第1033話 どエルフさんとどなたかこちらに

【前回のあらすじ】


 魔法少女の呪いにより次々に全裸になっていくおじさんたち。


 哀れかな、魔法少女の呪いは嘘ではなく本当だった。


 その呪いに当てられて、破れる破れる、服が破れる。

 まろび出すまろび出す、いろんな男の肌色の部分がまろび出す。


 あっという間に地獄絵図。

 そこは男達の汚い肌色がにじむエグい空間となった。


「だから言ったじゃないか、魔法少女の呪いで服が脱げるって。誰も、こんな所でフルチンになんてなりたくなんかなかったんだ……」


 そう言って、じっと女エルフたちを見る男ども。

 その視線が意味する所はネタの終わり。


 はい、これでおしまいですよ、笑ってくださいねと言いたげだった。


 しかし――。


「いや、笑えるかいこんなもん!! ただのセクハラじゃい!!」


 男がメインの視聴者層、深夜のお笑い番組ならともかくとして、女性がこんなものを笑えるはずがない。すべて不発。あえなくおっさんたちは連行されて、脱ぎ損に終わってしまうのだった。


 みんなもやるネタは考えよう。

 そして、彼女とデートする際には、見に行く映画は気をつけよう。

 女性の笑いのツボと男の笑いのツボは微妙に違っているぞ。


◆ ◆ ◆ ◆


「次々に連れて行かれましたね、さっきの男の方達」


「衛兵達が優しい奴らで助かったわね。すぐに毛布を持ってきてくれて」


「だぞ……いったいなんだったんだぞ」


「なんでもありませんよケティさん。男ってサイテーってそれだけです」


 突然女エルフ達を襲った男祭はここにあっけない終焉を迎えた。

 白目を剥いて、男達を見送る女エルフ。


 幸いにもすぐに持ってきてもらった毛布に身を包んで、全裸状態を回避して獄中に向かったおっさんたち。しかしながら、その足取りは寂しい。

 後悔と、そして後ろ髪を引かれるような感じであった。


 時々、女エルフ達の方を意味も無く全員で振り返って、うらめしい目を向けてくる。今からでも笑ってくれてもかまわないんだぞと言いたげなそれを、女エルフ達は冷たい顔で流した。いちいち付き合ってられないやりとりだった。


 さて。


 男達が去って再び列は流れ出す。あんなトラブルがあったから中がごちゃついているのだろう。なかなかこれが進まない。


 こんなことなら、男達に同調して無理にでも関門を突破してしまうべきだった。

 そんなことを思いながら、面倒くさそうに女エルフはその光景を眺めていた。


「結局、魔法少女になると父親の服が破れるっていうのは嘘だったってことよね」


「さぁ、真実は闇の中ですからね。実際に、キングエルフさんがいらっしゃるこの場で、モーラさんが魔法少女に変身されれば話は別でしょうけれど」


「いやよなんでそんなことしなくちゃいけないのよ。だいたいアレだってね、私も好きでなってる訳じゃないんだからね。止むに止まれぬ事情があって、いやいやなっているんだから。そこの所をもうちょっと理解して欲しいわ」


「嫌よ嫌よもなんとやらという奴ですね。ちゃんと理解してますよ」


「りかいしてねー」


 なんとかいつものやりとりまで戻ってくる。

 やれやれまったくと女エルフが嘆息すれば少し前の列が移動した。

 半刻くらいと思ったが、この調子であれば一刻はかかるだろうか。さてどうしたものかなと女エルフ。特に時間を急ぐ訳ではないが、またうだうだとしている内に、次の刺客に襲いかかられるのは勘弁願いたい。


 やっぱりなんとかして関門を抜けようか。そんなあくどいことを考えた。


「……だぞ? ちょっと待て、前の方が騒がしいんだぞ?」


「おや、なんでしょうか。もしかしてまたトラブルですかね?」


「あ、なんかこっちに駆けてきますよお義姉ねえさま」


 嫌な予感がするなと女エルフ。

 さっきの男達もそうだったが、ここに来て女エルフたちをスナイプするような内容が続いている。トラブルは即そういう案件と女エルフの中で警戒網ができあがっていた。いや、そうでなくてもこのトラブルからそっちから飛び込んでくるパターンには馴れている。


 絶対に相手をしないぞ。

 相手をするにしても、女修道士シスターや新女王に任せよう。

 そう固く信じて、女エルフはこちらにやってくる人間に視線を向けた。


「どなたかこの中に魔法少女はおられませんか!! どなたか、魔法少女になれる方はいらっしゃいませんか!!」


「だからなんで私を狙い撃ちでこういうネタが起きちゃうかなぁ!!」


 絶対に関わらない。そんな固い決心は、魔法少女を求める声の前に脆くも崩れ去っていた。いかんせん、この中で魔法少女になれるのは女エルフくらい。

 いや、新女王も最近なれるようにはなったのだけれど、それでも彼女はまだ経験が浅い、どう考えても自分にお鉢が回ってくるのは避けられなかった。


 けれども嫌だ。

 やっぱり嫌だ。


 はい、私が魔法少女です――って出て行きたくない。


「絶対にこれまた弄られる奴ですやん。どエルフ弄りで、また皆が笑っちゃう奴ですやん。いやよ、そんな分かっているのに自分からひっかかりに行くなんて」


 みえみえの罠に引っかかるほど女エルフもアホではない。そこは察した。

 察したけれども、これ見よがしに向こうからやって来た女が自分を見てくる。お前が魔法少女なのだろうと、そういう目で見てくる。


 やはり、完全に仕込み。

 この列に並んでいる時点で、避けられない奴だった。


「くそっ、どうして私しか魔法少女になれる奴がいないのよ。こんな時に、誰か私の代わりに魔法少女になってくれる人がいたら」


「だぞ!! 僕が魔法少女になれるんだぞ!!」


「……ケティ!?」


 突如として手を挙げたのはワンコ教授。

 今まで、そんな素振りなんて一度も見せなかったのに、いったいいつから魔法少女になれたのだろうか。そんな感じに女エルフが目をしばたたかせる。


 しかし、手を挙げたのは彼女だけではなかった。


「私も、恥ずかしながら二十代ですが魔法少女になれます」


「コーネリア!!」


「待ってください。ここは元祖本物魔法少女プリンセスである私が」


「エリィ!?」


「男でも――プリキュ○になれる!!」


「おいこらキッカイマン!! お前はそいつの前番だろうが!! そして、プリキュ○は魔法少女じゃねえ、帰れ!!」


 一斉に俺が私がと名乗りを挙げる女エルフパーティの面々。

 どうしてこんなに積極的なのか。

 やはり、助けを求める声に応じたのか。


 だとしたら、本当に魔法少女になれるのに、自分がそれから逃げるのは間違っているのではないのか。


 迷った。

 女エルフは迷いに迷った。


 関門に続く石畳を何度も靴で小突く。わりと、結構な時間を悩んでいたし、他の面子が名乗りを挙げたにもかかわらず、魔法少女を求める人間は待ってくれた。

 なので、根負けするように女エルフが手を挙げた。


「私も、魔法少女やれます」


「「「「「どうぞどうぞ!!」」」」


「やっぱりこの流れか、お前らぁあああああああ!!」


 そして見事に釣られた。

 ダチョウ倶○部よろしくまんまと一本釣りされた。


 もはやそれは流れるような様式美であった。

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