第1029話 どエルフさんと笑い女ウィルス

【前回のあらすじ】


 どうしてやってきたキッカイマン。

 攻カク○頭隊との死闘を経て、女エルフ達の元に戻ってきた彼。どうして戻って来たのかと尋ねれば、女エルフ達に迫っている危機を伝えるためだと彼は言う。

 いったいどういうことなのか。

 聞けば彼が戦った攻カク○頭隊が、女エルフ達を狙っているのだという。


「まさか攻カク○頭隊は、私たちを実験材料にしようと狙っている?」


「だぞ……そういうことかなんだぞ!!」


「私たちの脳を電脳化技術の礎にしようとしているんですね」


「そんな!! 嫌ですよ、そんなの――この身体を捨てたくなんかない!!」


「いや、全然違う。お前達の脳味噌なんて必要としていない」


「「「おかしいでしょこの流れで!!」」」


 というコントを繰り広げながらも、彼らが女エルフたちを狙っているのは確か。

 はたして彼らはなんのために、女エルフ達を狙っているのか。そして、いったいどのような攻撃を仕掛けようとしているのか。


◆ ◆ ◆ ◆


「まぁ、攻カク○頭隊の目的がお前達の脳にあることは確かだ」


「……だぞ?」


「あれ、脳を乗っ取りに来たんじゃないって今さっき言いましたよね?」


「どっちなのよまったくもう!! いちいちもったいぶった言い回しをするわね!! 分かりやすくいいなさいよね、こういうのはさぁ!!」


 キレる女エルフ。

 またしても火炎魔法を喰らわせようかと杖を構えたところで、まぁ待てとキッカイマンがなだめすかした。なだめすかしたが、ちょっと余裕はなさそうだった。

 どうやら彼女に喰らわされた攻撃がかなり蓄積されているらしい。


 やはり筋肉も科学技術も、強烈な魔法の才能の前には無力であった。魔法という名の暴力の前には無力だった。


 こほんと咳払いしてキッカイマンが説明を続ける。


「攻カク○頭隊は電脳化の技術を高めることにより、もう一つの技術を手に入れた」


「もう一つの技術?」


「だぞ? いったいなんなんだぞ?」


「人間の頭の状態をコピーするのです、それに何か関係があることでしょうね」


「……そう聞くと、なんだかとてもヤバそうな話の気がしますね」


 再び、ちょっと怯える女エルフ達。

 キッカイマンも少し調子を取り戻す。

 元々、ふざけた感じで登場した攻カク○頭隊だが、彼らも破壊神が作り上げた叡智の結晶。油断して当たれる相手ではないのは間違いない。


 再びシリアスな空気が女エルフ達の間に流れる。

 キッカイマンは、いまいち伝わらないかもしれないがと、彼女達に前置きしてからその技術について語る。


「人類の脳の仕組みを七割ほど解明した辺りで、彼らはその技術を違うことに利用できないかとことを考えた。つまり、電脳化して機械に置き換える技術の転用」


「だぞ……他に何か応用ができるようには思えないんだぞ」


「ですね。人の脳味噌をまるっと複製する訳ですから」


「けど、複製できるということは、その仕組みを理解しているということ」


「そんな仕組みの理解がいったい――」


「いわゆる、君たちの世界では魅惑魔法だとか洗脳魔法だとか言われるものだ。彼らはそれを、魔法に頼らず脳の中に直接命令を書き込むことで行おうとしている」


 洗脳魔法と聞いて女エルフ達が戦慄する。

 それは確かに厄介な能力。下手な攻撃魔法やモンスターより対処の難しいもの。

 味方の潜在能力を引き出すなどの使い方ならば心強いが、洗脳して寝返らせるなどされるとやりにくくて仕方がない。できれば遭遇したくない魔法の一つだった。


 なるほど、そういうアプローチができるのかと女修道士シスターが納得する。


 精神が脳に宿ることは、この世界の人間もうすうす感づいている。

 なにより、人間をコピーするのに脳を電脳化するとは、彼らも聞かされたばかりだ。人の精神を決定する器官を、直接的に弄ることができる技術というのが、洗脳などの効果をもたらすことはなんとなく想像できた。


 男騎士パーティ黙り込む。

 そうかそういうことかそれは厄介だとキッカイマンの言葉に納得する。


 しかし――。


「洗脳魔法を使うモンスターや敵なんかとは何度も渡り合っているわ。確かに心配なのは分かるけれども、そこまで気にすることもないんじゃないかしら」


「モーラさんの言うとおりです。敵が洗脳を使ってくると分かっていれば、こちらも精神抵抗がしやすいですし、精神強化の魔法をかけて防ぐことができます」


「だぞ、そうなんだぞ。備えあればなんとやらなんだぞ」


 彼女達とて熟練の冒険者だ。それなりに魔法への対処方法は心得ている。

 洗脳魔法を相手が使ってくるからなんだというのだ。それならば、対処すればいいだけ。キッカイマンの言葉に驚きはしたが、決して怖じ気づきはしなかった。


 心配しなくても大丈夫よと、頼もしい視線をキッカイマンに向ける女エルフ。心配ありがとうねと彼女は実の兄を模したELFの肩を叩いた。


 その時だった。


「……えっ、なに、これ?」


 彼女の視界に突然、笑う女の顔が表示されたのは。

 ピンク色の線で描かれた人の似顔絵。笑っているその女は、長い髪に長い耳を持っている。そして、笑うその姿がなんともバカっぽい。


 なんだか悪意を感じる、そんなマークだった。


 それがなぜか、女エルフの視界に入る人間の顔の前に展開されている。いったいこれは何をされてしまったのか。はじめて陥る現象に、慌てふためいて彼女はバスの座席に尻餅をついた。

 そんな彼女に、笑う女のマークが近づく。


「モーラ。今まさに、君の脳内にその技術でアプローチをしかけている」


「アプローチ? ちょっと待って、これが、攻カク○頭隊の技術だっていうの?」


「あぁそうだ。精神感応攻撃とは違うだろう。あれらが、君らに夢や幻覚を見せるものだとして、これは適切に現実の認識をねじ曲げてくる」


 その人が見た人間の顔だけを、確実にぼやかせる洗脳魔法なんてあるだろうか。

 ない――と女エルフは顔を振る。精神感応系の魔法はそれこそ古い歴史のある魔法だが、それでもここまで精確に、そして、はっきりと現実を認識しながら、一部だけを改竄するようなことはできなかった。


 そして、なにより、女エルフには精神抵抗に自信があった。

 チーム内の頭脳働き、この手の攻撃に対処する役を担っている彼女は、生半可な精神感応攻撃はスルーする自信があったのだ。


 それをあっさり破られた。


「どうして、なんでこんなにあっさりと、洗脳にかかっちゃってるわけ!?」


「それも恐ろしい話だ。モーラよ。精神感応の魔法と違って、こちらは魔術を使わない。あくまで脳内を直接操作して行うのだ――だから、精神値判定で防ぐことができないんだ」


「……なるほど、通常の洗脳魔法とはちょっと違う訳ですね」


「だぞ、これはもしかすると、本当に大変かもしれないんだぞ」


「防ぐ方法のない洗脳攻撃」


「そう、そして、攻カク○頭隊のそれは、音もなく忍び寄っている。気がついた時には脳内に侵入し、私たちが思いもしないような場面でそれを発動して襲いかかってくるのだ。名付けて――電脳ウィルス!!」


 なんというおそろしい攻撃。

 大変だと、女修道士シスターたちが息をのむ。

 そんな中――。


「ところでこれ、いったいどうやったら消えるの? まさか一生このままってことないわよね?」


 女エルフはただ一人、現実的な恐怖に怯えるのだった。

 そりゃそうだ。ずっと人の顔の前にアイコンが表示されているなんてキツすぎる。

 そっちの方がむしろホラーだった。

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