第1038話 ど勇者くんと戦艦オーカマ

【前回のあらすじ】


 女エルフ達を襲う卑劣な罠。

 彼女達の絆を断ち切ろうとする破壊神たちの陰湿ないやがらせに、しかし彼らは決して流されない。

 力を一つにして、必ず試練をクリアしてみせると志を一つにするのだった。


 はたして最初の破壊神の都市へと侵入する男騎士達。

 彼らは無事に任務を遂行することができるのか。

 そして、これからも次々に襲いかかってくる笑いの刺客を倒すことができるのか。頑張れ男騎士。頑張れ女エルフ。君たちの戦いに人類の未来はかかっている――。


 という所で。


「タイトル的に視点変更よね。けど、勇者なんてキャラ居たっけ?」


 皆さん、覚えていらっしゃいますかね。

 実は最初の頃はこの子達をもっと作品に絡ませようと思っていたのですが、いろいろと他のキャラが立ちすぎたので出番が遅れてしまいました。

 今週一週間は、彼らを交えての、女エルフたちとは違った視点のお話です。


◆ ◆ ◆ ◆


 西の王国。

 キングエルフたちエルフの集落があるこの国に、今まさに驚異が迫っていた。

 国王チャールズ・チャッカリンはその玉座につきながら窓の外を見上げる。青い空にぽっかりと浮かんでいるのは、人類が未だかつて見たことのない空を飛ぶ船。


 聞こえてくるのはちょっと神経質な男の声。


「西の王国の民達よ。私は破壊神の使者、宇宙戦艦オーカマ艦長ブライト少佐だ。この人類の危難を前に君たちの力を借りに来た」


 中央連邦共和国首都リィンカーンを襲った宇宙戦艦。

 それが西の王国にも訪れていた。


 西の王国は貿易国。

 北を鬱蒼とした森に覆われ、西を大海、東と南を砂漠に塞がれたこの国は、それほど土地が豊かではない。

 しかしながら、天嶮の要害を持ち、大陸の中で独立を長く保ってきた。


 騎士団といった防衛機能は最低限。

 長年の統治により培った地の利を使って外敵は追い払う。

 だが、その地の利を活かせぬ空からの使者には、いささかどう抵抗していいか分からない。この突然の使者の訪問に、西の王国の国家中枢は大きく震撼した。


 しかしこの事態に一番震撼したのは国王チャールズである。

 もとより争いごとに長じていない彼は、平時を治める王としては適任ではあったが、乱世において人々の寄る辺となるにはいささか惰弱の気が強かった。事実、彼は宇宙戦艦の到着以後、その対処を重臣達に任せて玉座へと通じる扉を閉じていた。


 自分にはどうすることもできぬという諦観。

 国の政の長としては許されぬ逃避。


 しかしながら、平時の良王はその善良さ故に非時にはあまりにも脆い。その怯懦を重臣達も誰も責めることはできなかった。


「あぁ、誰やこの危難を救ってくれる者はおらんのか」


「陛下!! 陛下たいへんですぞ!!」


 その時、玉座に通じる扉が開け放たれた。

 その門前を守護している衛兵達が慌てた感じで追いすがる。しかしながら止めきれなかったのは、彼がこの国の政において王に次ぐ権限を持つ男だから。彼の入室については、国王も特に止めてはいなかった。


 西の王国の宰相にして天下の副将軍。

 名高きその男の名は、ノーマル・チャッカリン。チャールズの同腹の弟にあたり、彼に変わって軍事方面を担当しているキレ者であった。


 兄弟としても君臣としても兄王を尊敬してやまないこの非凡の将は、有事にあっても礼節を忘れない。まずは物々しく部屋に入ったことを詫びると、さっそく彼の来訪の理由について手短に語った。


「帰って参りました!! 我が倅が!!」


「……なんと、アレックスが帰ってきたというのか!!」


 副将軍には不肖の息子がいる。

 と言っても、王の系譜を乱す訳にはいかない。

 それは実子ではなく養子であった。


 西の海から流れ着いたその不思議の子を、彼は哀れに思って引き取ると、王国の肝心要の人物にせんと養育を施した。

 これによく応えた彼の息子は、成長するにつれて非凡な剣の腕前と、魔法の腕前を持つようになる。十三歳の騎士叙任を前にして、国に若き勇者ありとその名を知らしめることになった彼は、果ては養父の後を継ぎ、副将軍になると目されていた。


 その名をアレックス・チャップリン。

 通り名を少年勇者。


「陛下!! 父上!! アレックス、ここにただいま戻りました!!」


 かつて男騎士たちと武闘会で戦い、南の国の動乱においては劣勢の国王軍に味方した若き英雄。エルフの少女を連れた少年冒険者だった。


 この頼もしい若者の帰還に、国王も顔をほころばせる。

 話す言葉がすがすがしく、立ち振る舞いも涼やかで、気力に満ちた表情をしたその成年を彼はとても好いていた。それこそ、せっかくの王弟の気遣いを無駄にすることを承知で、彼に王女をめとらせて王位継承権を与えようと画策しているほどだ。


 もっとも、そのような身に余る好意を若いながらもちゃんと分別できるのも、この少年の凄い所。まさしく勇者の名に違わぬ、不世出の人物に間違いなかった。


「アレックスや。諸国遊学の旅、まことに大義であった」


「お主の南の国での活躍は遠く我らの耳にも聞こえておったぞ。でかした。これで南の国との間に貸ができたわ。養父のワシも鼻が高いというもの」


「お言葉ながら父上、私は現国王側に大義があると思ったから力を貸したまで。陛下の前で言うことではないかと思いますが、国の関係など考えてはいませんでした。南の国もあの国難にあって藁をも掴む気持ちだったでしょう。どうか、このことを外交の駒にするようなことはお控え願いたい」


「分かっておる!! うむ、それでこそ我が息子ぞ!!」


「流石じゃアレックス!! お主こそ、この中央大陸一の男の子ぞ!!」


 国王達がごりごりにほめそやす。

 お気に入りの若騎士の素直な物言いによほど気分がいいらしい。

 それをどこか苦々しくやり過ごしながら、すぐに少年勇者は表情を切り替えた。


 陛下と彼が王を呼べば、どこか和んだ空気が引き締まる。


「本来であれば、北の山岳衛星都市も巡る予定を切り上げて帰って来たのは他でもありません。暗黒大陸からの侵略の危機、そして、中央大陸連邦共和国とリーナス自由騎士団の騎士、ティトどのへの助力のためです」


「……うむ。暗黒大陸と中央連邦共和国の戦いは我らも聞き及んでいる」


「次の暗黒大陸との戦いには、我ら西の王国も助力せねばなるまい」


「ついては、今回の破壊神からの申し出です。ここにティトどのたちが居れば、真っ先にその求めに応じることでしょう。しかしながら、彼らは神々に謁見する旅に出て不在と聞いております」


 ここまで話せば大人達も察する。

 少年勇者が何を求めているのかを。


 なるほどその覚悟あっぱれとばかりに頷いた国王と副将軍。

 この危機においてどのような手を打てばいいかと悩んでいたが、その答えがそちらから飛び込んで来た。若いその双肩に想いを託すのは残酷かもしれないが――。


 けれども男達は少年勇者の真っ直ぐな瞳を信じた。


「分かった、お前に任せようアレックス」


「アレックスよ。我が西の王国の代表としてお前に申しつける」


 少し呼吸を置いて、国王と宰相は若い勇者に申しつけた。


「「宇宙戦艦オーカマに乗れ。オーカマだ、お前が、お前こそがオーカマだ!!」」


「……え?」


 予想外のガンダムパロに困惑する少年勇者であった。

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