第1035話 どエルフさんと戦エルフ絶唱

【前回のあらすじ】


「ハァイ!! 私モーラ!! 趣味で魔法少女をやっている、冒険者三百歳エルフよ!! 今日も世界の平和を守るため、オークやゴブリン、植物からワーム系の触手モンスターとぬっちょんべろりんちょずびずばば、大乱闘しちゃうんだから!! みてて、これがアラスリエルフのハートの力!! ドキドキホルモンアンバランス!! 今日も身体と精神の不調を外的要因に求めて世界に喧嘩を売っちゃうんだから!!」


 魔法少女ウワキツモーラTH。


 三百歳の女エルフが変身する魔法少女シリーズとはいったいどんなものなのか。


 なんにしても、そんなシリーズの主役にしれっと抜擢されていた女エルフ。

 流石は本作のヒロインではある。


 香り立つオリジナルの風格は本物ということか。


 やはりアラスリエルフはステータス。

 魅惑の属性だったのだ――。


「嫌だ!! こんな意味の分からない扱い!! というか、アンタもうすぐ書籍化するかもしれない作家なのに、こんな世の中の女性全員を敵に回すギャグなんてやめなさいよ!! フェミニストに袋だたきにされるわよ!!」


 こういうめんどうくさい女性が好きだってだけじゃないですか。


 僕は「女性でも男性でも、こういうことをパブリックはもちろんプライベートでも言えない」のが嫌なんです。


 当たり散らしてしまうようなことがあってもいいんです。

 それを自身の人間性の未熟さや、そうなってしまった相手への否定に繋げず、こういうモノなんだとメタ的に認知して受け止められるようにしたいんです。


 こういうことが仮にあっても「ごめんなさいね」で済むように、社会の意識を変革していきたいからギャグの体で曝露していってるんですよ。


「絶対に嘘だわ。ネタにして引っ込みがつかないからそう言ってるだけ」


 さて、どうでしょうね。


「……え、マジでやってんの?」


 と、意味深に言っておけば、この作品の株も少しは上がるでしょう。

 社会派エルフ小説どエルフさん。書籍化オファーはいつでもお待ちしてます。


「やっぱりふざけてただけじゃないのよバカァー!!」


◆ ◆ ◆ ◆


「という訳でですね。この娘は本当に魔法少女の大ファンでして。ここ最近、クエストに出ずっぱりで魔法少女成分に飢えていたんですよ」


「魔法少女成分とは」


「それでついに禁断症状を起こして倒れてしまいまして。これはまずいと。今すぐ魔法少女を補給せねばと探していたんですね」


「魔法少女は飲み物じゃないんですが、この認識の違いやいかに」


 認識の違いもあるが、倒れた理由がしょーもなさすぎる。


 魔法少女成分を取得することができずに倒れるとは。


 そこまで魔法少女に入れ込むのもどうかという話だし、そんなくだらない理由で倒れるなら冒険者なんて務まらない。

 助けを求められた理由は、女エルフ的にはちょっと納得出来ないものだった。


 こんな奴をなぜ救わなくてはいけないのか。

 そんな疑念についついその白目が多くなる。


 そもそもとして『魔法少女ウワキツモーラ』シリーズなど存在するのか。

 女エルフとしてはそんなものは撮った覚えもないし、出演した覚えもない。ファンになんて今まであったこともなかったし、いまいち実感がなかった。


 そしてなにより先ほどの歌が不快だった。

 オープニングかエンディングか分からないが、まったくテンションの上がらない、ディスり全開のその歌詞に結構絶望していた。


「ウワキツじゃないもん……」


 ガチで凹んでいた。


 女エルフも結構いっぱいいっぱいで魔法少女をやっている。

 変身している時はいろいろとふっきれているが、素面になると三百歳にはキツい。


 ぐすりと鼻をすする女エルフ。

 流石にちょっとこれはまずかったかと、列に並ぶ人間たちもその様子を息を潜めて見守っていた。


「まぁそのですね、結構評判はいいんですよ、ウワキツモーラ」


「……どうせアレでしょ、変な男にばっかり人気なんでしょ。いい歳した女に恥ずかしい格好させて喜ぶような、ロリコンよりもドギツイ趣味した変態なんでしょ」


「そんなことないですよ。三百歳のエルフが頑張って魔法少女やっているって、大人の女性にもそこそこ評判いいんですから」


 評判がよくなければそんな層は見ない。

 このトンチキファンタジーの読者がほぼ男性であることからも、そもそも女性の分母が少ないことは女エルフにも想像できた。


 慰めなんてやめてよと、手で顔を覆ってそっぽを向く女エルフ。

 ちょっと怪しい空気になってきた。


「いやいや、モーラさんみたいな女性が頑張って戦っている。恥ずかしい格好をしながらも人類のために戦っている。そういう姿が、理不尽な現代社会と戦っている女性たちにも勇気を与えてくれるんですよ。ウワキツモーラが戦っているから、私も今日もクエスト頑張ろうって」


「そんなの勝手に頑張ればいいじゃない。私、そんなつもりで魔法少女なんてやってないわよ。なによ、勝手に人のことをおもちゃにして。迷惑なのよ」


「そんなこと言わないでください。そこに倒れている娘だって、貴方に憧れているんですから。一度魔法少女になったなら、誰かの希望になったのなら、最後までその輝きをくすぶらせないでくださいよ」


「……もう無理だよ。私、魔法少女なんて最初から無理だったんだ」


 魔法少女モノの終盤みたいなノリになってきた。

 なんだか戦いにすっかり疲れ切って、精神的に参ってしまったメインヒロインのようになってしまった。


 はからずとも魔法少女モノの主人公している。


 なんだ、この流れまで含めてフリだったのか。

 女エルフパーティがスンとした顔をする。


 騙された。

 流石に今回はちょっとやり過ぎたかな、どエルフ弄りが過ぎたかなと思ったが、全然そんなことはなかった。


 平常運転、言うほど女エルフも落ち込んでいなかった。

 落ち込んだという体で、なんか自分の世界を作っていた。


 ディスられてもただではキレぬこのしたたかさ。

 流石だなどエルフさん、さすがだ。


「貴方があきらめたら、いったい世界の平和は誰が守るんですか!! 魔法少女ウワキツモーラ!! 貴方は人類の希望!! 魔法少女なんですよ!!」


「知らない!! もう疲れたの!! 放っておいて!!」


「……ウワ、キツ、モーラ」


「ほら、その娘も貴方の名前を呼んでいる!! みんなの声援に応えなくていいんですか!! 貴方はなんのために立ち上がったんですか!!」


「……それは!!」


 そして復活回のような流れになってきた。


 クライマックス目前。

 壁にぶち当たった変身ヒロインが、周りに励まされてパワーアップする回のノリになってきた。


 やはり渋った割にはしっかりヒロインしていた。


 魔法少女ウワキツモーラ。

 けっこうノリノリであった。


 ぱくぱくと、まるで池から顔を出す鯉のように口を動かす冒険者の少女。

 何度も女エルフの名を呼んだ彼女が、そっとその手を女エルフの頬へとのばす。か細い手が頬に触れた瞬間、彼女の頬に熱い涙が流れ落ちた。


「……お願い、ウワキツ・モーラ、私たちのために、歌って」


「……わかった、分かったわ!!」


 私、歌います!!


 そう宣言した瞬間、唐突に地面が割れたかと思うと、そこから大がかりなライブステージが姿を現す。


 どんでん返し。

 あっという間の舞台変更に女エルフパーティは唖然とした。


 そして悟った。


「あ、これ、私たちが逆にお義姉ねえさまにしばかれる奴」


 魔法少女に変身した際、普段の力関係は覆る。

 どうやら、嵌められたのは女エルフではなく、女修道士シスターたちのようだった。

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