第1019話 どエルフさんと笑いの刺客

【前回のあらすじ】


 中央大陸連邦共和国から再び熱帯密林都市へ。

 怪人ひしめくダイナモ市へと向かうバスの中、女エルフ達は待ち構える破壊神の使徒達を思ってしばし静かな時間を過ごした。


 はたして自分達は無事に都市に潜入できるのか。

 待ち構えているモンスター達を相手に巧く立ち回ることができるのか。

 そして、このコスチューム下手に弄ると大やけどの可能性が大きすぎないか。

 女エルフの豊乳戦士ボインジャーしか安全に弄れないんじゃないか。


「いや、だからボインジャー関係ないやろ!!」


 などと思っていた彼らの元に、さっそく破壊神の刺客が現われる。


 バスの中になだれ込んできたのは男と女の二人組。

 こちらの世界の住人にしては、少し珍しい姿格好をした彼らは、さっそく女エルフ達の前で、謎のコントを繰り広げだしたのだった――。


「……たかちゃん!!」


「……みゆき!!」


「たかちゃん!!」


「みゆき!!」


 女エルフたちは知らない。

 こいつらが、芸人のパロディでもなく、漫画やアニメのパロディでもなく、さらに言えばライトノベルのパロディでもないことを。


 そうこのパロディは――。


○属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

https://kakuyomu.jp/works/1177354054886514072



 作者の旧作、セルフパロディだったのだ。


 この展開、需要ありますかね?


「聞くくらいならやるなよ」


◇ ◇ ◇ ◇


「ところでみゆき。異世界転移において一番大切なことは何か分かるか?」


「……わからないわタカちゃん。なにがいったい大事なの?」


「異世界転移というのはあくまでギミック。ジャンルのようであって実は物語の導入でしかないんだ。ざまぁ、悪役令嬢、転生なんかと同じで、分かりやすい物語の入り方――つまり、本当に大切なのはもう一つ上なんだ」


「もう一つ上?」


「そう、どんなジャンルの世界に転生したのか!! これが重要!! 王道ファンタジーか、ちょっと捻ったファンタジーか、ギャグファンタジーかハイファンタジーかそれともSF、あるいはゲームの世界!! それによって、一緒に異世界転移してきた相手との関わり方も違ってくる!!」


「違ってくるんだね、タカちゃん!!」


 何を言っているんだ、こいつらは。

 女エルフと女修道士シスターが苦い顔をする。言葉の意味が分からずに、苦虫を噛みつぶす。いや、女エルフは分かる。そういう小説を読んでいるから。


 読んでいるけれども、実際にそんなことを言う奴にあったことなど一度もない。

 どういうことだ、なんでこんな小説みたいなことを言うんだ、というか、異世界転移なんてそうそう起こるものじゃないだろう。


 パニックを起こす頭。

 ついていけない展開。

 いったいこいつらはなんなのか。


 そこに、だぞとワンコ教授が声を上げる。


「これは間違いない!! 異世界転移者ドリフターなんだぞ!!」


異世界転移者ドリフター? 前にあの、ヨシヲたちと一緒に捕まえた?」


「だぞ!! そうなんだぞ!! その奇っ怪な服装や発言、間違いないんだぞ!!」


 異世界転移者ドリフター

 時たまこの世界に現われる、異世界からの訪問者――という体の謎の存在。


 なるほど確かにこのノリは、以前女エルフ達が遭遇した異世界転移者の少女によく似ている。

 そういうことかと彼女達は納得した。


 しかし、それはそれとしてなぜそんな者達が、いきなりこの場に現われるのか。

 南の大陸の奥地に現われるのか。


「もしかして、異世界転移者も神々が関係しているとか?」


「……可能性はあるかもしれません」


「実は異世界転移者はELFで、ここの記憶を失っている……とか?」


「だぞ!! エリィ、その推理はもしかすると当たりかもしれないんだぞ!!」


 にわかに盛り上がる女エルフ達。

 謎の存在の正体見たりと、彼女たちが話に花を咲かせる。


 そんな前で、謎の男と女は我関せずという感じに、淡々と会話を続けていた。


 絶妙なすれ違い具合やこれいかに。

 しかし、それを指摘する者はここにはいなかった。


「見てみろこの異世界を。見事なジャングルに、見るからにファンタジーな住人達。けれども、ハイファンタジーのような重苦しさはなく、皆ポップな格好をしている」


「基本無料のゲームに出て来そうな軽さだねタカちゃん」


「あぁ!! レアリティ☆2くらいのデザインだ!!」


「いや、流石にそれはほっとけや。誰がレア☆2キャラじゃ」


「特にあのエルフ!! 見てみろ、絶妙なブサイクっぷり!! あれは間違いない、ギャグ担当のおとぼけエルフだ!!」


「本当だわ!! 高貴さも、美しさも、かわいげもない――ヒロインじゃなくていい所サブヒロインって感じ!! しかも昭和の香りがするね!!」


「しばき倒すぞクソガキどもが!!」


 その時だった。


 女エルフたちの乗るバスにアラームが鳴り響く。

 ビービーという警告音と共に、流れて来たのは間延びした声。

 男ダークエルフによく似たその声は――。


「コーネリア、エリィ、アウトー!!」


 女修道士シスターと新女王の名を叫びアウトを宣言する。

 たちまち、バスの入り口からかけてきたのは黒いマスクに全身タイツの女達。


 彼女達は神の注入棒と書かれたふにゃふにゃの棒を振りかざすと、さぁそこに座れと女修道士達に迫った。


 これはいったい。


 いや、それはすぐに女修道士たちの顔を見ればわかった。


「ぷっ、くすっ、サブヒロイン……ふふっ」


「ダメよエリィ。笑っちゃだめ。お姉さまが傷ついちゃう。けど、昭和って」


「……お前ら」


 笑ってしまったんかい。

 絶対に笑ってはいけない秘密戦隊。出発してからまだ一刻も過ぎていないというのに、早速女修道士と新女王は、敵の卑劣な罠にかかってしまうのだった。


 そう、転移者などではない。

 女エルフたちの前に現われた謎の男女の正体は――。


「まずは二人だねタカちゃん」


「あぁ、この調子で、バンバン笑わせて撮れ高を稼いでいこう」


「破壊神からの刺客!!」


 さっそくの登場、破壊神ライダーンの刺客だった。

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