第1010話 どムラクモ少佐と機械戦士
【前回のあらすじ】
神業。まるで呼吸のように繰り出される怒濤のアクション。
突入から制圧まで十も数えないほど。
突然現われた謎の女。
そのスタイリッシュ無双によって、女エルフたちは捕らえられてしまった。
腕を後ろに回されて拘束される女エルフ。不覚も不覚の大不覚。彼女を人質に取られてしまったことで、男騎士パーティは行動不能に追い込まれる。
そんな彼らに謎の女が求めるのは、破壊神VS知恵の神の代理戦争からの撤退。
しかし、そうほいほいと敵の話を聞くような男騎士達ではない。
閃光弾で視界を潰されながらも、やぶれかぶれのバイスラッシュを放ち、謎の女の隙を突く。その腕を切り上げると女エルフの拘束を緩めてみせた。
謎の女から逃げる女エルフ。
その一方で、腕を跳ね上げられた謎の女は、忌々しそうに男騎士を睨む。
謎の女もまた男ダークエルフたちと同じELF。腕を切り落とされた所で、機械の身体にはさほどの影響はない。とはいえ、ここは引き際か。
彼女は相棒の巨大なからくりを呼び寄せ、女エルフの前から姿を消した。
はたして彼女の正体は。
そして、やっていいのか、こんなおとぼけギャグ小説で、ガッチガッチのSF漫画傑作のパロディを。
サイバーパンク待ったなし。
いよいよそれっぽくなって来た所で今週もどエルフさんはじまります。
◇ ◇ ◇ ◇
ここで視点は女エルフたちから変わって謎の女――もとい少佐へと移る。
「……参ったな。思った以上にアリスト・F・テレスの洗脳は強固だ」
「あのニセモノ野郎がモーラちゃんに信頼されてるのが痛いな。つけいる隙がねえ」
多脚を動かして暗い通路を走る機械蜘蛛。
通路を塞ぐように天井から降りる隔壁。それに向かって、機械蜘蛛がバックパックから弾頭を繰り出す。徹甲弾。分厚い隔壁は見るも無惨に打ち抜かれ、一人と一機が通るには十分な穴がそこに空いた。
機械蜘蛛のバックパックに背中を預けてふぅと少佐が息を吐く。機械の身体には酸素の供給は不要。しかし、まるで生身の人間のような仕草であった。
「機械の身体は便利なようで不便だな」
「そうか? 俺は久しぶりに思うさま動けて快適だがな。なんだったら、このままこの姿でもいいくらいだ」
「お前はそうかもしれないが、壊れてもいいというのが慢心を産む。先ほどの戦いも生身だったら負けはしなかった」
「電脳化の弊害って奴だな」
「このままでは生きているのかいないのか分からなくなりそうだ。やれやれ、この感覚を破壊神が恐れたのもなんとなくだが理解できるな」
そう言って少佐はじっと自分の切り飛ばされた腕を眺めた。
血の通わない、鋼と樹脂で出来たそれを、水晶の瞳が眺めている。ちかちかと目の奥で光が瞬いたかと思うと、彼女はそっと瞼を下ろした。
その表情の奥にどんな思惑があるのかは分からない。
ただ、神に言われるがままに破壊に走っているのならば、そんな感傷に浸るような反応はしないだろう。どうやら彼女は破壊神の忠実な部下、彼の僕ではなく、自分の意思で動いているようだった。
かぶりを振って迷いを振り払う。いかんなとぼやいて、少佐が前を向く。
熱帯密林都市の地下をミサイルと銃弾により強引に引き裂いて進む機械蜘蛛。その前方にようやく明るい日の光が見えた。
「さて、これからどうする?」
「彼らの行動を阻止する。なんとしても、アリスト・F・テレスの思い通りにさせてはならない。また、モーラさんやコーネリアさんたちに、知らぬとはいえ悪事の片棒を担がせるのは気が引ける」
「繊細だもんな、あの娘ら」
「まずは彼女達がどこに潜入するかだ。なに、さっきのどさくさに紛れて、盗聴器をモーラさんに仕掛けてきた。本部で待機しているメンバーが、彼女達の潜入先は教えてくれる」
「……はたしてそう上手くいくかな!!」
「「なにっ!?」」
どこからともなく響いた声に少佐と機械蜘蛛が声をあげる。すぐさま辺りを見渡せば、土煙を上げて走る機械蜘蛛の背を追って、迫る人影が見えた。
ミサイルによって破壊された道路。
瓦礫や鋼材が散乱するそこを、器用に二本の脚で駆け抜けてくる。
疾風怒濤。
人の動きとは到底思えぬ全力疾走。地面を蹴り上げる足の裏からは、尋常ではない土煙が巻き起こり、暗い地下の中にもそれと分かった。
何者か。
人間か。
モンスターか。
ケンタウロスか。
はたまた、ウマの娘か。
いや、そのどれでもない――。
「セクシーELF!!」
「「げぇっ!! エルフキング!!」」
光る肌色。
たなびく金髪。
鼻につく汗臭い笑顔。
そして、地面につかない絶妙の所でそよぐふんどし。
プリッ!! プリめくひきしまったいいケツ!!
そのケツの持ち主の名を、私たちは知っている!!
追いついてきたのはELFの中のELF。エルフキングの情報から作られたELFこと、機械戦士キッカイマンであった。
疲れを知らぬ機械の脚ならば、機械蜘蛛の脚にも追いつけるというもの。
機械VS機械。人間の枠を越えたレースがいまここに始まろうとしていた。
「ELFファイナルここに開催だ!! どちらが最速のELF娘か、いざ尋常に勝負勝負勝負!!」
「「いや、どっちも娘じゃないだろう!?」」
宣戦布告する機械戦士に冷静に突っ込む少佐と機械蜘蛛。切羽詰まっているように見えて、そんな返しをするあたり、案外余裕があるようだった。
しかしその余裕とスペースを、すぐさま機械戦士は詰める。
徹底マークかそれとも差しか。
あと少しで地上に出ようかと言うところで、機械戦士の脚が機械蜘蛛の影を踏む。手を伸ばせば捕まえられる、おそるべきかな機械の身体、いや、エルフキングのポテンシャル。
あっという間に、少佐たちは機械戦士に追いつかれてしまった。
「貰った!! 観念して貰おうかテロリストよ!!」
「ちっ――少佐ァ!!」
「任せろ!! たぁああっ!!」
機械戦士が伸ばした腕が、機械蜘蛛のバックパックに触れたその時、その胴体との継ぎ目に向かって少佐が手刀を撃ち込んだ。
鋭い一撃により、バックパックが胴体から切り離されると、慣性の法則によりそのまま機械戦士の方に投げ出される。
まずい、そう思った時にはもう遅い。
多くの弾薬と幾つかの武装を抱えたバックパック。人の何倍もの重量を積載したそれが、突如壁となって機械戦士に襲いかかる。
回避不能、対処不可能。さらにそこに加えて――。
「やれ!! 勃チ○コマ!!」
「おうさ!! バックパック――自爆!!」
鹵獲されたロボットのお決まり必殺技、自爆攻撃がさらに決まる。オレンジ色の閃光が闇に満ちたかと思えば矢継ぎ早に爆風が巻き起こる。
茶色の風に巻き上げられて少佐とバックパックを切り離した機械蜘蛛は、そのまま熱帯密林都市の地上へと放り出されるのだった。
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