第1030話 どエルフさんとダイナモ市

【前回のあらすじ】


 女エルフ達を虎視眈々と狙う攻カク○頭隊。

 彼らは人間たちの脳の構造をコピーする電脳化技術を発展させ、逆に生身の人間の脳を操作する技術を編み出した。


 精神感応魔法と違って、魔力を必要とせずに発動するその精神攻撃に、女エルフ達が戦慄する。普通の方法では防ぐことも抵抗することもできない、強力な精神攻撃を前に、はたして女エルフ達はどうやって対抗するのか。


 そして――。


「あの、ほんと、いつになったらこれ消えるんですかね?」


 例とばかりにその攻撃を食らってしまった女エルフ。

 視界を笑う女のマークにジャックされてしまった彼女はどうすりゃいいのよと白目を剥くばかりであった。


 相変わらず、こんな時でも貧乏くじ。

 運もなければ胸もない、流石だなどエルフさん、さすがだ。


 とかまぁ、久しぶりの天丼ネタはさておいて、なんだか厄介な展開になってきた本作品。それはそれとして、こんな特殊な催眠を彼らに仕掛けようとする攻カク○頭隊の目的とはいかに。


 トンチキサイバーパンクファンタジーどエルフさん。

 今週も、割と何も考えずにノリと勢いだけで伏線バシバシ張りつつ始まります。


◆ ◆ ◆ ◆


「攻カク○頭隊の目的はこの電脳ウィルスを使った都市の破壊だ。君たちの身体の中にひっそりと潜ませたウィルスを使って、電脳を持つ都市の人間、ロボットを一網打尽で破壊する――無差別テロを引き起こそうとしている」


「な、なんてことを考えるんです!! 人の心がないんですか彼らには!!」


「だぞ、けれども効率的な攻撃方法なんだぞ。なるほど、ウィルス攻撃。人間の手でウィルスをコントロールできるなら、これほど効率的な攻撃はないんだぞ」


「おそろしい発想――許せませんねお義姉ねえさま!!」


「誰、誰が言ってるの? 体つきからエリィっぽいけれど、顔が見えないから確信が持てない。というか、こんな幻覚見せられたら、自分が見ている光景が本当に正しいのか自信を持てなくなる……助けて、おねがいだからタスケテ……」


 おそるべし、電脳ウィルス。

 女エルフの脳に住み着いたそれは、あっという間にあの鋼の女エルフの精神をボロボロにしてしまった。隣人の素性・正体が分からない恐怖に、すっかりと女エルフはまいってしまっていた。


 大丈夫ですかと女修道士シスターとワンコ教授、新女王が彼女に近づく。

 すると――。


「うわぁっ!! 皆が、みんながエルフになっちゃったんだぞ!!」


「本当です!! 横を向いても上を向いても、お姉さまがいっぱい!!」


「こ、これが電脳ウィルス!!」


「そう、ウィルスはそれを保有している人間の中で自己増殖を繰り返し、それに触れた人間に伝染する。この感染力も大きなポイントだ。最初の一人にウィルスを仕込んでしまえば、あとは自然に広まっていく」


「……なんておそろしい兵器なのでしょう。こんなことをするなんて、やはり危険ですね攻カク○頭隊。目的のために手段を選ばぬとはなんたる外道」


「だぞ、そこに加えてこの科学力。ただのテロ組織だと思っていたが、とてんでもなかったんだぞ。これは国家同士の戦争よりもタチが悪いんだぞ」


「王を刺すのは王ではなく民衆ということですか。私の国にもこのような者達がいるのではと考えると、気が気でなりませんね」


「みんなちょっと落ち着きすぎじゃないかしら? ねぇ、ちょっと、もう少し狼狽えてくれないと、私だけバカみたいじゃない?」


 女エルフと違って他の四人が思いのほか冷静。

 彼女達がウイルスをシリアスに受け止めているのに対して、女エルフ一人だけがびびりちらかしていた。一人だけ、リアクションがギャグ漫画だった。


 大丈夫だ、もうすぐ効果は切れるとキッカイマン。

 その言葉のすぐ後に、女エルフの目の中から、笑う女エルフのアイコンはすっかりと消え去った。


 ようやく戻った視界の平穏にほっと彼女は息を吐く。

 そして、自分をしれっと実験台にしたキッカイマンに、なんてことするのよと忘れず怒鳴り込むのだった。これはまぁ、確かに怒っても仕方がなかった。


「なるほどね。つまり私たちにウィルスを運ぶ役を押しつけたいって訳ね、攻カク○頭隊は」


「これから都市の中枢に潜入するわけですから、運び役としてはこれほど適任者はいないですね。考えたものです」


「ずるっこなんだぞ。効率はいいかもしれないけれど、どうかと思うんだぞ」


「破壊神の野望は阻止しなければいけませんが、不必要に民を犠牲にするのは間違っています。いえ、必要であっても民をないがしろにしてはなりません。それは王道ではない。お義姉ねえさま、皆さん。彼らの暴虐を許してはいけません」


「えぇ、もちろんよ」


「このような攻撃、許すわけにはいけません」


「だぞだぞ!! 僕たちは王道のやり方で破壊神を倒すんだぞ!!」


 かくして、キッカイマンの報により気を引き締めた女エルフ達。

 攻カク○頭隊の接触に気を配り、都市にウィルスを広めてしまわないようにする。その上で、きっちりと破壊神の野望も止めてみせる。


 なかなか難しい誓いを彼女達はここに立てた。


 冒険者として。そしてこの世界を救わんとする勇者として、多くの人を苦しめるような戦い方は選べなかった。いや、選ぶ気がなかった。

 女エルフ達の中には戦士としての気高いプライドが燃えていた。


 とはいえ――。


「やるのはテロ活動なのよね。それはどうかと思ってしまうわ」


「まぁ、その、無差別大量破壊よりはいいんじゃないでしょうか」


「だぞ。けど、テロやる奴らはだいたい自分たちが正義だとか言うんだぞ」


「できるだけ大人しく、そして、誰も悲しませないように頑張りましょう」


 やろうとしていることはどんなにきれい事を言ってもテロ活動。あまり生物兵器攻撃と大差がないと言われればそれまでだった。

 物語の主人公たちのやることじゃない。


 あらためて自分たちのやることを考えてげっそりとした顔をする男騎士パーティ。


 その時、がたりとバスが大きく揺れてその場に停止した。

 ガスの抜ける音が聞こえて扉が開く。続いて天井から降り注いだのは、おっさんのアナウンス。


「ダイナモ市、ダイナモ市。お客さまは速やかにお降りください」


「どうやら着いたようね」


 窓から見える景色はジャングルはジャングルでもコンクリートジャングル。

 再び、熱帯密林都市と同じく異郷の街へとたどり着いた女エルフ達。

 しかしそこは敵が暮らす街。


「まずは破壊神第一の都市ダイナモ市ですか」


「改造人間ひしめくこの街で、はたしてどんな敵が待ち構えているのでしょうか」


「だぞ!! みんな、気を引き締めるんだぞ!!」


 それほど大きな差は見られないが、はたしてどんな罠が待ち構えているのだろうか。改造人間とはなんぞや。


 肩を並べてバスを降りる女エルフ達。

 土煙と共に走り去るバスを背中に、彼らは表情を少しこわばらせた。

 ついにミッションも本番。都市への潜入がここにはじまった。

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