第九部 絶対発○戦線 熱帯密林都市ア・マゾ・ン
第966話 どエルフさんと密林の大陸
【前回のあらすじ】
冥府神がおさめる海底都市オ○ンポスを攻略した男騎士一行。
法王、壁の魔法騎士、魔性少年たちと別れて彼らが次にたどり着いたのは、密林の都市であった。
見知らぬ風景。
異国の空気。
そして聞こえてくる謎のアゲアゲミュージック。
そんな中で男騎士達が出会ったのは、ふんどし姿の黒エルフ。
「そうさここは南の大陸!! その中でも一番ホットでヒップでポップな都市!! エルフ達による、エルフ達のための、エルフ達の失楽園――熱帯密林都市ア・マゾ・ンさ!!」
ダークエルフのマイコーなるその男は、男騎士達にそんな説明をするのだった。
そして、またしても飛び出してきた赤っ恥エルフネタに、女エルフは頭を抱える。
「……これ以上、エルフの尊厳を踏みにじらないで。お願いだから」
だがそれはできない。
なぜなら、これはおエルフギャグ小説どエルフさん。
タイトルの時点で、エルフが酷い目に会うのは必然。
そう、もはや避けられない運命なのだ。
「やめて!! もうやめて!! これ以上、エルフという名を借りた、謎の文化を生み出さないで!! この作品の中に出てくるエルフの定義、絶対おかしいよ!!」
という訳で、ついに狭っ苦し海底から脱出。
広い空の下で大暴れだどエルフさん。
今週も、待ったなしのノンストップ展開でお送りいたします。
◇ ◇ ◇ ◇
男騎士達が出会った男ダークエルフ。
ラテンの匂い漂うむくつけきナイスガイ。そんな彼に誘われて、男騎士達は都市ア・マゾ・ンに向かうべく、密林の中を進んでいた。
といっても、道なき道を切り開くというほどではない。
踏み固められた道の上を、彼らは太陽を背にして歩いている。
よほど頻繁に行き来が成されているのだろう、踏みしめられた場所に草は生えておらず土がむき出しになっている。
小石もほどよく取り払われている。
人間あるいは家畜の類いがよく通行する証拠だ。
逆に、轍の跡がない辺りから、馬車などの技術は発達していないことが窺える。
南の大陸。
男騎士達が居た中央大陸より、紅海を挟んでさらに南に進んだ所にある大陸。
そこは太陽の沈まぬ土地。中央大陸とはまったく異なる世界だと、中央大陸に住む者達には伝わっている。
そう。
伝承ということは、つまる所この土地と中央大陸の交流はない。
ここは男騎士達にとって未知の土地だった。
かろうじて紅海諸島の国々については、リーナズ自由騎士団の任務で把握している男騎士。そんな彼も、南の大陸については存在を知るのみ。詳細は知らぬ。
教会もまたしかり。海母新神マーチの威光届かぬこの地を、異郷として深く介入することをしなかった。ただそこに、彼らの神に従わない民がいるというだけしか、教会に属している
ワンコ教授が所属する大学は、この未開の地について研究し、幸運にもこの土地に渡った渡航者達から情報を集めていた。その大まかな状況は口伝だが把握している。
しかしそれは大学という組織を指しての話。そこに属しているワンコ教授が、それを知っているかと言えば、彼女の専門分野と微妙に食い違う。彼女は中央大陸の歴史の研究者であって、文化史全ての研究者ではなかった。
新女王については言わずもがなである。
そう、誰も知らない未知の大陸――南の大陸。
そんな場所に男騎士達は突如として放り込まれた。なんとか言葉が共通で、友好的な男ダークエルフに出会えたからよかったものの、男騎士達は今、冥府に挑んだときとも違うなんともいえない不安の底に居た。
ただ、一人――。
「……暑い」
女エルフを除いて。
「というか、なんなのよエルフ達の失楽園って。こんな中央大陸から遠く離れた土地に、そんなものがあるなんて聞いてないわよ」
「OH、これだからホワイトエルフは五月蠅くて困りマスNE☆」
「なんだと!! このダークエルフ!!」
「だぞ。モーラ、落ち着くんだぞ」
「そうですよモーラさん」
「お姉さま。エルフ差別は駄目ですよ。エルフはエルフじゃないですか。耳が尖っていたらエルフ。他はもう個性みたいなものでしょう?」
エルフ過激派な女王はともかく、概ねパーティーメンバーの言うとおりである。
女エルフ。いささか、その発言がダークエルフに失礼だったと認めると、大人しく頭を下げた。
分かれば良いんデースと男ダークエルフが笑って返す。
どうにも、女エルフと違って、彼はおおらかな性格らしい。ともすると、陰険な奴らが多いエルフだが、南の大陸のそれはそうでもないようだ。
「うぅむ、エルフたちの楽園。いったいどんな場所なんだ。しかし、俺たちを案内してくれる彼はダークエルフだ。伝承によれば、ダークエルフは魔術で汚染された森に住み、その住み家はおぞましい瘴気を放っていると」
「おい、こんな暑いのにそんなうんうん考えたら、熱出して倒れるぞエルフバカ」
男騎士がまだ見ぬ楽園に思いを馳せてうんうんと唸る。
こんな状況でも相変わらずブレない男騎士の態度にちょっとほっとする女エルフ。すると、随分お楽しみネーとファンキーなダークエルフが振り返った。
「そんなたいした差はないYO!! エルフの失楽園と言っても、基本的には昔から住んでいる住居を使っているだけだからNE!!」
「そうなのかマイコー。いや、それはそれで、エルフの歴史を感じられて……」
「なに興奮してるのよ……」
ペしりと男騎士の頭を叩く女エルフ。いつもの軽妙なやりとりだ。
しかし、ふと彼女は何かがひっかかるという感じに首をかしげる。
「昔から住んでいる住居ねぇ……」
次いで、意味深な顔。
どうしたのだと男騎士がすぐに尋ねた。
たいした話じゃないんだけれどねと前置きして、女エルフが人差し指を立てた。
「エルフは基本長命だけれど、特定の住居や集落を持たないの。森の移ろいに合わせて住む場所を移動しているから。だから、長年使っている住居ってしっくり来なくて」
「……なるほど。確かに妙な話だな」
「HAHAHA!! そんなの周りをよく見て言ってくれよBROTHER!!」
誰が兄弟じゃいと女エルフが突っ込む。
とはいえ、先ほどのやりとりの後。
素直に従うべきだろう。
言われた通りに周りを見てみると、なるほどその疑問の答えはすぐそこにあった。
四方どちらを見渡しても、果てしなく続く緑の森。
その果てはどれだけ目をこらしても見えない。いったいどれだけ続くのか。少なくとも、道を外れれば即風穴などが待ち構えている魔境を見るに、この大陸がどうやら人よりも森林が多く根付いている土地だとすぐに分かった。
なるほど、これだけの大森林であれば、エルフたちも住居を移動する必要はない。それは住居を構えて定住するという文化も生まれる。
「まさしくエルフの楽園ってことね、この大陸は」
「NO!! それだけじゃないぜ!! この大陸は、人類全ての誕生の土地!! エルフはもちろん、この世界に生きる人間たちが作られた大陸なんDA!!」
「……なんでそんなこと分かるのよ」
分かるさ、と、微笑む男ダークエルフ。
その時、彼らの進行方向の空が急に開けた――。
まるでそれまで高度な遮蔽魔法により隠されていたかのように、それは唐突に現われる。青い空に向かって起立する鈍色の建物。その群れ。人の手で作られたとは思えない精巧な曲線によって描かれた街並みをを前に、男騎士達が絶句した。
「なぜならここは、この世界に生きる生命、全ての種を作り出した都市だから」
「……嘘でしょ、なんなのこの都市」
「……これが、エルフ達の失楽園」
「そう、ここが熱帯密林都市にして神が造りし人産みの都ア・マゾ・ン」
ようこそ。
そう言う、男ダークエルフの口調からは、妙ななまりがなくなっている。
キュインという音と共にそのエルフ耳が動いたかと思うと、彼の瞳孔が不自然に開いた。
『ア・マゾ・ンのネットワーク圏内に入りました。これより、同期モードに移行します。ようこそ、他の大陸に旅立った生命たちよ。歓迎します』
「……うそ、でしょ?」
「ダークエルフじゃなかったのか?」
「こ、これはいったい!」
「だぞ!! 未知の技術なんだぞ!!」
「えっ、えっ、えぇっ!? 新種のエルフってことですか!?」
『いいえ違います。私は、神が作り出した、人産みのためのシステムの末端。そのひな形として組み上げられたゴーレム。ELF――』
そう言うや、男ダークエルフの顔から蒸気が噴き出す。
外れた顔の下には、人間のモノとは違うメタリックな骸骨がハマっていた。
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