第1026話 セクシーエルフさんと理想のエルフレスポンス

【前回のあらすじ】


 どエルフ地獄炸裂。

 ハメ技のように女エルフたちを襲う恥ずかし展開。

 箸が転んでもおかしいお年頃ならぬ、どエルフが何を言っても面白い展開。そこから抜け出す方法が見つからず途方に暮れる女エルフ。


 どうすればいいのか。いや、なんと言えば助かるのか。

 というか、なぜ普通の事を言っているだけのはずなのに、こんな風に笑われなければならないのか。ちょっといくらなんでも扱いがひどすぎるのではなかろうか。

 そんな疑念に心を苛む女エルフ。


 そんな彼女を救わんと、蒼天から肌色の機体が彼らの前に降り立った。


 プリめくケツ。

 たなびくふんどし。

 そして額から流れるひとしずく。


 そのELFは間違いない――。


「チェーンジ!! セクシーエルフ!!」


 女エルフの兄を模したELFこと、キッカイマンだった!!

 彼女達の危機と聞いてかけつけた、エルフの中のエルフのロボット。彼はさっそうと女エルフの前に立つと、ここは変わろうと選手交代を申し出た。


 はたしてキッカイマンはこのエルフ地獄を抜け出すことができるのか。

 女エルフが抜け出すことができなかった、エルフ弄り地獄から脱出できるのか。

 というか、女じゃないけれど大丈夫なのかキッカイマン!!


 はたしてキングエルフの運命やいかに。今週もどエルフさん、週頭からフルスロットルでお送りいたします。


◆ ◆ ◆ ◆


「本当にやるんですか?」


「もう既に女性じゃない時点で出落ち感が半端ないんですが」


「当たり前だろう!! キングエルフの名は伊達ではない!! 心配しなくても、この程度のことで狼狽える私ではないわ!! さぁ――バッチコーイ!!」


「違う人じゃん」


 それはレイザー装備の人の方である。

 ふんどしとかセンターの人じゃない。

 ツッコむと、そのフォームになりそうなのでやめておく。

 なんにしても、キッカイマンは不退転の覚悟。女エルフに変わってこのコントをなにがなんでもやりきるつもりのようだった。


 その心意気やよし――と言いたい所だけれど、ちょっと絵面が汚すぎる。

 ふんどしの大男。エルフというには野趣に溢れたその姿では、どうやってもヒロイン役は厳しかった。


 本当にやるんですかという男の視線に、やらいでかと男らしく答えるキッカイマン。しぶしぶという体で、刺客達はコントを再会した。


「安直なエルフ――たしかに、エルフということ意外なんの特徴もなさそう!!」


「……あるぞ!! いくらでもな!!」


「なんで某宇宙海賊みたいな返事をするかなぁ」


「「……たとえば、どの辺り?」」


「どの辺りだと――そんなの、見れば分かるだろうが!! お前達の目はそれでも節穴か!! さぁ、ほら、よく見てみろ!! このエルフの身体を!!」


 質問返し。

 質問を質問で返し、回答権を相手側に委ねることにより、自分のダメージを回避する高等テクニック。力関係によっては「質問を質問で返すな」で一蹴される技だが、この場合は体格差が如実に効いていた。


 キッカイマンの筋骨隆々の身体を前にして、ちょっとそう言い返すことはできない。気後れした刺客の男と女は、「うぅん、どう思う」と顔を見合わせた。

 男がまずキッカイマンの方を見る。


「えっと、その、やっぱり男だということですか?」


「エルフは男であっても美しい!! 男エルフでもヒロインになれる!!」


「なれるか!!」


「……妹さんは、あぁおっしゃっておられますが?」


「アイツはダメだ。まだまだエルフ力もヒロイン力も足りていない。あんな半端モノでは物語のヒロインを務めることなど不可能。できてせいぜい、パーティーにおけるコメディリリーフ的女エルフが精一杯というもの」


「立派に1000話ヒロインつとめあげたわ、ちゃんとモノは見て言えこのタコ」


 男エルフではヒロインはやはり無理な気がした。

 線の細い、中性的なエルフだったらできるかもしれないが、エルフにしては筋骨隆々、森の賢者――ゴリラみたいなエルフキングではヒロインは無理な気がした。


 いや、線が細くても無理だろう。男がヒロインなんて発想がまずおかしいのだ。


 すぐに顔を見合わせる刺客の男と女。

 今度は女の方が、おそるおそるという感じで声を出した。


「えっと、じゃぁ、男というのが特徴だとして、どのように他のエルフがヒロインの作品と差別化していこうと考えていますか?」


「差別!! 貴様はヒロインが男だというだけで差別する気なのか!! このご時世にそんなセクシャルマイノリティに理解のないことでは先がおもいやられるぞ!!」


「いや、そういうつもりでは」


「じゃぁどういうつもりで言ったんだ!! 言ってみろ!!」


「セクシャルマイノリティを引き合いにだしていちゃもんつける方が問題だわよ」


 やめなさい。流石に止めようとした女エルフに、「セイ!」と手を出すキッカイマン。やはり違うパロ元。しかも、セクシャルマイノリティをモロにネタにしたキャラクターにちょっと女エルフも顔をしかめる。

 しかし、キッカイマンもいつになく真剣な面持ちだった。


 じろり睨まれる刺客の女。刺客にしては線は細いし体つきも華奢な彼女は、うぅっと涙目になる。ちょっと虐めるのはやめてくださいと男の方が前に出た。

 刺客の言い草ではない。けれど、絵面はまったくもって、筋骨隆々の男がか弱い女の子を虐めている意外のなにものでもなかった。


 今はその娘に話を聞いているんだ、黙っていろと一喝するキッカイマン。

 さぁ、言ってみなさいと彼は続ける。


「その、あの、どういう風に、他と違う面を強調していくのかっていう、そういう意味での差別であって。男が女がとか、そういうことが言いたい訳ではないんです」


「なるほど……はいはいはい、よく分かりましたよ。そういうことね」


「いや、よく聞かなくても分かるだろう。普通に言葉のニュアンスくらい」


「お嬢さん。ごめんよ。私が間違っていたよ。君は、すばらしい心の持ち主だ。男のヒロインがどうやれば女のヒロインに勝てるか。それを真剣に考えてくれているんだね。私は感動してしまいました」


「なんだこの流れ」


「それに比べて――モーラ!! お前という奴はどうなんだ!!」


「だからなんだこの流れ!!」


「最初から男にヒロインができないなんて決めつけて!! おまえのような奴をな、○○○が貧相って言うんだ!! 何か分かるか!!」


 なに言っているんだとキッカイマンを睨みつつ、女エルフは考える。

 ○○○に入る言葉。三文字でしっくりとくる奴。


 まぁ普通に考えて頭が悪い系。

 「発想」だと二文字なので、それの言い換えだろう。


 いろいろと言い回しを考えて、彼女はその三文字の言葉に思い当たった。


「……おつむが貧相」


「違う!! おっぱいが貧相!! つまり貧乳だ!!」


「四文字やろがい!!」


「レッツゴー!!」


 キッカイマンのかけ声とともに、バスが割れて周りから大量の女性型ELFが飛び出してくる。なんだなんだと狼狽える女エルフ達の前で、またしてもあの軽妙な音楽が流れはじめるのだった。

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