第964話 ど男騎士さんと出発と別れの時

【前回のあらすじ】


 冥府の神から協力を取り付けた男騎士。

 夢から覚めると同時に彼は、他の神々への対策として彼からとあるアイテムを譲り受ける。


 ラバウルの笛なるそれは、吹けばたちまちバッドステータスを解除し、装備すれば精神系の魔法に抵抗するスーパーアイテム。


 知力が足らず精神系の魔法抵抗が苦手な男騎士。

 そんな彼の弱点を埋めるのにもってこい。


 さっそく彼はアイテムを装備しようとした。


「既に笛は股間に装備しているからな。いったい、これ以上どこに装備すればいいのだろうか。空きスロット、あっただろうか」


 しかし、装備スロットがどこにも空いていなかった。


 かくして自分の装備状態を確認する男騎士。

 そんな彼が、気づかないうちにエルフの肌着を装備していたからさぁ大変。


 どっから出した、どうして身につけている。

 例によってどエルフさん大騒ぎ。


 結果、全て女エルフが悪いということが判明した訳だが――。


「いや、私悪くないじゃろがい。アイツが勝手に拾ってたんが悪いんじゃろがい」


 流石だなどエルフさん、さすがだ。


「私のせいにしないでよ!! こんなの絶対とばっちりじゃない!! バカー!!」


 と、クライマックスだというのに、いつものどエルフオチに繋がるのであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 結局、角笛をいったん装備から外し、代わりにオカリナを装備した男騎士。


「くっ……股間に装備するのは、難しい形状だな。いや、これはむしろ尻の」


「馬鹿なことしてるんじゃないわよ!! ほら、紐を通して首からぶら下げられるようにしてあげるから、貸しなさい!!」


 男騎士から急いでオカリナをひったくる女エルフ。

 魔法を使って軽くオカリナを加工すると、彼女はすぐにそれを首からぶら下げられる状態にした。なるほど、これならば大丈夫だと男騎士はそれにさっそく首を通す。

 まったくとため息を吐く女エルフに、男騎士は素直に頭を下げた。


「やはりモーラさんは器用だな。こういう時に、すぐに問題を解決してくれる」


「別に、たまたま紐を持ってただけよ。そんな褒められるようなことじゃ」


「えっ、紐パンツを加工して作ってくれたのかい!?」


「誰も言っとらんがな!!」


「えぇ、そうですよ。私が一緒に選んだ紐パンツです。まさかこうして、ティトさんが装備することになるなんて、選んだときには思いもしませんでしたね」


「うがぁーっ!! 重ねるなやコーネリア!! ほんと、復活早々容赦ないわねアンタって奴は!!」


 女エルフこそ怒り心頭だが、パーティに和やかな笑顔が満ちる。

 それを見て、何やら納得したように冥府神は頷いたのだった。


 さて、と、そこで冥府神があらたまった顔をする。


「これにて冥府下りの試練は終わった。速やかに、君たちは次の神の下へと向かい、新たな試練を受けなくてはいけない」


「あと残っているのは、破壊神ライダーンと、創造神オッサム、アリスト・F・テレスのい三柱よね?」


「だぞ、ミッテルについては、会ったと考えていいんだぞ?」


「彼らの使徒を倒し続けろという試練は受けている。とりあえず、ミッテルについては会ったと思っていいじゃないか?」


「皆さん、私がいない間も頑張っていらっしゃったんですね……」


「次の試練も、お義姉さまと皆さんの力で、突破してやりましょう!!」


 盛り上がる男騎士達に、うんと頷く冥府神。

 すると、彼はおもむろに地面に魔方陣をしたためた。


 青白い光を発して輝く魔方陣。

 それは、女修道士シスター法王ポープもよく知る魔法だった。


 すなわち――転移魔法。


 教会の人員をかなりの数導入し、さらに時間をかけて行使しなければならない儀式魔法。それを一息で使ってみせるのはまさしく神の御業。

 その鮮やかな手腕に驚く女修道士シスターたちを前にして、冥府神はまたなんでもない感じで男騎士に微笑んだ。


「では、次の試練の地まで送ってしんぜよう。海上に出るのもなかなか困難ですからな。ここまで降りてきてもらった駄賃に、それくらいのことはしてもいいでしょう」


「いいのでしょうか、ゲルシーさま?」


「遠慮するようなことじゃない。ただまぁ、次の試練を受ける神を私が選ぶというのは、少し問題があるかもしれないがね……」


 少し含みのある口ぶりに男騎士が察する。

 知力の低い彼でも、冥府神が言わんとすることは察することができた。


 今や、七つの神々は味方であり敵であるという信頼できない存在となった。その状況で、彼は次に男騎士が挑むべき神を示そうとしている。

 少なくとも、その神は――信頼できないにしても、この一連の魔神との戦いにおいて、その黒幕からは遠い神だと考えられる。


 おおっぴらに誰が敵であるかは教えられない。しかし、ヒントは与えられる。

 これは冥府神なりの、男騎士達へのおおいなる気遣いであった。それこそ、海の底から地上へと送り届けるなんてこととは、比べものにならないほどの。


 ならば、受けない手はない。


「分かりました、では、お言葉に甘えて」


「うむ。では、次の試練に向かう者のみ残るがいい。その他の者は残りなさい。私がまた、君たちの望む場所に責任を持って送り届けよう」


 その言葉に、男騎士たちからついと離れたのは三つの影。

 この海底都市オ○ンポスを攻略するために力を貸してくれた、魔性少年とゲソちゃん。そして、これまで女修道士シスターの代わりとして、パーティの回復役を務めてきた、法王ポープであった。


 お役御免とばかりに離れた法王ポープに、ちょっと、少しは寂しそうな顔をしなさいよと、女エルフが突っかかる。

 それに悲しい笑顔を向けて、彼女は小さなお辞儀をした。


「皆さん、私は教会での務めがあります。姉さまが復活した今、旅をこれ以上共にする理由はございません。ここでパーティーを離脱させていただきます」


「……リーケット」


「本当によくここまで頑張ってくれました。ありがとう、リーケット」


「だぞ!! パーティーを離れても、リーケットは仲間なんだぞ!!」


「そうですよリーケットさん!! 今はこんな状況ですけれど、シリコーンを倒したら、また一緒に旅をしましょう!!」


「リーケットどの。貴方がいてくれて本当に助かった。貴方はもう俺たちの仲間だ」


 温かい言葉をかける男騎士たちに、法王ポープの瞳に涙が溢れる。

 まるで別れを受け入れられない少女のように顔を歪めた彼女は、けれどもすぐに責任ある法王の顔に戻してその涙をふるい落とす。


 再び、前を向いた彼女の顔に迷いはない。


「みなさん、遠い空の下で、貴方たちの旅が無事に終わることを願っています。そして、どうかまた、一人もかけることなく再会しましょう」


「あぁ」


「えぇ」


「分かっていますよ、リーケット」


「約束なんだぞ!!」


「リーケットさんも頑張ってください!! 応援してますから!!」


 かくして、法王ポープは男騎士たちに別れを告げた。

 ここに箱入り法王の、人生で初めての長く楽しい旅は終わりを告げたのだった。


 言い知れぬ充実感と達成感と共に――。


「みなさんと旅ができて、私は幸せでした。頑張ってください」

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