モーモー」


 なんだか予想に反してロマンスな流れになってきたな。

 もしかして、二人は研究者とその被験者という間柄ながら男女の関係だったのだろうか。怪人とその研究者の禁断の関係。それはそれでそそるものがあるわねと、こんな状況なのにちょっとオタク心が動く女エルフ。


 そんな彼女の前で、そっと人事部長が女修道士シスターの肩に触れた。

 異性からの突然の接触に、いやっと思わず身じろいで距離を取る女修道士。


 どうやら、過去に何かあったようだが、肌に触れることを許すまでの間柄ではないらしい。

 許したら許したで、そんなの相手にこれから立ち回るのかと思うと気が重いが。


 けれども、男として拒絶するほどの相手でもないのだろう。

 俯きながらも目だけで人事部長を恨みがましく見上げる女修道士の姿に、不覚ながらも女エルフは「ちょとエッチじゃない」と悶々とするのだった。


 流石だなセックスモンスター、さすがだ。


「タコ彦教授。貴方には感謝しています。あの研究所で、私がかろうじて私であり続けられたのは貴方の支えがあったから」


「……そう言ってくれるか、モーモー」


「けれど、私と貴方はやはり相容れない存在。研究者と怪人は決して同じ景色を見ることができないんです。たとえそこにどんな思いがあったとしても。そして、今、貴方と私の道は、敵と味方に分かれてしまった」


「もう、君を研究することは僕には許されないんだね」


「さようならタコ彦教授。いえ、ゲソヶ崎タコ蔵」


「ホルスタインモーモー。いや、コーネリア」


 眦に涙をかがやかせてふいと女修道士が首を振る。背中を向けられた人事部長が何か言いたげに手をのばすが、その手が再び女修道士の肩を掴むことはない。

 女修道士が言った通り二人の間には埋まることのない溝ができてしまった。


 湿っぽいやりとりに意味も分からず悲しい気分になる女エルフ。

 色んな意味で、こんなの聞いていないよという展開だった。


 これ、どう転がるのかしら。なんにしても、これだけ画になるやりとりした相手と戦うのは嫌だな。そんな感じに白目を女エルフが剥いたその時。


「最後に、どうかもう一度、モーモーダンスを踊って貰っても構わないか」


「教授」


「君が僕たちのために踊ってくれた、モーモーダンスを最後にこの網膜に焼き付けさせてくれ。それで、もう君のことは忘れるから」


 せっかくいい感じに話がまとまりそうだったのに、また歌ネタに持っていくのか。

 人事部長のキラーパス。キッカイマンからだらだらと続く、謎のミュージカル展開に、なるほどそういう感じかと女エルフは一人頷くのだった。


「なんでバラエティ番組って、ネタに困ると歌ネタで強引に押し切ろうとするのかしらね。ネタ切れなのかしら」


 ネタ切れなのかもしれなかった。

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