第967話 どエルフさんとELF

【前回のあらすじ】


 南の大陸で出会った男ダークエルフ。

 彼の案内によって熱帯密林都市ア・マゾ・ンに向かう男騎士達。

 その道すがら、ふと彼らはどうして南の大陸にエルフ達が集まっているのかと、彼に素朴な質問を投げかけた。


 そもそもエルフ達は森に従って移ろって生きる種族。

 どこかの森に定住するような文化はあまりない。


 女エルフがそう指摘すると、男ダークエルフは周りを見ろという。確かに見渡すばかりは四方森ばかり。これならば移動する必要ないだろう。

 しかし、そういうことならと、女エルフ達がなるほどと納得したのも束の間――。


「NO!! それだけじゃないぜ!! この大陸は、人類全ての誕生の土地!! エルフはもちろん、この世界に生きる人間たちが作られた大陸なんDA!!」


 なにやら妙なことを言い出す男ダークエルフ。

 すると、彼らが歩いていた前方の景色が急に開け、見たこともないメタリックな建造物が突然姿を現した。


 明らかにファンタジー世界には不釣り合いな建造物。

 そして、それを隠していたオーバーテクノロジー。

 さらには男ダークエルフが、突然その面の皮を剥ぎ、その下に眠っていたメタリックな中身を露わにする。


 これは、いったい、何がどうなっているのか――。


『ア・マゾ・ンのネットワーク圏内に入りました。これより、同期モードに移行します。ようこそ、他の大陸に旅立った生命たちよ。歓迎します』


「……うそ、でしょ?」


「ダークエルフじゃなかったのか?」


『私は、神が作り出した、人産みのためのシステムの末端。そのひな形として組み上げられたゴーレム。ELF――』


 第九部。


 これまでファンタジーファンタジーして来た所にぶっ込まれるSF展開。

 始まってさっそくではありますが、どエルフさん、今部はこれまでの展開とちょっと毛色を変えてお送りいたします。


◇ ◇ ◇ ◇


『みなさんようこそお越しくださいました。まずは、ダークエルフと偽って、ここまでご案内したことをお詫びいたします』


「え、あ、それはどうも」


「だぞ、なんだか急に丁寧な口調になったんだぞ」


 女エルフにぺこりと頭を下げる男ダークエルフ。

 もう充分理解して貰っただろうという感じで、彼は剥がした顔を元に戻す。

 すると、先ほどまでと変わらない憎たらしいにやけ面がすぐに復活した。


 とはいえその瞳――エメラルドのそれがどうにも硬質に女エルフ達の目に映る。その皮の下にある人ではない姿を確認してしまったからだろうか、どうにも目の前の得体の知れないエルフに擬態したモノに、彼らは戦慄した。


 どうか警戒しないでくださいと男ダークエルフが言う。


「驚かせてしまいましたね。すみません。とはいえ、私たちについて説明するには、実際にこうして見て貰った方が早いと思いまして」


「いや、まぁ確かに分かったけれど」


「ゴーレムって、そんな精巧なゴーレム見たことないわよ? なにそれ、どうなっているの?」


「魔法で駆動していますが、構造的には貴方たちが既に出会ったからくり人形に近いですね。確か、東の島国での決戦に際して、彼女達に会っていますよね?」


 言われて男騎士達は、からくり侍のことを思い出す。

 確かに彼女と目の前のゴーレムは似通っている所がある。細かい所については定かではないが、そう言われれば納得はできた。


 ただ、どうしてそんな存在が、南の大陸はこの都市ア・マゾ・ンにひしめいているのか。そして、この都市の異様な光景も理解できない。


 自分たちはいったい、今、何と接触しようとしているのか。


 いきなり異郷に飛ばされたショックと、未知の文明に接触したショックに呆然とする男騎士たち。神と謁見し、邪神の恐怖にも打ち勝った彼らだが、それでもしばし何も言えなくなった。

 どうか落ち着いてと、穏やかな口調で男ダークエルフが言う。


「ここ、熱帯密林都市ア・マゾ・ンは、アリスト・F・テレスが建造した都市です」


「……アリスト・F・テレスが?」


「はい。人造神オッサムより、人の設計図とからくり娘の設計図を預かった彼は、その権能であるところの知恵の力を使って、この地にてからくり娘と人を鋳造しようとしたのです。人より先にできあがったのが、からくり娘の設計書を元にして作られた我々――ELF。そして、ELFでのテストをフィードバックして、有機物により構成されたのが人間ということになります」


 ここまで、分かっていただけたでしょうかと、男ダークエルフが確認する。

 これに対して、うぅんと男騎士パーティの誰もが首をかしげる。


 理解しようにも、知識のレベルというか前提となる世界が違いすぎるのだ。

 全然分からないとも言えず、彼らはまた口を噤む。


 しばらくして、この手の話が理解できるわんこ教授が前に出る。つまりなんだぞと今自分にできる限りの要点をまとめると、彼女は男ダークエルフに問いかけた。


「神の思惑により人類が作られたのはこの都市で、ここから人類の歴史はスタートしたと、そういうことが言いたいんだぞ?」


「はい、その通りです」


「だぞ。それで、君たちELFは、言ってしまえばセンリ――からくり娘たちの姉妹のようなものってことでいいんだぞ?」


「はい、その通りです」


「だぞ、だぞ。それで、人々がこの大陸から出て行った後も、君たちは壊れることなく、ここで生活していたと。そういうことなんだぞ」


「はい、でありますが、一部いいえです。私たちは、未だに人を作り続けている最中なんです」


「……だぞ?」


「それについては、道すがらお話しましょうか」


 少し場所を変えましょうとダークエルフ。

 彼がパチンと指を鳴らせば、いきなり地面がせり上がる。


 土を掘って盛り上がってきたのは鉄で出来た馬車。

 しかし、荷を引く馬の姿が見当たらない。


 すぐにその鉄の馬車はまるで空気が破裂するようないななきを響かせる。


 この不思議な感じを、男騎士達は知っている。

 そう、それはつい先ほど感じたもの。失われたテクノロジーで出来た、海中を進む鉄の船。海底都市オ○ンポスに向かう際に乗った、潜水艦を彼らは思い出した。


「これは、神が作った兵器か何かか?」


「えぇ。空飛ぶ小型船と思っていただいて結構です。それでは、これに乗って向かいましょう。皆さんが、会うべきお方の所へ」


「お方って、まさか――」


「えぇ、アリスト・F・テレスさまです」


 そう男ダークエルフは、こともなげに神の名を口にした。

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