第1021話 どエルフさんと属性検証
【前回のあらすじ】
突然現われた
不意打ちの女エルフ弄りは卑怯。彼女にベストフィット&コミットされた腹筋は、いとも簡単に崩壊し、女修道士と新女王を沈めてしまった。
かくしてやってきた懲罰部隊に、ノリノリで尻を突き出したのは女修道士。
いつもの感じのエロネタムーブ。笑わないんですかと余裕のあるその反応に、女エルフはあきれかえるのだった。
彼女は、それで、いいと、して。
「いやじゃぁーっ!! お尻ペンペンなんていやじゃぁーっ!! くっ○!! くっ○してやるーっ!! わしゃ本気やぞーっ!!」
取り乱したのは新女王。
センシティブネタからは意図して仲間から遠ざけられていた一国の主。やんごとなき出自の彼女には、この手の下ネタ展開はちょっと荷が重かった。
女エルフと女修道士がなんとか止めたが、あと少しで本当にくっ○する所まで追い込まれてしまうのだった。
はてさて。
そんな感じで、卑劣な刺客の手によって、笑ってしまった女エルフ達。
なんとか尻をしばかれて事なきを得たが、ここから先もこのような展開が待っているのか。はたして躱しきれるのか。
破壊神の刺客との激闘は、まだはじまったばかりだ――。
◇ ◇ ◇ ◇
「……えっと、そろそろネタの続きをはじめてもよろしいでしょうか」
「すみません。なんかこんなにも簡単に笑っていただけるとは思っておりませんでして。あの、お尻は大丈夫ですか?」
情けをかけられる女エルフたち。
まだ始まったばかりだというのに、大きく取り乱してしまったこともあるのだろう。敵に大丈夫かと彼女達は哀れみの声をかけられてしまった。
それも、割とマジな奴。
煽る感じで情けをかけてくるのなら、それはそれでなにおうと話も転がれるのだけれどガチで心配されると女エルフ達も反応に困る。
あ、はいすみません、お気遣いありがとうございます。
敵との会話とは思えない、そんなやりとりを躱すと、それじゃ続きに入らせていただきますねと、謎の男女は話を再開した。
どうにも礼儀の正しい敵だった。
「本当だわ!! 高貴さも、美しさも、かわいげもない――ヒロインじゃなくていい所サブヒロインって感じ!! しかも昭和の香りがするね!!」
「え、そこから再開するの!?」
「……(チラチラ)」
「あ、はい、私が言わなくちゃいけないのね。ごめんなさい」
ぐふっと女エルフの後ろで笑いを堪える音がした。が、そこはスルーしておいた。
下手に突くと爆発しかねない。笑い所は、一度ツボるとしつこく残る。なんどもなんども繰り返し、笑いを取るのも一つのテクニックだった。
なので軽く流す。
「しばき倒すぞクソガキどもが!!」
「馬鹿野郎!! みゆき!!」
「きゃぁっ!!」
バチーンと男が女の頬を叩く振りをする。
なるほど、そういうコント仕立てかと女エルフ、ここは笑わないし驚かない。
何を天狗になっているんだと腕組み状態で女の方を見る男。どうやらここからが、話のキモのようだった。
「そうやって相手を見下すムーブをするんじゃない!! そんなことをすると、異世界という限界状況で本性がばれてしまった、浅ましい女同級生あるいは女教師みたいな扱いになるぞ!!」
「浅ましい女同級生、あるいは女教師!?」
「そうだ!! いわゆる悪役令嬢ポジションだ!!」
あ、わかるーと女エルフ。
こちらの世界で小説を読みあさりまくり、実は書く方にもちょっと脚を突っ込んでいる、隠れオタエルフにはそのやりとりがよく分かった。
異世界にやって来て馬脚を現すフェイクヒロイン。
ヒロインと思わせてさっくり退場するキャラクター。残酷な本性を現したと思ったら、本物のヒロインにサクッとやられる奴である。
そうそう確かにそういう展開あるわねと、笑いの刺客のやりとりに彼女は首を何度も頷いた。なんというか、すっかりと彼らのペースに巻き込まれていた。
「いいかみゆき!! 異世界に転移したらまず考えなくてはいけないのは、自分がこのストーリーで果たす役割についてだ!!」
「や、役割……?」
「そうだ!! ヒロインなのか、それともサブヒロインなのか!! あるいはさっき例に出したフェイクヒロインなのか、はたまた事件の黒幕なのか!! それをしっかり把握して行動しないと――死ぬぞ!!」
「死ぬのはいやだよタカちゃん!! 怖い!! いったい私は、このストーリーで何をすればいいの!?」
「それを知るためには――まずは状況の分析からだ」
大きく出た割にはやることが地味だなと女エルフ。
しらけた顔をしつつも、割とがっつり話にのめり込んでいる。
仕方あるまい、小説は彼女の好物である。
むしろ、彼女以外のメンバーはピンとこない感じ。
あきらかに普段からそういうのを読む人を狙い澄ましたネタ。
謎の男と女は、まず誰でもなく女エルフを狙いに来ていた。
そう、これは、このパーティの中で一番笑いの耐久度が高い、女エルフをまずは倒そうと仕組まれた流れだった。
「まず、ここはギャグ寄りのファンタジー世界。エルフなのに、崩れた顔のエルフが出てくることから、けっこう汚いギャグも平気でやるような世界だ」
「おい、汚い顔ておい。エルフの顔は総じて綺麗じゃ、バカタレが」
「待ってタカちゃん。このエルフ、さっきからツッコみもやってるよ!? これってちょっとおかしくない!?」
「おかしくないわい。ボケしか周りにおらんかったら、エルフもツッコむわい」
「そうだ。王道ファンタジーにおいて、エルフとはディードリットの時代から圧倒的な美少女。主人公が触れることも許されない憧れの存在。ツッコみなどさせるのは、ギャグファンタジー以外のなにものでもない」
「誰ドリットか知らないけれど、そんなことないと思うわ。割とお姉さんムーブかましながらおちゃっぴぃやらかしてる気がする。知らないけれど」
あと中身はきっとおっさんだと思うわ。
知らないけれど。
金髪色白の美少女で魔法も剣も使える万能キャラとか、おっさんの夢を詰め込みすぎワロスとしかいいようがないディティールだわ。
知らないけれど。
心配だわ、おっさんのことが心配だわ。
長生きして欲しいわ。ゆっくり養生してほしいわ。
元気になって、また面白いお話書いていただきたいわ。
こびをうっておくわ。(ゲス)
おっさんのことはともかく。
まったく酷い言い草ねと女エルフが息を吐く。
「けれども完全なギャグファンタジーではない。もし本当にギャグファンタジーならば、もっとそこのエルフのお姉さんはエロい格好をしている」
「なんでよ」
「なるほど!! ギャグファンタジーでも、見た目がセクシーじゃないと読者にはうけないからね!! そんな、マニアック過ぎてぱっと見人気が出なさそう、あきらかにダンジョン○の○シルにインスパイアされた感じの、おぼこエルフなんて受けないわよね!!」
「ちょいちょい女の子の方が言ってることきついんですが」
おぼこエルフが白い目で言った。
まったくもってその通り。どエルフなのにお色気要素が普段着に皆無なのは、言い逃れ用のない事実だった。
そして、確かにただのギャグファンタジーではなかった。
セクハラファンタジーだった。
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