第1027話 セクシーエルフとセクシーダンサーズ

【前回のあらすじ】


 男エルフだってヒロインができる!!

 そう信じて譲らないセクシーエルフことキッカイマン。彼には男エルフがヒロインを立派に務めてあげてみせるという確信があった。

 鍛え上げた己の肉体は、ファンタジーのセックスシンボル、何もしない女エルフの生まれついての身体より美しいという自負があった。


 努力が才能を凌駕する。

 そう信じて、己の身体を鍛え上げ成長してきたキングエルフ――そのコピーであるキッカイマンにも、そんな想いが脈々と受け継がれていた。

 故に勝てる。美しさを追求した男エルフだって勝つことができるのだ。


 だるだるの脂肪の塊のおっぱいより、引き締まった筋肉質な大胸筋の方が美しい。

 磨き上げられた肉体にこそ真の美が宿るのだ。

 キッカイマンは叫んだ。


 男エルフはヒロインになれる!!

 人は性別を超えて何かになることができる!!

 けれど貧乳はどうしようもない!!


「言うとらんがな!!」


 レッツゴーのかけ声とともにバスが割れて女型ELFが大挙して女エルフ達を取り囲む。なんだか上のような流れを完全に無視して、鮮やかに決まるどエルフ弄り。

 助けに来たと思ったのに、逆に攻められる――いつもの展開がまたしてもはじまろうとしていた。


 流石はエルフキングのコピー。

 妹の弄り方をしっかりと把握していた。


◆ ◆ ◆ ◆


「誰の何が貧相だって? エルフはこれが標準サイズ。そうよねバカ兄貴?」


「いや、それは男のエルフであって、女性はもっと豊満――いえ、なんでもありません。標準サイズです。標準ですから杖を離してください」


「だめですモーラさん!! 神の愛の注入はもっと丁寧に!! そんな爆発させたり痺れさせたり、乱暴にしてはいけません!! やるなら、ひと思いにぶすりと!!」


「だぞー、なにもみえないんだぞー、はなしてなんだぞー、エリィー」


「ダメですケティさん!! 見てはいけません!! これは、兄妹でやってはいけない奴!! 禁断の愛情表現!! 大人になるまでお預けです――はぁはぁ!!」


「兄妹でもないし、神の愛の注入もなにもエルフは無神論者だし、愛情表現というよりも上下関係をはっきりさせているだけよ」


 キッカイマンダンスがはじまるかと思いきや、女エルフがすかさず魔法を撃ち込んで兄のコピーを止めた。


 すっかりとアフロヘアーになって再起不能になるキッカイマン。

 やられっぷりまで完全コピー。

 そして、女エルフに力で勝てないのもそのままだった。


 鍛え上げた筋肉は確かに肉体美という点では凌駕する。

 しかし、エルフはもともと虚弱な一族。その虚弱さを補うために、魔法によって力を補っていた。むしろそちらに才能があった。


 鍛え上げた筋力も、知性の前には敵わない。

 それは長いエルフ達の歴史が証明している事実であった。

 エルフ達にとっては筋肉よりも知性こそがパワー。つまり賢いモノこそ、真にエルフの中の強者。エルフゴリラであった。


 ひとしきり兄をしばきあげた女エルフがふぅと息を吐く。そのオラついた視線が向かったのは、キッカイマンが呼び寄せたELFたち。抜き差しならないその視線に、うぇっと彼女達はどよめきの声を上げる。


「大丈夫よとって食いやしないから」


 その発言がすでに危なっかしい。まるで次の獲物を求めるようにふらふらと彼女達に近づく女エルフ。邪悪な笑みを浮かべた彼女、すっかり怯えるELFの一体に歩み寄ると、ぽんとその肩を叩いた。


「アンタ達も大変ね。あんなクソみたいなエルフ男に付き合わされて」


「……あ、いえ、その。これも仕事ですので」


「えらいわ。こんなの誰もやりたがらないでしょうに。文句も言わずやるだなんて。貴方たちは偉い。本当にすばらしいわ」


「ありがとうございます」


「けどね、仕事は選ぶべきだと思うの。あんな変態と一緒にいたら、貴方たちも変態だと思われるわよ。それでもいいのかしら」


 ざわりと女型のELFたちがざわつく。

 いったい自分達はこれから何をされようとしているのか。

 ロボットなのに彼女達は顔を青ざめさせた。そして、目の前で一人だけ笑っている女エルフに不安の視線を送った。


 あの、と、リーダー機らしき一体が女エルフに語りかける。


「私たちはその、望んでこの仕事をやっているんです」


「そうです。私たち、普段は普通のELFで、他の女形ELFと識別することも難しくって。けれど、こうしてキッカイマンさんの後ろで踊っている時だけは――」


「特別な機体になれるような気がして。それでやっている所があって」


「確かにそれは辛いこともあります。こんなスケベな格好だってしたくありません」


「けど、大勢の中に埋没してしまうことの方が嫌」


「私たちは確かに人間じゃないかもしれませんけれど――それでも、自分たちの望むように生きたいんです」


「「「「「生きたいんです!!」」」」」


「うるせぇーっ!! 機械エルフ如きが知ったような口でぐちぐちと!! なーにが生きたいんですじゃ!! 生きるのは勝手だが、エルフと種族に迷惑のかけない生き方をしやがれ!! そこのふんどしとよろしく、エルフの名誉を下げるようなことしてんじゃねえ!!」


 燃やすぞの一声と共に、きゃぁと散り散りに逃げ惑う女型ELFたち。

 一目散。女エルフたちに背中を向けて彼女達は、あっという間に森の中へと消えてしまった。後に残されたのはまだ怒りが覚めやらない感じの女エルフ。

 握りしめた魔法の杖をふりかざし、手当たり次第に魔法を森へとぶち込むと、彼女はふぅと息を吐き出した。


 一仕事終えた感じに、額の汗を拭う彼女。

 次に視線を向けたのは――この一連の女エルフご乱心を傍で見続け、すっかりと恐怖を植え付けられた刺客の男女だった。


 まさか目の前のエルフがこんなエゲツない女だったなんて。

 ただの貧乳ヒロインだと思っていた。


 そんな感じに、肩を寄せ合って震える二人。彼らに向かって女エルフは、またしてもその感情のこもっていない笑顔を見せると、優しい声色をかけた。


「さっ、続きをやりましょうか」


「つ、続きって」


「貴方たちが言う属性検証よ、ほら、さっきの続きを言いなさいな」


「そんな、もう、いいです……」


「はやく言えやゴルァ!!」


 子供相手に大人げなさすぎる。

 これが三百年の時を生きた、大人の魅力満載エルフのやることか。オラつきっぷりがエルフというよりもエルフを襲う方のそれ。


 オークや。エルフの格好をしたオークがおる。


 そんな感じで、刺客二人はすっかり涙目、こんな埒外に絡んだのを後悔するようにむせび泣くのだった。


「あ、安直なエルフ――特徴なんて、何もなさそう……」


「ありますよ? うふっ」


「「……こ、こわい」」


「おら、はよどの辺りがって言えや。話が進まんだろうが」


「ど、どの辺り……ですか?」


「見て分かりませんこと? 清楚なオーラが体中から溢れているでしょう?」


 溢れているのは怒気だ。

 ふざけたこと言ったらぶっ○すぞという負のオーラだ。


 白目を剥く刺客二人。

 いますぐこの場を逃げ出したい。そんな二人を、逃すかとばかりに睨みつけて女エルフ。ほら、言いがかりを付けられるものなら付けてみろやと強気に迫るのだった。


 プッツンしてしまった女エルフを止められる者などいない。


「……文句の付けようがない清楚エルフです」


「……気品で満ちております。流石です」


 かくして、女エルフ。

 彼女は半ば強引に、この最初のミッションをクリアしたのだった。


「もうっ、そんなに褒めなくてもいいのに。けど、嬉しい。キャピ★」


 清楚とは。

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