第1048話 ど新女王さんとセクシー女ELF

【前回のあらすじ】


 三組のチームに分かれてダイナモ市を探る男騎士達。


 そんな中、ワンコ教授と新女王のチームは、宿泊先を求めて街を彷徨っていた。


 とはいえ、ここまで文明が違う場所では、宿を宿だと認識するのも一苦労。

 ファンタージの世界で一般的な宿を求めていたワンコ教授達は、気がつけばすえた匂いが漂っている怪しい通りにやって来てしまった。


「ほら、あったんだぞ宿屋」


「えっ、どこですか?」


「大人の宿屋。ファンタジー&セクシーなんだぞ。この世界の建物と、僕たちの世界の宿屋を混ぜて半分に割ったようなお店なんだぞ」


「……やばい、ほんとうにやばいおみせにきてしまった」


 そんな夜の街で見つけた宿屋が普通の宿屋な訳がない。

 というか宿屋ですらない。


 いわゆるそういうお店の中でもちょっと業の深い店を見つけてしまったワンコ教授。きっとここに間違いないと声高らかに言う彼女に、事情を察した新女王が代わりに中に様子を窺いに行くことになった。


 当然、宿屋なんかじゃない。

 王族も女の子も縁遠いそこに「やっぱり」と落胆して帰ろうとする新女王。しかしそんな彼女におもむろに声をかけた従業員がいた。


 いや、従業員というか――。


「ふむ。こんな所で会えるとは幸先がいいな。一人ということはないだろう。誰が一緒だ。ケティさんかな?」


「……お、お前は!!」


 現われたのは、女エルフたちと敵対している第三勢力。

 破壊神の使徒でありながら彼に反目をすることを選んだ攻カク○頭隊だった。


◆ ◆ ◆ ◆


「くっ、私たちが単独行動するのを見越して待ち伏せしていたのか!! そうはさせないわよ、誰がアンタ達なんかに屈するモノですか!!」


「……待て待て、そう結論を焦るな。少し落ち着け」


「口車になど乗るモノか!! こう見えて、私も白百合女王国の王女!! 剣の修練は積んできている!! お義姉ねえさまたちに守られるだけと思うな!!」


 腰に申し訳程度にぶら下げていたレイピアを抜き去って叫ぶ新女王。

 パーティーメンバーのサポートがあるとはいえ、最近はなんとか彼女も戦闘に参加できるようになってきた。あの熱帯密林都市に単身乗り込み脱出した相手ではあるがひるんで後ろに下がる選択肢はない。


 気合い一閃。踏み込んで刺突の一撃を繰り出す新女王。

 男騎士や他の歴戦の冒険者と比べればいささか遅いが、それでもその一撃はなかなかの速度で繰り出された。不意打ちということも考慮に入れれば、十分一矢報いることができるのではないかと期待できる一撃だった。


 取った。新女王の繰り出した剣先が少佐の顎先をかすめる。

 この場で攻カク○頭隊との戦いは終わらせる――。


「ふむ。だいぶ成長したようだが、まだまだ甘い。エリザベートどの、やはり貴方はフロントで戦うタイプではない。もう少し違う戦い方を覚えた方がいい」


 そんな新女王の決意はもろくも崩れ去る。

 確かに捉えたと思った少佐の身体は、気がついた時には彼女の前にはなく、そして、彼女が握っていたレイピアもまたその手元から消えていた。


 どこへ消えた、何があった。

 狼狽える新女王の背後で、ぽきりと硬質な金属が折れる音がする。

 振り返ればそこには少佐。彼女は素手でレイピアを握りしめると、それをいともたやすく折り曲げてしまった。


 くそっと叫んで新女王が今度は魔法を使おうとする。

 だが、それよりも早く、彼女は壁際に追い込まれると肩を掴まれて動きを封じられた。頭突きをしようにも絶妙の距離で身体を離している少佐にそれは届かない。


 喧嘩慣れしている。


 流石に単身で敵地に乗り込むだけはあり、少佐は新女王のような駆け出し冒険者では到底手も足も出ない相手だった。


「……言っているだろう、少し落ち着きたまえと」


「くっ、殺せ!! このような辱めを受けて、命を繋ごうなどと」


「いやいや、そんな軽々しく命を棄てるものじゃない。君の身体には魔神の血が流れているんだろう。実感はないかもしれないけれども、君をめぐって暗黒大陸と中央大陸が争ったことをもう少し重く受け止めたまえよ」


「何を知った風な口を――部外者のくせに!!」


「……あぁ、そうだったな」


 新女王の拒絶の言葉に少し悲しそうに眉を寄せた少佐。

 彼女は新女王から離れると、やれやれという感じに頭を掻いた。


 一方で新女王、こうもあっさりと解放されるとは思っていなかったのだろう、きょとんとした顔を少佐に向けた。


 抜き差し去らないやりとりから一転、どうも気まずい空気が流れる。

 一触即発。相対すれば戦いになるのではなかったのか、そんな風に顔をしかめる新女王に、だから落ち着いてくれとため息交じりに少佐が声をかけた。


「先に言っておく。ここで貴方と争うつもりはない。この店は、我々攻カク○頭隊の活動拠点だ。みすみす潰されると困るのでな」


「……私が仲間達に伝えないとでも?」


「まぁ、そこは貴方を信頼するしかないな」


「なめるな!! 貴方たち攻カク○頭隊と私たちは相容れない存在!! 人類の未来をかけて戦う宿命にあるというのに、なぜそんな言葉を信じられるというの!! どうせなにか魂胆があるんでしょう!?」


「……まぁ、まずはそこからだな」


 そこからいったいなんなのか。

 まるで新女王が一人相撲をしているような言い草だ。当然、そんなことを言われて穏やかでいられるはずがない。


 解放されたというのに、また少佐に突っかかるように近づく新女王。

 こうなればやけくそという感じに新女王が繰り出したパンチを、少佐はまた片手で軽くいなす。まるで戦いになっていない、子供をあやしているような素振りだった。


「くそっ!! このっ!! 私を舐めて!! 私だって、わたしだって――!!」


「君が頑張っているのは知っている。モーラさんも君の成長を素直に認めていた。けれども、世の中には向き不向きというものがある。パーティ内で求められる立場や、社会的な地位にこだわるばかりにそこを見誤ってはいけない」


「知った風な口を!! どうせ私は、剣も使えないし魔法も使えない、お荷物冒険者よ!! 仕方ないでしょ、王女なんだから!!」


「……それでも努力をするその姿勢を私は買ってもいるんだ。どうか、そう自棄にならないでほしい。それよりも」


 そう言って、新女王の腕を握りしめる少佐。

 どこか新女王への対応を迷っている様子だったが、それも腹が据わったのだろう。彼女は何か決意したように、じっと新女王の顔を真っ直ぐに眺めた。


 その涼やかな顔立ちと凜とした視線に思わず新女王が息をのむ。

 偽物、エルフではないにしても、それに似た顔立ちをしたELFだ。生粋のエルフ好きである新女王には、真っ直ぐ見られるだけでむず痒いものがあった。

 急に大人しくなった彼女に、ほいと少佐が投げて渡したのは小さなアクセサリー。


「これを君からモーラさんに渡してくれ」


「なぜそんなことを」


「彼女の身を守るものだ。本当は、君たち全員分を用意したかったのだが――もし敵がこの流れをぶった切って仕掛けてくるなら、まず間違いなくモーラさんだろう。とりあえず、彼女だけがこれを持っていれば緊急の事態だけは避けられる」


 頼まれてくれないかと少佐が真剣な顔つきで言う。

 どうしてだろうか、新女王は彼女のその言葉に急に首を振ることができなかった。

 エルフが好きだから、あるいは負けて気力が折られたから、いや、どれも違う。なんにしても、意味不明の感情によって、彼女は抵抗する気力を喪失していた。


 ――いったい、この女は何を考えているのか。


「それと、もう少し楽な話し方で良い。ここはアリスト・F・テレスはもちろんライダーンも会話内容を聞き取ることが出来ないセーフハウスだ。安心したまえ」


「ムラクモ少佐、貴方はいったい……」


 そんな新女王の問いかけに、なぜか寂しく少佐が笑った。

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