第1004話 どエルフさんとクローンキング

【前回のあらすじ】


 異世界にはロボットという概念がない。

 いや、からくり侍のように、人間を模した超常の存在は把握しているが、それも一般的ではない。故に、女エルフたちの目に、彼らが人間の手によって造られた、偽物の生命体と映ることはない。

 仕組みこそ違うが、自分たちと同じ生命だと感じてしまうのは仕方なかった。


 勝手に店主やヨシヲという仲間達のコピーELFを造られた女エルフたちは、知恵の神アリスト・F・テレスと男ダークエルフにヘイトを向けた。これは生命の冒涜だ許されることではないと、声を大にして反目した。

 はや、アリスト・F・テレスと男騎士たちの同盟が潰えたかと思われたその時、彼らのリーダーがその間に入った。


 今、自分たちは文化圏の違う者達と邂逅している。そんな相手に、自分たちの常識を押しつけても反目するのは当たり前ではないか。それよりも考えるべきは人類の未来。ここで協力を拒めば、待っているのは滅びだけだ。


 男騎士の主張は正しかった。

 それはまさしくその通り、逆らう余地のないものだった。


 だが。


「……なんかティトにしては、発言の内容がひっかかるのよね」


 はたして男騎士はどうしてしまったのか。

 些細な違和感を抱えながらも、物語は進む――。


◇ ◇ ◇ ◇


「では、続きと参りましょう」


「いや、もういいわよ。こんなことがあったら、この後どうやっても笑えないわ。それに、もう私たちが簡単なことでは笑わないって貴方たちも分かったでしょう?」


 口では和解したがまだまだ棘のある言い回しで男ダークエルフに当たる女エルフ。

 気難しい所があるのは、これまでこの作品を追ってきてくれた皆さんもご存じのことだろう。女エルフは、一連のコピーELFのことは許したが、男ダークエルフたちに気を許した訳ではなかった。


 口ではなんとでも言える。

 そして、先ほどの謝罪の言葉に、女エルフは誠意のようなものを感じられなかった。とりあえず、この場をおさめるために謝っておけばいいなどという感情は、どれだけ隠しても相手に伝わるものだ。


 さっきの会話はまさにそれ。女エルフは男ダークエルフ達に警戒していた。


 できるだけ、この場を早く離れたい。

 そう願うからこそ、彼女は残された試練をスキップすることを選択した。


 しかし、そうは問屋が卸さない。


「いえ、困りますよモーラさん。そこはしっかりと最後まで受けて貰わないと」


「どうして。それもアンタ達の文化って奴? 融通が利かないことね?」


「モーラさん!!」


 またしても悪くなる空気。せっかく穏便に話がついたと思いきやの火花散る会話に全員が女エルフを見る。男騎士、男ダークエルフ、女修道士にワンコ教授、そして、新女王。皆が見つめる中で、女エルフは唇を噛みしめてますます顔を険しくする。


 もはや笑うとは真逆。怒号飛び交うギスギスの場。

 そんな所に――。


「待つんだフェラリア!! 我々エルフのイメージを決定づけた、祖先とも言っていいELFに向かって、そのような態度は失礼だろう!!」


「誰がフェラリアよ!! ちょっと、どこのどいつ!! 私の忘れたいけれども強烈過ぎて忘れられない本当の名前を呼ぶのは!!」


 響いたのは男の声。

 とうという掛け声とともに、女エルフの頭に影が差したと思えば、次の瞬間その正面に謎の男が舞い降りる。


 半分がエルフ。

 半分が機械。


 そして、ほとんど全裸。ふんどし姿。

 金色の髪を靡かせて、爽やかに笑うその男エルフは、鍛えられた肉体をほの暗いその広場の中でせいいっぱい光らせると、爽やかにその歯を剥いた。

 そして――。


「どうかこの俺と、そしてこの尻に免じて!!」


「プリッ!!」


 きらめくケツ。


 そう、この男を女エルフは知っている。

 左半分が機械の身体で、右半分が生身の身体。

 なんかこう見た目的にヤバい事になっているけれど、こいつに似た男を、女エルフは知っている。


 いや、男エルフを。


 男の名は珍○金玉。

 またの名をキングエルフ。

 そして――。


「なんでアンタがここにいるのよ!! ちょっと、ヤダ!! 信じられない!!」


「信じられないとはなんだ!! 兄妹の絆を忘れたか!! 我が妹よ!!」


「やだぁーっ!! こんな生き別れるくらいなら最初からいない方がよかった兄なんて知らない!! ほんと、なんでこのタイミングで出てくるのよ!!」


 女エルフの実の兄であった。


 もちろん、いきなりという訳ではない。

 先ほど男ダークエルフが説明したときに、彼の名前もちゃっかりと出て来ていた。本名よりも通り名であるキングエルフの方がなじみがあるので、すっかりと聞き流してしまっていたが、彼は最初からこの場に居合わせていたのだ。


 そう、この男がいるのだ、話に割り込まないはずがない。女エルフとの橋渡し役という一点において、このキングエルフほど頼りになる男はいない。なにせ彼と女エルフは兄妹なのだから。


 兄のことを嫌いな妹なんていない。

 ラブコメ的に考えて。


 そんな感じで押し切ろうとした瞬間、女エルフの杖の先から火炎球が飛び出して、キングエルフの身体をこんがりと焼いていた。初手からいきなり殺す気の魔法。ツンデレにしてもかなりパンチのあるツンであった。


「ほんとヤメて!! アンタみたいなのと兄妹だとか思われるの、こっちとしては迷惑以外のなにものでもないのよ!! エルフの集落の長だか、エルフの中のエルフだか知らないけれど、無理なものは無理なのよ!!」


「そんな!! 兄は、兄は悲しいぞ、フェラリア!!」


「だからその名前で呼ぶな!! お前のような半裸の兄などしらん!!」


「まぁ待て、まずそこから整理しよう。この身体をよく見てくれ我が妹よ」


 突き出していた尻を引っ込めて女エルフに正面を向けたキングエルフ。見てくれと言われても何を見ればいいのだろうか。女エルフが首をかしげる。仲間もまた、同じように訳も分からずキングエルフを見る。


 男騎士パーティの視線を一点に集めてキングエルフ。

 ふぅうぅと小さく唸って息を吸い込むと、彼は天を見つめて両腕を開いた。そのまま胸板を突き出したかと思えば、次の瞬間はぁいと大きな叫び声をあげた。


「平等平等というけれど、きっちり半分に分ければ本当に平等なのか?」


「いや、平等でしょうよ。半分こって言葉があるんだから」


「三人で分けたら綺麗に割り切れないでしょ!! 余りをどうするのか、小数点では表現できない領域をきっちりと考える!! 俺の名は――ザ・キッカイマン!!」


 ぐるり尻餅をついたかと思えばそのまま後転。

 起き上がりざまにM字開脚をすると手を股間に添えるキングエルフ。


 いや――キッカイマン。


「お前の発言がキッカイだわ!!」


「ザ・キッカイマン!!」


 これまた頭の痛い展開になってきた。女エルフはこれまでの経緯はさておいて、頭を抱え込むのだった。

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