第957話 ど男騎士さんといざ冥府神の膝元へ

【前回のあらすじ】


 大神バブルスと別れて再び現世に戻った男騎士。

 そんな彼を待ち構えていたのは、女エルフと魔剣であった。


 過去に神々と謁見した時に、大神についての情報は得ていた魔剣。彼は自分を差し置いて男騎士が大神と謁見したことを、戦士として負けたと多いに悔しがった。

 大神と会ったことを言い当てられて驚きはしたが、その内容まで追求されなかったことに安堵する男騎士。


 まぁ、普通に考えて大神と男騎士だけの秘密である、この世界の秘密や七つの神々への反逆の話が出るはずはない。まともに応対していれば問題なかろう。

 そうタカをくくった矢先――。


「……ティト? アンタもしかして、何か隠していない?」


「へ?」


 女エルフが女の勘を発揮。

 まさかの男騎士に嫌な質問を投げかけてきたのだった。


 このいきなり奇襲にたじたじになる男騎士。

 大神との話は、男騎士ならば知っていても誰からも怪しまれることはないが、女エルフ達が知っているとなると怪しまれる可能性が高い。

 ここで知られるのは非常にリスキーだ。


 どうするどうすると沈黙する男騎士。

 すると、偶然にも他のパーティーメンバーが合流したことで、なんとか話はうやむやになったのだった。


 はたしてこの調子で、男騎士は女エルフ達に、知られてはいけない秘密を隠し通すことができるのか。ただでさえアホな男騎士のことである、ひょんなことで口を滑らせてしまいそうだが――。


 男騎士の新たな苦難がここに幕を上げるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「だぞ!! なんとか怪奇メフィス塔攻略成功なんだぞ!! 僕も頑張ったんだぞ、褒めて褒めてなんだぞ!!」


「ほんと天蝎宮では予想外の大活躍でしたねケティさん。うぅっ、そして、よく考えると私だけ、ろくに何もしていないような」


「まぁ、そういうポジションの人もいないと話は回りませんよ。しかし、本当に疲れましたね。まさか私も自分が魔法少女になるだなんて思いませんでしたよ」


「……ふぅ。なんとかこうして、皆無事に集まることができてよかった」


「ですね。あ、デビちゃん、大丈夫かい? もう、立っても大丈夫?」


「ゲソォ……。まだちょっと視界が揺れてるでゲソ。おのれ邪神アザトス。いたいけなセイレーンを乗っ取るなんて、酷いじゃなイカ」


「ほんと、よくこのメンツで一人も離脱者を出さず攻略できたわよね」


「あぁ。無事でなによりだよ」


 男騎士パーティ。ここにようやく再集結。


 長く激しい怪奇メフィス塔での戦いを終えて、一回り成長した彼らは数時間ぶりの再会を喜んだ。


 挑むのは神の試練。

 場合によっては一人二人、命を落とす者もでるかと思われたが――男騎士と女エルフというギャグ枠二人が犠牲になっただけ。

 かろうじて軽傷で済んだのは幸いだった。


 咳払いをして、男騎士が皆の注目を集める。

 戦いを終え、大神との謁見も果たした今世の英雄は、少し気恥ずかしそうに一度苦笑いをして、それから切り出した。


「みんな、まずは無事にまたこうして再会できたことを嬉しく思う。みんなが全力で戦ってくれたおかげで、怪奇メフィス塔こと冥府神ゲルシーの試練に打ち勝つことができた。これは俺たちパーティみんなの勝利だ」


「……ここまで、長くかかりましたね」


「だぞ!! これでやっとコーネリアを復活させることができるんだぞ!!」


「そして冥府神さまとの謁見もできる!! 打倒魔神シリコーン&暗黒大陸にまた一歩前進ですね!!」


 はしゃぐかしまし男騎士パーティの女子達。

 そんな彼女達に対して、壁の魔法騎士と魔性少年は無言で微笑む。

 デビちゃんは、まだちょっと体力が戻っていないのだろう。ぐってりとした顔をするばかりであった。


 少し落ち着いたのを見計らってさらに男騎士が続ける。

 と言っても、もはややることはそう多くはない。


「これより、ここセントラルドグマを通って、俺たちは冥府の底へと至る。冥府神との謁見がどのような形になるかは分からないが、皆どういうことになってもいいよう気だけは引き締めてくれ」


「だぞ!! 任せるんだぞ!!」


「ちゃっちゃと行って、コーネリアさんを貰ってきましょう!!」


「神との交信は得意です。何かあればお任せください」


「ゲソ、ちょっとここで休んでいてもいいでゲソ?」


「ダメだよデビちゃん。一緒に行かないと。仲間なんだから」


「……何かあった時のために、俺が外に残ろう。ティト、お前達で行け。俺は今回の試練はあくまで助っ人だ」


 何を水くさいことをと言いかけて、男騎士は壁の魔法騎士の性格を思い出す。

 彼は一度言い出したら退かない男だ。また、どのような局面でも、最悪を想定して動く男だ。ここは彼の言葉に従っておくべきだろう。


 ではその手はずでと、言うなり、まずは一番乗り、ワンコ教授がひょいとセントラルドグマの中に飛び込んだ。あぁ、待ってくださいと新女王がそれに続き、さらにやれえやれと嘆息して法王が飛び込む。


「それじゃぁ、ティトさんモーラさん、下で会いましょう」


「行ってくるでゲソ!!」


 続いてデビちゃんと魔性少年が、仲良く手を繋いで中へと入る。

 そうこうしている内に、怪奇メフィス塔の上に人の姿はなくなった。


「おい、そこのおっさん。俺様を中に投げ入れてくれ。まったくよう、誰か一緒に持って行ってくれてもいいのに。ティトが霊体だから動くのめんどうなんだよなぁ」


「……エロス」


 いや投げ入れるのはどうなのだと、怪訝な顔をする壁の魔法騎士。そんな彼に、大丈夫ちゃんと怪我させないように落下するからと、器用なことを言う魔剣。

 言われるがまま、壁の魔法騎士は男騎士達から少し離れた所にある魔剣を拾いに歩き出した。


 その瞬間を狙って、女エルフがそっと男騎士に近づく。


「ティト。さっきの話の続きだけれど」


「……ッ!! モーラさん!!」


 そっと耳打ちした女エルフ。それを台無しにしようとした男騎士に、しっと彼女は指先を立てた。


 どうやら、彼女に誤魔化しは効かないようだ。

 けれども同時に、深い事情まで察してくれて居る様子。


 分かってるわという顔をした女エルフが、ゆっくりと唇の前から指先を降ろすと、男騎士から少し距離をとった。


「なにか、話せない内容なのよね? 私にも隠さなくちゃいけないような?」


「……あ、あぁ」


「そう。だったら私も深く聞かないわ。話すべき時が来たなら、その時にでも話してちょうだい。私はそれで構わないから」


 それじゃぁ、先に行くわねと女エルフが永遠の洞へと飛び込む。

 何を言われるのかと肝を冷やしながらも、蓋を開けてみれば女エルフは男騎士のことをよく理解してくれていた。それに感謝しつつ、男騎士はやれやれと首を振る。


 話すべき時はだいぶ先になりそうだ。

 けれども、今はこうして自分のことを案じて黙ってくれている、受け入れてくれる寛容なパートナーの存在を、男騎士は心の底から嬉しく思った。


「大丈夫だ、バブルス。これなら俺は戦えると思う」


 かくして男騎士。

 先ほどの会話で抱いた憂いを払拭して、彼もまたパートナーに続いて地の果てへと至る洞の中へとその身を躍らせた。

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