第1018話 どエルフさんとバカップル襲来

【前回のあらすじ】


 中央大陸連邦共和国に住む人類に協力を求める宇宙戦艦オーカマ。うさんくささを感じながらも、連邦騎士団とリーナス自由騎士団は、その申し出を受け入れた。


 かくして、連邦騎士団は第二騎士団隊長の凶戦士がオーカマに向かう。

 しかしながら彼をピックアップの地で待っていたのは、創造神の使徒ではなく暗黒神の使徒――紅騎士であった。


「なんのつもりだ!! 不意打ちとは卑怯だぞ!!」


「卑怯おおいに結構。こちらも、手段を選んでいられない状況になっちまったのさ。悪いが、少しばかり眠っていてもらうぜ、ヨハネクレンザー二世」


 紅騎士が繰り出したのは剣技ではない。

 魔法アイテム――獄門○見えないように梱包しております

 対象者を封印する魔法アイテムに囚われて、身動きが取れなくなる凶戦士。そして、そんな彼から、仮面を強奪する紅騎士。


「悪いな、本当に俺たちも切羽詰まってるんでな。破壊神の力、手に入れられるものなら手に入れさせてもらうぜ」


 はたして、彼の目的は。


 暗黒大陸勢参戦で、ますます混迷を極めだした第九部。

 無事に女エルフたちは人類の未来を救うことができるのか。


 そして、シリアス一転、このタイトルはまたバカネタになるんじゃないのか。


 そんな波乱と不安を含みつつ、今週もどエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


 バスは進むよどこまでも。


 場所は変わって、ここは南の大陸。密林熱帯都市から続く道の上。

 車が走るのに適していないあぜ道を、女エルフ達を乗せたバスは進んでいた。


 エルフバス。

 トラックではない。


 そして女エルフの強い意向で宣伝ソングも止められていた。

 恥ずかしいのは痛々しい見た目だけ。まぁ、それについては密林ツアー、人と出会うこと自体がそうそう起きない。遠くまで響く歌と違ってこっちはそこまで目くじら立てなくてもいいかと、女エルフも目を瞑った。


 オフロードのごつごつとした道が、彼女達を乗せたバスを大きく揺らす。舗装されていない道を走るためタイヤのゴムは厚め、サスペンションもきつく設定されて、とにかく激しく揺れる。


 決して快適とは言えないその旅程に、メンバーはさっそく顔色を青くしていた。

 特に、この手の移動にはいつも万全の状態で挑んでいたお姫様、新女王が一番きているようだ。

 その顔を青ざめさせて、今にもリバースしそうに苦悶の表情を浮かべていた。


「……は、は、はっQ」


「やめなさいエリィ。その格好でリバースしたらほんと洒落にならないわよ」


「多方面に迷惑がかかりますからね」


 V小説で次世代の覇権を握ろうと各出版社が蠢動しているこの時期にあまりに不穏すぎるネタ。メタネタは自重している女エルフも、そこはすかさず止めておいた。

 世の中には弄っていいネタと悪いネタがあるのだ。


 とはいえ、Vじゃなければやっていいという訳ではないが。


 某、海外で一大コンテンツと化したヒーローモノ。

 三十周年記念を目前に控えた大作RPG。

 えちち禁止の異例ソーシャルゲーム。


 そりゃこのそうそうたる、扱いづらいパロ元に囲まれれば、豊乳戦士ボインジャーくらいしか気軽にいじれるものはなかった。

 バスに顔も印刷されてしまうというもの――。


「いや、関係ないやろがい!!」


 第三の壁を気軽に突破しつつ、都市への険しい道のりは続く。

 まず最初に彼女達が向かうのは、怪人達が跋扈する都市――ダイナモ市。はたしてどんな奴らが待っているのか。そして、どのような戦いが発生するのか。

 女エルフは一人、窓の外を眺めて息を呑んだ。


 すると、女エルフの視界に妙なモノが映り込む。


「……あれ? ちょっと、何かしら?」


「どうしましたモーラさん? 空飛ぶパンティでも見つけました?」


「見つけるかい!! 幻覚見とる奴やろがい!! 変な言いがかりかけるな!!」


「エロいこと言えないストレスで、ついにそっち方面に逃げたのかと」


「……だぞ? 辛いんだぞ、モーラ? 悩みがあるんだぞ?」


「お姉さま、辛いなら辛いと、私たちに相談して――うっぷ」


「だから違うと言うとるだろうが!! ほら、前見て前!! 人が居るでしょ!!」


 女エルフが指差した先。バスの進行方向には確かに人影があった。

 こんな密林のただ中、道の上とはいえそんな所に人がいるだろうか。しかも、なにやら目印のような衝立の前に並んでいる。


 これは何かの罠ではないのか。

 あるいはまだ都市に到着していないのに、破壊神の怪人と遭遇してしまったのか。

 なんにしても、これはまずいのではないかと、女エルフが真剣な顔をする。


 男騎士パーティ全員が、その謎の人影に目をこらす中――ゆっくりとバスが減速しはじめる。いったい何をと戸惑う暇もなく、バスはその謎の人物達の前で停車すると乗降口をぱかりと開いた。


 まずい乗ってくる、女エルフが身構える。

 はたして密林のただ中に現われた影――男と女、白色をした半袖の服を着たそいつらは、なんの遠慮もなくバスに乗り込んできたのだった。


 そう、その二人は――。


「いやー、こんなジャングルの奥で迷子になるなんて、びっくりしたなみゆき」


「そうだねタカちゃん。気がついたら異世界なんて、そんなことあるんだね」


「元の世界に戻るために何をすればいいのか。どうすればいいのか。さっぱりと分からない。けれど、みゆきのことは俺が絶対に守るからね」


「やだ、タカちゃんってば、こんな時までかっこつけちゃって」


「俺は本気さみゆき。そう、幼馴染同士で異世界転生、あるいは転移。元の世界になんとしても戻ろうと決意するこの展開。まさに、ザ・王道。ザ・なろう」


「あぁっ、これはまさか!! 久しぶりの属性検証の流れね!!」


「そう!! 今回の属性検証は――異世界転移で一緒になったヒロインだ!!」


 ぽかん、と、女エルフたちが口を開いてあっけに取られる。

 それもそのはず、彼らの前に姿を現した二人。彼らの言っていることが、さっぱりわからんちん、なんのこっちゃでツッコミようがなかったからだ。


 いや。

 この手の小説を読みあさっている女エルフはちょっと分かる。

 繰り出されるこの独特のノリ。そして、言っていることのトンチキ感。

 まちがいない。


「これはシチュエーションラブコメディの匂い!! 一話完結で繰り出される、メリハリがある――かどうかは作者の力量によるけれど、とにかく単話で閉じて笑わせようとする作品のノリ!!」


「えぇっ!?」


「だぞっ!?」


「いったい何が始まるっていうんですか!?」


 戸惑う女エルフ達の前で、じっとお互いの顔をみつめあう男と女。


 彼らの名前は――たかしとみゆき。


「……たかちゃん!!」


「……みゆき!!」


「たかちゃん!!」


「みゆき!!」


「「「「何がはじまろうとしているの!?」」」だぞ!?」


 謎の男女のいきなりの乱入。

 はたしてパロ元よろしく、バスに乗り込んできた謎の人物たちによる、よく分からないコントが唐突にはじまろうとしていた。

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