第965話 ど男騎士さんと熱帯密林都市ア・マゾ・ン

【前回のあらすじ】


 ついに深海都市オチンポスの冒険が幕を閉じる。

 旅の終わりは新たな出会いのはじまりであり、そして別れでもある。


 男騎士達パーティに、死んでしまった姉の代わりにとついてきていた法王ポープ

 彼女の旅の目的はここに果たされ別れの時が訪れた。


 短い間だが旅を共にした男騎士達との間には、既に固い絆が結ばれている。

 さんざんおちょくった女エルフさえもが、彼女との別れに涙する中、最後の言葉を法王は彼らに向けた。


「みなさん、遠い空の下で、貴方たちの旅が無事に終わることを願っています。そして、どうかまた、一人もかけることなく再会しましょう」


 彼女の思いに答える男騎士達。

 はたしてここに、法王リーケットは男騎士たちとわかれ、己が成すべき職務とそれをするべき場所へと戻るのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「ティトさん、もしハンスさんと会うことがあったら、どうかよろしくお伝えください。それと、最終決戦の時には、僕も必ずかけつけます」


「ゲソゲソ!! モーラよ、元気でやるんじゃなイカ!! もしまた海を渡ることがあったら、セイレーンの泪を使って遠慮なく呼ぶでゲソ!! 親友の危機とあれば、ゲソちゃんはいつでもかけつけるでゲソ!!」


 魔性少年、そしてゲソちゃんとも最後の言葉を交わす。

 二人は本来部外者だというのに、男騎士達のためにここまで力を貸してくれた。ともすると、パーティメンバーよりも多くの○金闘士と戦ってくれたかもしれない。


 そんな彼らの献身に笑顔で答えて、男騎士たちは魔方陣の中に入る。

 淡い光が立ちこめて残る仲間たちの間に壁ができたかと思うと、そろそそろ行くぞと冥府神が声をかけた。


 それに合わせるように男騎士が口を開く。


「皆、ありがとう!! 俺たちは絶対に、神々と謁見して魔神を止めてみせる!! 止める力を手に入れてみせる!! だから、信じて待っていてくれ!!」


 分かったという声の代わりに法王たちが揃って頷く。

 その光景を確認すると同時に男騎士達は光の奔流に飲み込まれた。


 青い光が男騎士達を飲み込み、その姿をかき消していく。

 それを前にして、法王たちは彼らの旅の無事を祈った。


「ティトさん、モーラさん、それにお姉さまたち……どうかご無事で!!」


 静かな祈りが終わる頃、魔方陣から立ちのぼる光が消え、冥府の底には法王と冥府神たちだけが残された。


◇ ◇ ◇ ◇


「……ここは? また森の中?」


「うーん、転移魔法を使うと、ちょっと記憶が飛ぶのが難点よね」


「だぞぉ……。なんだか、ちょっと森にしては熱いような……」


「いえ、ちょっとどころではありません。これは、かなり熱い。修道服など着ていられないほどの日差し」


「というかさっきから何か陽気な音楽が聞こえてきません?」


 新女王にそう言われて、男騎士達がすかさず耳を澄ます。

 たしかに言われてみると森の奥から陽気な音楽が聞こえてくる。


 そう、底抜けに明るいそれは、身体の芯を突き動かすようなトロピカルなリズム。

 思わず内股気味に踊り出したくなる、ラテンで陽気なブラックミュージック。


 またしても妙な所に飛ばされてしまった。

 そう思って男騎士が額の汗を脱ぐったその時――。


「ヒァーッハァ!! エブリバディ!! ドウシタンダーイ!! そんなしょげた顔しちゃってYO!! こんなにいい天気なんだZE!! もっとトゥデイをエンジョイしようYO!! ほら、テンションアゲてアゲて!! AGEAGE!!」


 突然、林の中から飛び出してきた黒い影。

 上半身は裸、下半身もふんどし。むくつけき身体に、妙に高いテンション。


 この出会い、どこかで経験したことがあると、男騎士パーティの間に戦慄が走る。しかしながらその既視感の主は、西の大国近くにあるエルフの森の戻ったはず。


 ここはエルフの森だというのか。


 いや、それは違う。断じて違う。

 まず植生が全然似ても似つかない。針葉樹ばかりのエルフの森に対して、こちらの森に生い茂っているのは広葉樹ばかりだ。


 そして気温が違う。

 エルフの森はどちらかといえば涼やかで、こんな風に熱い場所ではなかった。


 さらに彼らの前に現われた人についても言えば――。


「……黒い肌?」


「……逞しすぎる肉体?」


「……だぞ、それは南の大陸に伝わるという、ドレッドヘアーなんだぞ?」


「……けれども耳は尖っている。ということは、彼もエルフなんですか?」


 男騎士達の知っている男とはビジュアルが少し違っていた。

 出てきたシチュエーションは似ていたが、少し趣が違っていた。


 そう、その男は、黒い肌に漆黒のドレッドヘアー、さらに音が飛び出す魔法の箱を肩に担いだ――。


「嘘でしょ!? ダークエルフ!?」


「OH!! YES!! アハーン、バレちゃったら、しょうがないネー!! そうです、私はダークエルフ!! ダークエルフのぉおぉおぉ……マイコーネェー!!」


 ポウと言って股間に手を当てるダークエルフ。

 これはまた、癖の強いのが出てきたなと戦慄する男騎士たち。

 そして、またエルフの恥がと頭を抱える女エルフ。


 そんな彼らの心を無視して、ダークエルフの男はキメ顔を男騎士達に向ける。


「よく見れば、この辺りじゃ見ない顔だねブラザー!! オーケイ、ここがどこかって顔だろ、見れば分かるさ!! そうさここは南の大陸!! その中でも一番ホットでヒップでポップな都市!! エルフ達による、エルフ達のための、エルフ達の失楽園――熱帯密林都市ア・マゾ・ンさ!!」


「熱帯密林都市ア・マゾ・ン!?」


「まーたこれは、トンチキ展開になってきたじゃありませんのよ。やめてくださいよもう、エルフにこれ以上恥の文化を重ねるのは……」


 かくして男騎士たちは新たな試練が待つ土地――ア・マゾ・ンへとたどり着いた。


◇ ◇ ◇ ◇


「……ティトの奴ら、遅いな。いつになったら帰ってくるんだ」


「……まさかあいつら、俺のことを忘れて先に地上に戻ったりしていないよな?」


「……いくらティトがアホだからって、流石にそれは」


「……おーい、ティトー!! モーラさーん!! えーっと、コウイチくーん!! いたら返事をしてくれー!!」


「……忙しいのかな?」


「……仕方ない、もうちょっとだけ待ってみるか」


【 第八部 深海チン○ツ都市オ○ンポス 終わり】


【 第九部 絶対発○戦線 熱帯密林都市ア・マゾ・ン に続く】

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