第1031話 どエルフさんと昼下がりのおっさんたち

【前回のあらすじ】


 攻カク○頭隊の目的は女エルフたちにウィルスを運ばせることだった。

 これから破壊神の都市中枢に潜入する彼女達を使えば、バイオテロはいともたやすく成功する。なんとも卑劣なその作戦に、女エルフ達は激怒した。


 王道を行く冒険者の女エルフ達。

 ウィルスを使ってのバイオテロなど許せるはずもない。

 破壊神も許せぬが、卑怯な手段を平然と選ぶ攻カク○頭隊も許せぬ。

 絶対に奴らの好きなようにはさせない。間違ってもウィルスを運ぶようなことはさせまいと、女エルフ達は固く決意をするのだった。


 そんなことをしているうちに、彼女達を乗せたバスはダイナモ市に到着する。


 ついにたどり着いた敵の本拠地。

 待ち受けているのはどのような罠か。


 笑ってはいけない秘密戦隊。そのミッションがついに本格的にはじまる――。


「訳がないんだろうなぁ。どうせまたすぐにトンチキ展開に巻き込まれるんでしょ。知ってるわよ」


 よくおわかりで。


◆ ◆ ◆ ◆


 ダイナモシティのバスのりばから少し歩いて街の入り口。

 女エルフ達が暮らす世界と同じく、街の入り口には門があり中に入る者達を厳しく制限している。そこそこの列になっているその最後尾に、女エルフ達はつけた。


「身分証とか持ってないけれど、大丈夫かしら」


「大丈夫だ。君たちは秘密戦隊ということで、都市内への出入りは基本的に自由だからな。そこは心配要らない」


「じゃぁ、バスに乗る必要はなかったんじゃないの?」


「郷には入りては郷に従えですよモーラさん」


「だぞ、あれがこの都市における移動手段のメインなら仕方ないんだぞ。怪しまれないように都市に侵入するためにガマンガマンなんだぞ」


 そんなもんですかねとぶぅたれる女エルフ。

 なんにしても彼女達は検問をくぐるためにしばし列に並んで待った。

 大体半刻くらい待つことになるだろうか。


 これは意外と長丁場になりそうだなと、女エルフがあくびをしたその時だ、彼女の背後をのっそりと大股で歩く男が通り過ぎた。


 肩で風切るその姿はまさしく冒険者。

 けれどもそれにしては軽装。


 渋い青色の貫頭衣――のような服に、腰に細身の剣をぶら下げていた。


 ただなにより気になったのはその顔つき。


「なにあれ、刀創がすごいことになってる」


「剣士の方でしょうか。なんにしても、あんな怪我を負っている冒険者はなかなかおめにかかりませんね。今はあの程度の傷なら、整形魔法でちょちょいのちょいで治せてしまいますから」


「怖いんだぞ」


「なんでしょうか。私たちの知り合いにはあぁいう感じの方いませんよね」


「顔の傷は戦士にとって名誉のものでもないんだがな。ふむ、もしかするとアレもなにか刺客の類いか……」


 そんなことを思って眺めていた男が、突然衛兵に取り押さえられる。

 どうやら列を無視して中に入ろうとしたらしい。こら止まりなさいと肩を押さえ込まれたおっさんは「はなせや!」といきなり叫ぶと衛兵達を突き飛ばした。


 騒然とする場。すぐに増援に取り囲まれたおっさん。

 すかさず彼は腰に結わえいていた武器に手をかけた。

 どうやらここで暴れはじめるらしい。


 止めるかと女エルフが男騎士の方を向く。


 どうにもおっさんの方にこの場は非がある。

 どういう事情があるにせよ乱暴はよくない。そしてあの刀創からそこそこに修羅場はくぐっていると見受ける。かなりの乱戦になるのは必至。


 手助けがいるかもしれない。

 しかし、男騎士がその問いかけに答えるより早く、待ってくださいまってくださいよと、後ろから追いすがるように四人の男が駆けてきた……。


「すみません、この人ちょっといろいろあって焦っていて」


 ひょろりとした中年男性。


「悪気はないんです」


 ちょっとだけ体躯のいい男。


「どうかここは一つ、穏便に済ませていただけないでしょうか」


 ロマンスグレーにパリッとした上等の服を着た紳士。


「オネガイしまーす、どうかお慈悲ヲー!!」


 そして金色の髪が眩しいあごけつ男。


 どうにも冒険者には見えない集団の登場。おっと、なにやら雲行きがあやしくなってきたぞと、女エルフ達は思わず止めようとした手を引っ込めていた。


 がいがいとざわつく列と衛兵。

 どういうことだと門の方から責任者らしい男が一人出て来る。すると、水色の服を着た男にかわって、この一団のリーダーらしきひょろりとした中年男性が前に出た。


「いやすみません。実はですね、私たちちょっと事情があって、すぐに自分の家に帰宅しなくてはいけなくなりまして。列に並ばなくてはいけないのはやまやまなんですが、つい焦る余りに順番抜かしを」


「街の中に入るのはこれがルールだから。守ってもらわないと困るよ」


「それは分かっているんですけれど。なにせ、一刻も争うことなので」


「……なにかあったんですか?」


 気になる口ぶり。

 列に並ぶのを無視してまで、家に帰らないといけないというのはよっぽど抜き差しならない状況なのだろう。家人の誰かに不幸でも起こったか、あるいは彼ら自身に何か不足の事態が起きたか。


 詳しく聞かせていただけますか。

 流石の責任者も心配そうな顔をする。

 それに、実はと合せるひょろりとした中年男性。


「我々五人は、やっかいな呪いにかかっておりまして。その呪いがそろそろ発動しそうな気配がしたんですよ」


「やっかいな呪い。それはいったいどんな」


「それは……説明しても信じていただけるかどうか。そして、私の口から説明するのもはずかしいといいますか。なんといいますか」


「言ってくださらないことには、こちらとしても協力することはできません。逆に、お話いただいた内容が納得できるものなら、私たちもそこは融通しますよ。さぁ、どうかおっしゃってください」


「……いや、けど」


「何を恥ずかしがっておられるんですか!!」


 なんか話題が白熱してきたなと眺める女エルフ。

 自分たちには関係ないやと耳の穴でもほじりそうになった所に――。


「実は私たちの娘が魔法少女でして」


「……なんだと?」


 三百歳にしてはなにかと馴染みがあるし縁のある、ちょっと普通の会話では聞くことのないワードが飛び込んで来たのだった。


「なるほど魔法少女。それで、それがいったい皆さんになんの影響が?」


「娘達は魔法少女になるのに取引をしていましてね。彼女達が魔法少女に変身する度に――」


 私たちお父さんの服がビリビリに破れて全裸になってしまうんです。


 聞いたことのない魔法少女のかなしき呪い。

 おもわず、自分には関係ない、そんな事態には一度も遭遇したことはないとはいえ、女エルフは白目を剥いてしまった。

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