第1034話 どエルフさんと魔法少女ウワキツモーラTH

【前回のあらすじ】


 この中に魔法少女はいらっしゃいませんか。

 そんな声にころりと騙される女エルフ一行。絶対に魔法少女にはならないという女エルフを差し置いて、困って居るのならと次々にメンバーが手を上げる。


「だぞ!! 僕が魔法少女になれるんだぞ!!」


「私も、恥ずかしながら二十代ですが魔法少女になれます」


「待ってください。ここは元祖本物魔法少女プリンセスである私が」


「男でも――プリキュ○になれる!!」


 正義の心と魔法少女への憧れに燃える男騎士パーティ。

 しかしながら情熱だけで魔法少女になれるなら苦労はしない。


 やはり魔法少女には才能が必要なのだ。

 そう作品のメインヒロインを張れるだけの絶対的なキャラクター性が。


「私も、魔法少女やれます」


「「「「「どうぞどうぞ!!」」」」


「やっぱりこの流れか、お前らぁあああああああ!!」


 そんな変なプライドを刺激されたか、名乗り出たのが運の尽き。いつものように、女エルフはうわきつ魔法少女に変身させられてしまうのだった。


 と言うわけで、このノリも久しぶりだなどエルフさん。

 唐突なうわきつモーラスタンバイ。


 今週もアラスリエルフの大人げないサービスカット全開でお送りします。


◆ ◆ ◆ ◆


「あぁ、本当ですか!! ちょうどよかった!! 魔法少女になれる方を探していたんです!! 助かります!!」


「いや、魔法少女になれる人を探すってどういう状況よ……」


 どなたかここに回復魔法を使える方はいらっしゃいませんなら分かる。

 誰かが大けがを負って、回復魔法をかけなければ危ない状態。


 そういうのは女エルフも何度か見てきた。そのたびに、女修道士シスターがおせっかいに辻ヒールに向かうのも見ているので理解はできた。


 世の中は助け合い。

 どこでどういう縁が効いてくるか分からない。

 頼られたらそれに快く応えるのは冒険者としては当たり前のことだった。


 けれども今回は女エルフも一度は断った。

 なぜか。


「魔法少女じゃないとできないことって何かありますっけ?」


 求められる技能がいまいち分からない。

 人命やら危機、緊急性のある物事に紐付かなかったからである。


 言うて、魔法少女って別にいなくてもどうにかなるものですよね。

 どうして急に必要になるのだろう。そんな社会システムに必要不可欠な職業ではないと思うのだけれど。むしろ社会の余裕が生んだ職業だと女エルフは考えていた。


 そしてなによりここにいたるまでの経緯。

 どう考えても嵌められる展開しかありえない。

 というか既に嵌められている。


「お願いします!! 一刻を争うんです!!」


「一刻って……」


「貴方の親切が人命を救うんですよ!! いいんですか!! もし何かあった貴方はこれからずっと、あのとき助けておけばよかったって悩むことになりますよ!?」


 そう脅されると断りづらい。

 なかなか卑怯な口説き文句であった。


 どうせまたこれ晒し者にされるんだろうなとため息を吐きながら、女エルフはしぶしぶの体でやって来た女の背中に続く。


 たどりついたのは関門の前に出来た列の中腹。


「実は、私どものパーティのメンバーが倒れまして」


「……はぁ」


 倒れているのは典型的な前衛職。鎧を着込んだ女戦士だった。まだ若い、たぶん二十も超えていない感じの少女冒険者だ。


 どうしてこんな娘が魔法少女の助けを求めるのだろうか。

 首をかしげる女エルフ。


 列に並んでいた人々が、遠巻きに見守るその真ん中に歩み出た彼女は、青い顔をしてうなされる少女戦士の前に膝をついた。

 同じく、ここまで彼女を導いた彼女の仲間の女も隣に座る。


 そっと隣の女が手を差し出す。少女冒険者の顔を優しく撫でた彼女は、女エルフの方を向いてなにやら意味ありげに頷いた。


「どうか、近くによって聞いてあげてください」


「……はぁ」


 何を聞けというのか。

 目をこらしてみると、少女冒険者が確かに唇を小さく動かしている。

 何かを呟いているようだ。

 

 これが自分が呼ばれた意味なのか。

 まぁ、いいかと女エルフはそっとその耳を少女の口元へと近づけた。


 長い耳の前に流れる金色の房が揺れる。

 露わになった耳の奥に聞こえてくるのは、唸っているにしては軽快なメロディ。


「るんるんるるりら、魔法のパワーで変身、マジカルアンチエイジング」


「???」


「お見合い、同窓会、同僚の視線、全部倒すぜマジカルチェンジ」


「……なんだこの歌?」


「三十路女も少女に変身、バイタル良好、腰痛改善、低気圧も平気へっちゃら。ウワキツウワキツ、魔法少女ウワキツモーラTH!!」


「誰がウワキツモーラTHじゃ!!」


 べしりと冒険者少女の頬をひっぱたく女エルフ。

 いきなりのディスりに感情的に病人に手をあげてしまう女エルフ。冒険者としての前に、人としてどうかしていた。


 しかし、倫理はともかくとして、ノリツッコミはいいテンポだった。


『コーネリア、ケティ、エリザベート、アウト!!』


「なに笑っとるんじゃい!!」


 分かっていたとはいえ急にぶっこまれたどエルフ弄りに女エルフパーティの腹筋はまたしても脆くも崩壊した。仕方あるまい、女エルフの魔法少女ネタは、もう変身するだけで彼らの腹筋にダメージを与える鉄板ネタだった。


 まったくとごちりながら、女エルフが少女冒険者を睨み据える。

 ぺしりぺしりと仲間の尻が叩かれる音を背中に、彼女は今後の流れを察して顔をしかめた。やはりほいほいと名乗りを上げるべきではなかった。


「実はこの娘は子供の頃から熱心な魔法少女のファンでして」


 今回はやり直しはないようだ。

 懲罰が終わってすぐ、ここまで女エルフを連れてきた女が口を開いた。

 口を開いたが、説明にしては意味不明もいい所。


 魔法少女のファンとは。


 そんな存在は初めて知ったぞと、現役魔法少女が白目を剥く。そして、目の前の少女が歌った曲もはじめて聴くぞと眉間に青筋をたてた。


 そんなメジャーなもんじゃない。魔法少女はもっとマニアックなたしなみ。

 そもそも、女の子達が憧れるような職業じゃない。

 むしろいやいや誰かにやらされるもの。


 歴戦の魔法少女である女エルフはそう実感していた。

 というか今の流れからして嫌だった。せっかく出て来て申し訳ないけれど、今すぐなかったことにして帰りたかった。


「特に彼女はマニアック魔法少女三部作の一つ、『魔法少女ウワキツモーラ』シリーズが大好きで大好きで」


「聞いたことない」


「その最新作であるTHの主題歌をしっかりと覚えていて」


「だから知らない。なによ主題歌って、誰に許可取ってんの」


「ちなみにTHはThree Hundredの略で」


「どエルフ三百歳ってか。どうりで耳に馴染みのないナンバリングだと思ったわよ。普通にRとかXとかにしておきなさいよ」


「いや、RとXは流石にその、あからさますぎるといいますか」


「年齢制限じゃないわよ!! なんでタイトルナンバリングに年齢制限入るのよ!! 色んなアニメ作品でRもXも使われてるでしょ!! それ言ったら、全部卑猥になっちゃうじゃないの!!」


「いえ、他の作品はそうでもないですが、『魔法少女ウワキツモーラ』だと流石にそうとしか考えられないというか!!」


「うっせー!! 誰の名前が卑猥じゃ!! ○すぞ!!」


 タイトルがもう卑猥であった。


 RとX付けたら、そのままレーティング指定まったなしの卑猥さであった。

 そして、やっぱり女エルフパーティーは、耐えることができずに腹筋崩壊した。

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