第974話 どエルフさんとサキュバスエルフ

【前回のあらすじ】


 つまり、エルフとサキュバスはだいたい一緒の進化を遂げたモノだったんだよ!!


「な、なんだってぇー!!」


 と、ぶったまげ驚くどエルフさんなのであった。


 まぁ、そんな超約はともかく。


 人類を真似て人の形に進化した多くの生命体。

 その一つに、エルフもまた名を連ねていた。


 冒険者生活で井の中の蛙ということを知った女エルフだったが、それでもやっぱりエルフとしての意地がある。人間より劣った存在であることを許せぬ彼女は、そんなバカなと男ダークエルフに食い下がった。


 狼狽える女エルフとその仲間達。

 そこに、男ダークエルフは静かに歴史と、亜人種の進化の真実を話す。


 そもそもエルフの祖先にあたる原始生命体は、人類が南の大陸から脱出する前から存在していたこと。そして、彼らはあくまで、活動する上で便利だという理由で、人間たちの姿を借りたこと。


 そして、その姿が、本来関係ないはずの、熱帯密林都市ア・マゾ・ンに住むELFたちと一致したのは――。


「私たちELFを本能的にあがめるようにできていた人類は、外の世界で出会った自分たちよりも優れた存在であるエルフに、それを無意識に重ねたのです。そして、それはエルフが人の姿を模倣する時に姿にも現われた」


 という事情があったこと。


 人の中に存在する畏怖すべき姿。それを、エルフ達に重ねたが故の奇跡。結局、自分たちは人類と神々の思惑の上なのかと、女エルフが頭を抱える。

 そんな彼女に追い打ちをかけるように――。


 一番最初に言った、衝撃の事実が明らかにされるのだった。


 という感じで、シリアス続きから一転しての大茶番。

 今週のどエルフさんは、ちょっとばかりサービス多めでお送りいたします。


◇ ◇ ◇ ◇


「なるほど、それで納得しましたよ。どうしてエルフがこんなにエロい存在なのか。ずっと不思議だったんですが、サキュバスと同じだったんですね。それはそれは、エロいことになってしまうのも仕方ないというもの」


「仕方なくない!! 違うのよ!! 違う!! 似たような存在っていうだけで、エルフとサキュバスは違う存在なの!!」


「いえ、原始エルフと原始サキュバスはほぼ同じ生命体ですね。ただ、二つの種の間で、エロさに違いがあっただけで」


「待て、それ以上言うな!! どっちがエロいとかそういうのを口にするな!! 絶対にその流れは、エルフがいらん貧乏くじを引く流れだ!! エルフがまた、不名誉な存在にされてしまうフラグだ!!」


「不名誉もなにも事実じゃないですか。ねぇ、マイコーさん?」


「えぇ、まったくです。そういう、自分たちに都合の悪い事実を受け入れることができないのも、エルフという種の弱い所ですね」


「こんなん受け入れられるかい!!」


 地団駄を踏む女エルフ。

 これまたいつものお怒りモード。理不尽などエルフ弄りに、もはやまともに反論することも出来ず、ただただ足踏みをして不満を表明する彼女。

 そんな彼女にやれやれと、生温かい視線をパーティは向ける。


 なにぶん、ここの所バトルバトルの連続で、この手のほのぼのどエルフ展開は少なかった。それでなくても、どエルフ弄りが出来る人材――女修道士シスターが死んでしまったことで、ちょっとおざなりになっていた。


 そんな深刻などエルフ不足にちょっと不安になっていた男騎士パーティだが、変わらず披露された女エルフの姿に、ほっこりと一様に顔を緩めていた。


「ひさしぶりですね、このモーラさんの感じ」


「だぞ。やっぱりモーラはこうでなくっちゃダメなんだぞ」


「凜とした副リーダーのお姉さまもいいけれど、慌てふためくダメダメお姉さまもまたステキです」


「なにをなごんどるんじゃい!! 嫌じゃいうとるじゃろうが!!」


「ほら、ティトさんからも何か言ってあげてくださいよ。モーラさんたちエルフは、サキュバスとそう遠くない親戚みたいなものだったんですよ」


 とまぁ、そんな軽い流れで男騎士に話が振られる。

 しかしながら、この熱帯密林都市に対して疑念を抱いていた男騎士には、咄嗟にそれに反応することができなかった。


 うん、あぁと、ちょっととぼけた返事のあと、男騎士は女エルフの方を見る。

 いつもならここで、じゃぁいつものアレはサキュバスとしての本性がうずいていたんだなと、追い打ちをかけるところだ。当然、女エルフは身構える。しかしながら、いつまでたっても、男騎士からの追撃はこない。


 どうしたのだろうか。

 ふと、女エルフが首をかしげた時に、男騎士が苦々しい顔をして頭を掻いた。


「すまない、ちょっと考え事をしていて話を聞いていなかった。いったい何の話だったんだ?」


「……聞いていなかったって」


 この手の話には頼まなくても絡んでくる男騎士。

 それが、絡んでこない。どころかスルーしている。


 すぐに異常を察した女エルフが調子を合わせる。また、女修道士シスターやワンコ教授も、これは何かあるなと身構えた。


 ただ、合わせるにしても、どう合わせればいいのか。

 話の流れが流れだけに、なかなか女エルフも言葉の切り出し方に迷った。


「……エルフとサキュバスがね、祖先が似たような感じだったんだって」


「……へぇ、エルフとサキュバスが」


「……そう」


「……それで?」


 それで、とは。


 それでなんで大騒ぎしていたんだと聞かれても困る。

 エルフもサキュバスも実質同じ、だったらエルフはやっぱり……みたいな流れで女エルフはからかわれていた。


 だが、それを自分の口で言うのか。


 いつもだったらもう、エルフとサキュバスという言葉が出た時点で、「なに、エルフサキュバスだって!! そんなけしからん生命体がいるのか!! 許せん、今すぐ呼んできてくれ!!」くらいのことを、男騎士なら言い出しそうなものなに、今日は不気味なくらいに静かだ。


 女エルフが顔を真っ赤にして口ごもる。

 女修道士シスターも、これは流石に可哀想と、焦って男騎士を見る。

 意味が分からない顔をするワンコ教授。

 そして、困った女エルフもステキと、瞳を輝かせる新女王。


 いつにない空気の中――。


「いや、すまん。そういうものだというだけの話だな。悪かった。話に何かオチを求めてしまうのは、俺の悪い癖だろう。分かった、これからモーラさんはサキュバスみたいなものだと思うことにするよ」


「いや、なんでやねーん!!」


 少し歯切れの悪い、そして、絶妙に分かっていないボケが返ってくるのだった。


 思わず、女エルフのツッコミも鈍くなる、そのとぼけた返事。

 大丈夫なのかしらと、パーティーメンバーに不穏な空気が流れる中、男騎士は女エルフに叩かれた頭を、悩ましげに掻きむしるのだった。

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