第963話 ど男騎士さんと空きスロット
【前回のあらすじ】
冥府神に大神から託された人類の解放を話した男騎士。
それを知ってなお、冥府神は男騎士への協力を申し出る。
どうやら彼も大神と同じく、人類の手に世界を譲るべきだと考えているらしい。
大神がその気であればと、冥府神はそれに乗ることを選んだ。
一方で、彼は七柱の神々の中に紛れ込んだ魔神の正体にもどうやら心当たりがあるようだった。それが誰かは、大神にはばかって明らかにすることはしなかったが、ゆめゆめ他の神に気を許さないようにと男騎士に釘を刺す。
代わりに彼は、男騎士達に全面的に協力することを約束した。
かくして冥府神をあらためて味方にした男騎士。
神をこの世界から追い出すという計画の思いがけない協力者の登場。
そして七つの神々の中にいる裏切り者について、実は彼らも一枚岩ではないという情報。
過酷なる冥府の旅の果てに、男騎士は大きな成果を得ることになった。
◇ ◇ ◇ ◇
『さて、そういうことならば、君に一つアイテムを授けよう』
『アイテム?』
『どうにも君は口が軽い――というか脳味噌が軽いらしい。今回のように、迂闊に神に思考を読まれる可能性もある。私は死の都を司る神としての権能で君の記憶に偶然触れた。他の神々がこのように記憶に偶然触れることはないが、しかるべき方法をとれば君の記憶を読み取ることは可能だ』
それを防ぐためのアイテムだと冥府神が告げるや男騎士の肩が揺れる。
起きなさい、これ、しっかりしなさいという声がする。
間違いなくそれは冥府神の声。
どうやら現実の世界において、冥府神が男騎士を起こそうとしているらしい。秘密の話は終わりということだろう。すぐさま男騎士は目を覚ますと、うぅんと酔ったふりをしつつ冥府神に応じた。
「すまない、まさか下戸だとは知らなかった。これは言ってなんだが、君に迷惑をかけてしまったお詫びの品だ。旅の役にも立つだろうから、是非持って行ってくれ」
「……これは」
差し出されたのはオカリナ。
男騎士が保持している角笛とはまた違う趣がある。
にこにこと微笑む冥府神からそれを受け取って握りしめる。すると、すぐに吹いてみなさいと冥府神が勧めた。
笛の心得は特にない男騎士。
どう吹けばいいのかも分からないが、とりあえず吹き口と思われる突起にそっと口を添える。鼻で息を吸い込んで、よく肺を膨らませた彼がふっと空気を吐き出せば、ぴょろろと美しい音色が当たりに響いた。
同時に、男騎士の身体が少し軽くなった――ように感じる。
これはとすぐに男騎士が冥府神に視線を向ける。すると、どうだい酔いが醒めただろうと、彼は自然に微笑んだ。
「これはラバウルの笛。吹いた者のバッドステータスをたちどころに回復するアイテムだ。睡眠状態に毒状態、混乱に麻痺、全てこの笛を吹けばたちどころに直る。笛の音色にも効果があってな、耳元で聞かせることで直すこともできるから吹けない者にも使える。治せないのは死亡以外のすぐれものです」
「そんな……滅茶苦茶便利なアイテムじゃないですか」
「そうでしょう。さらにだ、このアイテムを持っていれば、ありとあらゆる精神感応系の魔法に抵抗できる。攻撃魔法を防ぐことは出来ないが、精神操作をはね除けることができる」
つまり、他の神々から記憶を暴こうとする魔法をかけられれば、この笛が防いでくれるということ。
酔いを覚ますフリをして、これはなかなか重要なアイテムを貰ってしまった。
知力が低いため、精神系の魔法には極めて弱い男騎士。彼にとってこのアイテムは自分の数少ない弱点を補ってくれるアイテムに間違いなかった。
冥府神からの贈り物に男騎士は感謝した。
ただ――。
「既に笛は股間に装備しているからな。いったい、これ以上どこに装備すればいいのだろうか。空きスロット、あっただろうか」
男騎士、ここに来てまた、しょーもないことを言い出した。
今まで装備のスロットなんて、ろくに気にしたこともなかったのに、どこに装備しようかなどと言い出した。
これには冥府神はもちろん、心配で駆けつけていた女エルフも渋い顔をする。
そんな彼女たちの前で、男騎士はおもむろに装備を確認し始めた――。
【頭: エルフの肌着。防御力+2。性欲+16】
【胴体: フルプレートメイル。防御力+17。性欲-2】
【右手: 魔剣エロス。攻撃力+24。性欲+16】
【左手: 両手剣装備中につき装備不可】
【足 : 性郷の鉄下駄。攻撃力+5。性欲+6】
【アクセサリー: ミノタウロスの角。防御力+10。性欲-2】
「うぅーん、どこも空いていないなぁ……」
「ちょっと待て。なんだ、エルフの肌着って。どういうことだ、オイ」
ステータス確認と共に、女エルフが突っかかる。
初手、ステータース欄の初っぱなから、見逃すことができない文字がそこに並んでいたからだ。
エルフの肌着とは。
いや、それ以外にもいろいろと気になる所はある。
あるけれども、まずはそこが気になった。
えっと驚いた顔をして振り返る男騎士。それからしばらくして、あぁ、なるほどそうだったなと、男騎士は納得した感じで手を叩いた。
「いや、すまない、いつもはアクセサリーとして装備しているんだが、今はほら違うのを装備しているだろう。それで、急遽空いていた頭に装備し直したんだった」
「装備し直したって、いったいどこに何を」
「ほれ、ここ、頭の所に」
男騎士が指し示したのは額のあたり。そこには、白い三角の布が確かにあった。
なるほど、それがエルフの肌着かと女エルフは納得する。
てっきりと死ん蘇ったのでその流れでついていたのかと思った布。どうやら、それはそういうものではなく、男騎士のデフォルトの装備のようだった――。
そして、見れば見るほど、それに女エルフは見覚えがある。
そうそれはなくしたと思っていた――。
「私のパ○ツじゃないのよ!! ちょっと、なんでアンタがそれを持ってるの!!」
パ○ツ。
そう、パ○ツであった。
女エルフのパ○ツを、あろうことか男騎士は装備していた。
アクセサリーとして常に装備していたのだ。
これにはてと男騎士が首をかしげる。
「なんでも何も、宿屋で一緒になった時にいただいていたんだが?」
「いただくな!! なに勝手に取ってるのよ!! この変態!! いや、知っていたけれども!! アンタが変態なのは知っていたけれども!!」
「いやけど、モーラさんが早く脱がしてって言うから、いらないものだと」
「そういうのこういう所でバラすなって言ってるだろ!! 子供達がおるんぞ!!」
合意の上でのパンツ装備であった。
もったいないので、仕方なくのパンツ装備であった。
実際、防御力が+2されているので、意味のある装備ではあった。
ついでに、RPGに必要なさそうなステータスも上がっているが、とりあえず装備する意味はあった。装備する説明はつくアイテムだった。
けれども変態には違いなかった。
「これと角を入れ替えるというのも一つの手だが。そうするとどの道、股間の装備スロットが埋まってしまうしな」
「股間に装備してたんかい!!」
「パ○ツだぞ? 股間以外のいったいどこに装備しろというんだ。しかもこんな透け透けのキラキラのお洒落アクセサリー」
「やめろ!! 人の下着を勝手にレビューするな!!」
そして、モノ自体もちょっと変態チックだった。
日常品というよりは、盛り上がるためにつける感じの奴だった。
そんな下着をわざわざ選ぶなんて――。
「流石だなどエルフさん、さすがだ」
「優しい顔していうな!! この変態!! うぁーん!!」
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