第1011話 どムラクモ少佐とエルフリアン柔術

【前回のあらすじ】


 男騎士パーティを襲撃するも返り討ちに合い逃走する少佐と機械蜘蛛。

 そんな彼女達に肉薄したのは、同じく機械の身体のELF。

 女エルフたちの前に笑いの刺客として現われた者達のなかでも、取り分けて屈強な一体――。


「セクシーELF!!」


「「げぇっ!! エルフキング!!」」


 女エルフの兄、エルフキングを元に作られたELFこと機械戦士。

 彼の猛追により、あと少しと迫った出口の前で少佐たちは彼に捕まりそうになるのだった。


 しかしながらそこは某機動隊パロディのゲストキャラ。

 一筋縄ではいかない。


 バックパックの切り離しからの自爆攻撃で、追走してくる機械戦士をハメ殺す。鉄の棺桶の自爆を食らった機械戦士は、哀れ闇の中に飲み込まれた。一方、その爆風を背に受けて、少佐達は熱帯密林都市の地下から脱出するのだった。


 はたして、こんなことで死んでしまうのか、機械戦士。

 そして、なんだかよくわからないけれど、強い、強いぞ、少佐&機械蜘蛛。


 はたして正義はどちらにあるのか。

 そもそも、少佐たち攻カク○頭隊の目的とはなんなのか。

 サイバーなのにちっとも頭のよろしくない、力技ばかりの激闘はまだはじまったばかりだ――。


◇ ◇ ◇ ◇


「……やったか、少佐?」


「あの質量、あの爆薬を食らったのだ。並のELFならひとたまりもない。もっとも、アレはアリスト・F・テレス謹製の最新鋭機だ」


「……なるほど、頑丈にできているようだ」


 熱帯密林都市、倉庫区画。

 狙ったのかそれともたまたまか、なんにしても人気のない場所に出た少佐たちは、自分たちがでてきた空洞の中を覗き込んで息をのんだ。


 穴の中でくゆり蠢くのはオレンジ色の光。むせかえるような炎の匂いが漂うその中を、人影が彼女達に向かってゆっくりと歩いてくる。

 すぐさま、機械蜘蛛の本体にあった格納庫を開けると、中からハンドガンとナイフを取り出す少佐。片方だけの手にハンドガンを握りしめると、その照星を向かってくる影の頭部に合せた。


 金色の髪が紅に染まる。

 半分が肌色、半分が鈍色をした身体を光らせて、そいつはこちらにやってくる。

 股間のふんどしは紅蓮を宿して激しく燃える。やがてそのセンシティブな部分がまろびでるのも時間の問題であった。


 炎の中から姿を現したのは――バックパックを食らわした機械戦士。


「ほう、君たちにとっては未知の武器を、こうも見事に使いこなすとはな。深層学習の成果という奴か。やはり破壊神の技術は恐ろしい。人の進化の力を信じない、強引な人類のステップアップ。まさに、生命への冒涜だ」


「捉え方次第だろう。人類が己の力で破壊神の力を使う限り、それはただの純粋な技術だ。むしろ、神に管理された進化、予定調和の進化の方が問題だと思うがな」


「……ずいぶん賢いことを言うじゃないか」


「そういうお前もな。キングエルフの人格はどうした、素が出ているぞ」


 舌戦もほどほどにキングエルフが地面を蹴る。

 すさまじい脚力で機械蜘蛛に迫った彼である。今回もまた、人間の感覚を越えた速度で少佐に肉薄すると、そのハンドガンを握りしめる腕に組み付いてた。


 少佐が指先に力を込めて銃弾を撃ち込むより早く、彼はその腕から彼女の身体を背負い込むと、一本背負いよろしく地面に向かってたたきつけようとした。


 これに後の後で合せる少佐。


 必要以上に身体を動かさず、最小限の動作で受け身を取ると、着地からの押さえ込みまでの間に、腕を外して機械戦士から離れた。後ろ回り。後頭部から転がって、そのまま勢いを使って立ち上がれば、腰をかがめる。


 膝を突いた状態で構えると、今度はハンドガンの引き金を彼女は引ききった。


 三発。金色をした鉛の弾が機械戦士の頭部にめり込む。

 額、右目、顎先を射貫いたそれは、生身であれば顔面にある急所を的確に打ち抜いている。致命の、そして、武器の特性をしっかりと理解していなければできない、そんな攻撃だった。


 しかし、そんな致命の攻撃も、機械の身体には殴打と同じ。

 ほぼノーダメージ。むしろ、その攻撃後の残心こそ好機と、猛然と少佐に向かってくるのだった。


「……効かんな!! そして、捕らえたぞ!! 喰らえ!! エルフリアン柔術奥義!! パンチラ返し!!」


「なっ、なにぃっ!!」


 パンチラ返しとは。


 ネーミングからしてハレンチ極まりない技に、思わず少佐も面食らう。そんな相手をよそに、中腰に構えた機械戦士が掬い上げるように手を下手に構える。


 確かにそれはパンチラ――というか好きな女の子のスカートめくりに向かう男の子のように見えなくもなかった。

 しかし、そういうのは後ろからこっそり行くものではないのか。


 真正面からパンチラに行くとか、なんと無謀なのか。

 死ぬ気ぞ。まさしく捨て身の一撃。まさしく肉を切らせてパンツを見る。覚悟のそれは技であった。


 はたして機械戦士の両手が少佐の下腹部に伸びる。

 これまでか、そう思われたその時、彼の二つの腕が虚しく空を切った。


 避けたのでもなければ、外したのでもない。


「ば、バカな!!」


 そう――。


 そもそも少佐はスカートを穿いていなかった。

 最初からハイグレキワキワコスチューム、Vゾーンくっきりな衣装を身につけていた。スカートをめくろうにもめくれない、むしろ、見せつけてやれとばかりのセンシティブコスチュームだった。


 哀れ。

 パンチラ返し破れたり。


「今だ!! たぁっ、脳天唐竹割り!!」


「あげぶ!!」


 機械戦士の頭頂部に少佐のチョップが落ちた。幾ら弾丸を撃ち込まれても行動不能にならなかった機械戦士。しかしながら、四度目の頭部への攻撃は効いた。


 いや、そもそもそのチョップは、チョップであってチョップではない。

 青色の光を発してスパークする少佐の手。それにより、機械戦士の頭部に搭載されている電脳に、その回路を焼き切るだけの負荷電流が流れたのだ。


 そう、それはチョップという名のスタン攻撃。

 衝撃ではなく電撃で倒す、技の一本であった。


 ぼすりと顔の穴という穴から煙を噴出すると、その場に前のめりに機械戦士が倒れる。殺意に満ちていたその目が白目を剥き、だらしなく開いた口から涎を撒く。

 どうやら少佐の攻撃は、彼の電脳を焼き切ることに成功したらしい。


「……電脳化していなかったら危なかったな。なんにしても、脳に電撃魔法を喰らわせれば絶命するとは、機械の身体というのは頑丈なのか脆弱なのか」


「おい、ぐちぐち言っている場合じゃないぜ。追っ手が来る、行くぜ少佐」


「……そうだな」


 機械戦士にきびすを返す少佐。彼女はハンドガンをジャケットの裏のポケットにしまうと、また生身の人間のような浅いため息を吐いたのだった。


 いやと、小さな声で呟いて少佐が振り返る。

 その水晶の瞳が、同じく今は白く濁っている機械戦士の瞳を覗き込んだ。


 既に意識を消失した機械戦士。その瞳が、少佐を敵と認識することはない。そんな水晶の中で、不意にシニカルな笑みを少佐が浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る