第1037話 どエルフさんと魔法少女の罪

【前回のあらすじ】


 歌ネタ絶唱、魔法少女ウワキツモーラ。


 歌ネタだったら歌詞考えればいいだけだから、けっこうすんなり書けるでしょう。ラッキーくらいにやってみたら、意外と難しかったぞどエルフさん。

 なんていうか、どういうことを書けばいいのか分からず、そしてクサい歌詞が思いつかず、いつも以上に時間がかかったぞどエルフさん。


 まったくこれだから本当にウワキツは――。


「いや、アンタがやらせたんでしょうが!!」


 という訳で、まさかの女エルフの本気歌ネタで、全員沈められた男騎士パーティ。いつもいつも弄り倒してくれてまぁと、そんな怒りの籠もった彼女の歌ネタは、確かに強烈なモノがあった。


 そして、強烈に大人げがなかった。


 それが成人エルフのやることだろうか。

 汚いぞ、汚い、どエルフさん。


「まぁ、たまにはいいでしょ」


 割とそう言って、仲間のことハメてません。


「ぎくり」


◆ ◆ ◆ ◆


「どうだお前達。私がいつもいつもやられっぱなしだと思ったら大間違いだぞ。お前、こっちがその気になったらいくらだってケツ叩かせられるんだからな」


「モーラさん、流石に大人げなさすぎでは?」


「そうですお義姉ねえさま。そんなノリノリでやらなくてもいいじゃないですか」


「だぞ!! モーラ、かっこよかったんだぞ!! やっぱり魔法少女憧れるんだぞ!! またやって欲しいんだぞ!!」


 一名を除いて女エルフの毒牙にかかって撃沈した男騎士パーティ。


 本気を出した女エルフ恐るべし。

 彼女が仲間に牙を剥かないことを前提に仕組まれた一連のネタだけに、彼女がノリノリになってしまうととてつもないエネルギーが発生する。

 そのことに改めて仲間達は気がついた。


 これは下手に刺激するのはやめておこう。

 そして、女エルフも嫌がっているし、そういう流れだとしても乗っかるのは止めておこうとしみじみ思うのだった。


 ふんすと鼻を鳴らして腰に手を当てる女エルフ。

 彼女は再びピンクレオタード姿に戻ると、やれやれと頭を掻きむしった。


 魔法少女フォームの方が露出が少ないとは女修道士シスターたち全員が思ったことだったが、怒れる女エルフを前にそんなアドバイスをできる者はいない。


「とにかく、今後は悪乗りして私をハメるようなのはやめてよね。私はもちろんアンタ達のためにもならないんだから。破壊神たちを欺かなくちゃいけないっていう大前提を忘れないで欲しいわ」


「……分かった、モーラさん」


「分かりました」


「だぞ。了解なんだぞ」


「……残念ですがいたしかたありませんね」


 説教が終わるや、急に関門に向かう列が動きはじめる。もうネタは終わりとばかりにスムーズに動き出したそれに合せて、女エルフ達は歩みを進めた。


 関門に向かって歩きながら、女エルフは肩を並べた男騎士にそっと声をかける。


「ねぇ、ティト。さっきからの流れ、どう思う?」


「どう思うとは?」


「ちょっといくら何でも計画的過ぎやしないかしら」


 弄られっぱなしで癪というのもあるだろうが、そこは頭のキレる女エルフ。まるで自分たちが来ることを前提に組まれたような数々の罠に違和感を抱いていた。


「普通、こんなにピンポイントで私を弄るような罠が発生するかしら。それでなくっても、罠を構築するには準備がいるはずよ」


「……何が言いたい?」


「準備が良すぎるっていうのよ。もしかして、私たちがここに来ることがバレてるってことはないかしら」


 女エルフの存在無しには成立しない数々の罠。

 もし彼女達がここに来なければ、代わりに来た者たちも同じ罠にハマったのだろうか。その場合、いったいどのような笑いが発生するというのか。


 女エルフ達をハメたのはどれもELFだ。もしかすると、通りかかった人間たちに合せて即興で適切な罠を構築しているということも考えられる。


 ただ――。


「私が魔法少女になれることを知っていないと、さっきの罠は構築できないわ」


「……たしかに」


「これ、やっぱり相手に私たちの存在がバレているんじゃないの?」


 可能性はあり得る。

 そう肯定するように男騎士が沈黙する。


 ちょっと注意しましょう。そう言って女エルフは前を向いた。


 一筋縄ではいかないと思っていたが、破壊神の都市への侵入ミッションは想像以上の難易度になるかもしれない。これまでいくつものダンジョンや試練を乗り越えてきた彼らだが、ここに気を引き締め直した。


 女エルフの扱いを巡って内紛をしている場合じゃない。


「何があっても、ここからは裏切りは無し。協力して試練を乗り切るわよ」


「分かった」


「モーラさんのおっしゃる通りですね。今一度、チームとしての絆を取り戻しましょう。なんとしてもみんなでこの試練を乗り切るのです」


「だぞだぞ。絶対に皆でこの試練をクリアするんだぞ」


「このような内紛は今後は御法度。仲良く、全員でこの都市から脱出です」


 卑劣な罠にかかり引き裂かれかけた女エルフ達の絆。

 しかし、かえってその卑劣な罠が彼女達の気持ちを引き締めた。


 あるいはここまでの罠は、彼女達を笑わすことそれよりも、その絆を引き裂くためのものだったのかもしれない。


 そうはいかない。

 これまでの冒険を経て獲得したのは経験値だけではない。

 彼女達の間にある目に見えない信頼関係とて、強く太く成長しているのだ。それをこんな付け焼き刃のコントでどうこうできるはずなどなかった。


「待っていなさい、破壊神ライダーン!!」


 関門をくぐる女エルフたち。


 衛兵達の横を通り過ぎ、いよいよ露わになる街の風景。

 ダイナモ市。狂気の改造人間たちが跋扈するその街のメタリックな姿を眺めながら、女エルフはキュッと唇を噛みしめたのだった。


 そして、その横で――。


「なんでひさしぶりに出番やと思うたら、こんな目に会うんじゃ」


「焔さん。出番があるだけありがたいですよ。私たちもう完全に終わった作品のキャラクターなんですから」


「そうだ。異世界でも脇役でも、出番があるだけマシ……さ」


「いやしかし全裸オチ要員にされるとは思ってもみなかったなぁ」


「逆にシンキングしましょう。異世界で知り合いがいなくてヨカッタと……」


 全裸になった男五人が、バケツを持たされて並んで立っていた。


 不意打ちのような風景笑いボケ。お前、そこで出てくるのは卑怯だろう。思わず全裸だということよりも、その展開のおいしさに目が行ってしまう。


 くっと堪える女エルフ。


 まだまだ、都市への侵入ミッションは始まったばかりだ。


「所で、兄ちゃん見ない顔だな新入りか?」


「貴方も家族が魔法少女なんですか? お名前は?」


「名前は、エルフの森の捨ててきた。人は俺のことをこう呼ぶ。エルフの中のエルフ――キングエルフと」


「なにしれっと紛れ込んでんのよアンタは!!」


 そして、やっぱり女エルフ弄りだ。


 彼女が魔法少女になったことで、全裸になったキングエルフも、ちゃっかりその中に紛れ込んでいるのだった。

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