第1005話 ザ・キッカイマンとエルフキング

【前回のあらすじ】


「平等平等というけれど、きっちり半分に分ければ本当に平等なのか?」


 説明しよう。

 10÷3は3余り1残りの1はいったいどこに消えるのか。平等に分けたつもりでもじつはきっちり分けられない。いや、小数点まで計算すればいいじゃんというかもしれないが3.333……で絶対に平等にはならない。必ずどこかで余りが出る。


 そんなうわべだけの平等にメスを入れ、真に平等な等分を人に教えるのが、機械戦士キッカイマンなのだ!!


「いや、なんちゅーパロディを持ってくるんだ!! 消されるぞ!!」


 なんかカットされてるらしいですねCS放送とかかから。

 あれだけ面白い作品をお蔵入りさせるなんてもったいないというか、それだけなんだかんだいってテレビ会社も余力があるというか、いやはや。


 という訳で。

 今の若い人には絶対に分からないし伝わらない、現代の日曜夜の顔にまでなった大御所お笑い芸人の暗黒芸。そんなヤバいモノをパロって出て来たエルフキング。


 彼らが出ていたのはオンバ○じゃない、笑う○だというツッコミはさておき、濃すぎる笑いのエネルギーで、女エルフたちを再びギャグ空間に引きずり込む。

 今度こそ彼は、女エルフの鉄面皮に笑いを呼ぶことができるのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


「待って欲しいとは言ったのは他でもありません。最後にどうしても、モーラさんにこの男を見てほしかったのです。そう、このキッカイマンを」


「見たくないわよこんな身内の恥!! なに、なんなの!! どうしてこんなことになっちゃってるのよ!! みんな変になっちゃってるけれど、こいつだけ明らかに針が振り切ってるじゃない!! 取り返しの付かない方向に進んでるじゃない!!」


「これでも昨今の放送規制には合せたつもりなんですがね。ほら、なんだかんだで、ふんどしもちゃんと両側しめてますし」


「ふんどし一丁はいつもどおりじゃろがい!! おかしいのは、なんていうか、その――」


 具体的にそのおかしさを指摘しようとして女エルフが口ごもる。

 声が出なくなったのは他でもない。彼女の感じたおかしさはふんどしと同じで、別にこのタイミングで始まったものではなかったからだ。


 この兄は、最初から最後までこんな感じであった。

 そう思えば怒りが少しずつしぼんでいく。代わりに浮かんできたのは、どうしようもない身内に対する恥。


 仲間たちがじっと女エルフを見る。

 言葉を失い死んだ顔をした女エルフ。

 全てを正しく理解した彼女に、もはや弁明をする気力など微塵もないのだった。


 この男が出て来た時点で、こういう流れになるのは決まっていたのだ。

 とほほ。


「おい、何を俺を捨て置いて、勝手に話を進めているんだ!! ちゃんと俺のことを見ろ!!」


「見られないような格好して出て来ておいてそういうこと言いますか」


「というか、おい、そこのお前!!」


「……私ですか?」


 エルフキングが指を差したのは男ダークエルフだ。そうだお前だと頷いて、キングエルフは彼の方へと近づいていく。半歩ほどの間まで詰め寄った彼は、アドリブなのだろうか、何を言われるんだろうという感じにちょっと不安そうにしている男ダークエルフをなめ回すように眺めた。


「話は聞かせて貰った。文化の違いでいちゃもんをつけられたようだな」


「……えぇ、まぁ」


「それで、お前は簡単に謝っちまった。そうだな?」


「こちらとしてもモーラさんたちには協力していただきたいので」


「大人だねぇ」


 なんだこのノリ。

 男ダークエルフに対して優しい表情を見せるキングエルフに、一同ぽかんとした顔をする。一連の行動はもちろん、彼の発言の意図がまったくもって伝わってこない。


 次にキングエルフが視線を向けたのは女エルフだ。

 おい、フェラリアと妹の名前を呼んだ彼は、だからその名前で呼ぶなとコントの最中だというのに火炎魔法を食らうのだった。

 もうちょっと女エルフは空気を読むべきである。


 ぶすぶすと黒焦げになって煙をあげながらも立ち上がったキングエルフ。散々な目に会いながらも、彼も男だやり出したからには簡単には辞めない。一呼吸置くと、おい、モーラと妹の名を呼び直して仕切り直した。


「お前、こちらの先祖ELFさまに対して、お門違いな文句を垂れたそうだな?」


「いや、けど、常識的に言って怒る内容でしょ」


「怒るのは仕方ない。異文化と異文化が触れあうとき、そこに摩擦が生まれてしまうのは仕方がないことだ。それはそうだ。うん、それはそうだ」


「なんでそんな寛容な男みたいな空気だしてんのよ。もう一発食らいたい?」


「けどなモーラよ。お前はそのことについて、ちゃんとこちらの異文化ELFさまに謝ったか? こちらも悪かったって、ちゃんと謝罪をしたか?」


 いやそれはと口ごもる女エルフ。

 許しはしたが謝罪はしていない。そこは女エルフの意固地が炸裂していた。気難しい彼女は、謝られることは慣れていても自分から謝ることはあまりしない。いつだってツンケンと怒る側であった。


 なので当然、先ほどの和解でも謝罪の言葉を入れない。心の奥底では、許していないのだからなおさら言葉はでてこない。


 そうなってしまうのは必然だった。


 そんな気難しい女エルフに向かって、びしりと指を向けるキングエルフ。かっこよくポーズを決めて、顎をしゃくり気味にして妹を見つめる。

 なんだそのポーズはと皆が思ったが、話の流れをぶった切るのも悪いと思い何も言わない。はたして、そんな風に皆が見守る中、彼は女エルフに問いかけた。


「お前のような奴をなにちって言うんだ?」


「……ち? え、なに? そんなの現す言葉があるのか?」


「ほら。いつもこうアレしていて、周りについつい迷惑をかける」


「……ち?」


「関西の方の言葉で。ほら、俺って本当にほにゃららちだからって、なんかやらかした時とかに誤魔化す奴」


「……あぁ、いらちね!!」


「違う!! お前はエッチだ!!」


 なんでそうなる。

 兄から突然向けられたドスケベ宣言に女エルフが固まった隙に、レッツゴウとキングエルフがシャウトする。すると、突然舞台が割れ、そこからわらわらと多くの女性型ELFが姿を現すのだった。


 どれもこれもきわどい衣装に大きなお胸。

 そして、少しの呼吸の乱れもない見事な動き。

 いったい何が起こるのか――。


 その時、天からあの特徴的なミュージックが流れ出したのだった。

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