第945話 ど男騎士さんとど邪神さん

【前回のあらすじ】


 止らぬ鬼パロディ。(そのままの意)

 鬼の力を調伏した男騎士がやりたい放題に鬼作品のパロディを仕掛けてくる。そして、意外と数のある鬼作品。みなさん、いったいどれだけ分かったでしょうか。


 まぁ、一番のパロ元である鬼の太郎は少しも鬼と関係ないんですがね。


「鬼武蔵とか鬼半蔵とかのノリよねこれ」


 お、モーラさんてばよくご存じで。そうですね、強いの意がメインですよね。

 とか、そういう歴史小説小話はともかく。


 そんなこんなで怒濤のパロディ波状攻撃を仕掛けてくる男騎士。

 この猛ラッシュの前に女エルフは為す術もない。


 男騎士に押し切られるまま、誰も止めることが出来ないパロラッシュに突入してしまうのか。そう思われたその時――。


「うろたえるな小僧ども!!!」


 邪神ついに起き上がる。

 このオ○ンポス編において、タイトル的にも展開的にもロケーション的にも、もっとも説得力のあるパロディで男騎士の暴走を止めるのだった。


 パロディにはパロディをぶつける。

 不条理展開にもっとも効く攻撃が不条理展開であるように、目には目をで対抗する邪神。


 ようやくこの流れにも決着。

 ついに男騎士対邪神の、最終決戦の幕が上がるのだった。


 今度こそ、本当に、マジで。


「ここまでトンチキ展開で転がしたから、説得力がないわよね」


 本当ですから!!


◇ ◇ ◇ ◇


 邪神の繰り出したちゃぶ台返しで宙に吹っ飛ぶ瓦礫たち。

 魂だけの存在だった男騎士の身体が宙に浮く。三つの魂とアイテムを身に纏ったことで、その身体は質量を持つにいたっていた。


 足下から勢いよく湧き上がる瓦礫の雨。

 その奔流の中にあって、男騎士は静かにその手を動かす。

 無駄のない洗練された手つきで、自分の身体にぶつかる瓦礫だけを的確に捌くと、彼は打ち上げられこそしたが邪神の広範囲攻撃を見事に無効化した。


 どうしたこの程度かという感じの余裕が男騎士の顔に浮かぶ。

 もちろん、これだけのはずがない。


 邪神の身体が再びきらめいたかと思うと、瓦礫の山を縫って光の帯が男騎士に踊りか掛かった。


 粉塵などが舞い散る中で、光線は拡散されて威力を失う。

 しかしながら、その粉塵をも焼き切るレベルの高出力ならば話は別だ。

 男騎士に躍りかかった光の帯はまさしくそれ。細かい塵はもとより小石さえも焼いて、それは男騎士に直撃する。


 しかし――。


「だから無駄だと言っただろう。この鎧の前に魔法攻撃は無意味」


「くっ!!」


 再び虎柄のちゃんちゃんこを振り回せば、邪神の放った光はかき消えた。

 そう、男騎士の手の中に、この装備がある限り魔法攻撃は全て無効化される。


 苦し紛れに放った――というよりは本気で男騎士を葬ろうと放たれた光線は、あっけなく再び躱された。


 どうする、と邪神。

 その考えがまとまるより早く、男騎士がまたしてもその身体に肉薄する。

 今度は容赦しないとばかりに男騎士、その拳を邪神に向かってたたき込むと、そのまま怒濤の連打へと移行した。


 礫の嵐がその猛威を顰めた瞬間に、今度は男騎士が操る拳の嵐が邪神を襲う。

 オラオラオラオラと、男騎士のかけ声に合わせて、右から左から、上から下から繰り出されるそれに、為す術もなく邪神はその身を弄ばれることとなった。


 もっとも彼女もやられっぱなしという訳ではない。

 男騎士の拳に合わせようと、デビちゃんの触手を動かして応戦する。


 だが、その防御を男騎士の拳が無慈悲に砕く。

 そして、その余勢で体勢が揺らぐ。


「……くっ、このぉっ!! なんというフィジカルをしているのだ!!」


「侮るなよ邪神アザトス!! 人の拳が神に届かぬなどと、思い上がったのがお前の敗因よ!! 神をも貫く我が拳を受けよ!!」


 はっと気合い一閃、体重を乗せた一撃がアザトスの身体に炸裂する。

 衝撃波が閃光となって飛び散ったのは、邪神が操る光のためか、それとも男騎士の中に眠る魔力あるいは妖力のようなエネルギーが咄嗟に漏れでたためか。


 なんにせよ、けたたましい音と共に男騎士の拳に弾かれた邪神アザトスは、そのまま怪奇メフィス塔の頂上に沈んだ。


 床を破り、下のフロアまであと少しで落ちるかという強烈な一撃。

 男騎士が空中から床に舞い降りれば、その身体を覆っていた装備が変化していく。ちゃんちゃんこも、下駄も、前隠しも、まばゆく黄金に輝いたかと思えば、その輝きを保ったまま重厚なフルプレートメイルへと変貌する。


 特に装飾が凝られた訳でもない、質実剛健を絵に描いたようなシルエットのフルプレートアーマー。兜だけを脱いだ状態の男騎士は静かに白い息を吐き出した。


 まるでその鎧から神気を浴びているかの如きその姿。

 おもわず味方の女エルフさえもその姿に固唾を呑む。


 気がつけば男騎士は、黄金の鎧を身に纏いその場に立ち尽くしていた。


「俺の中に眠る鬼の力と、それを抑え込もうとしてくれる熱い仲間の魂。相反する二つの性質の力が混ざり合うことで、今、ここに最強の鎧が完成した――」


「そ、その輝きは!! まさか!!」


「古来より!! 最高の騎士が纏うのは黄金の鎧と決まっている!! そう、我が魂の友たちにより鍛え上げられたこの鎧こそまさにこれ!! 黄金の魂の輝きを放つ、真の勇気を示す鎧!!」


 男騎士の頭部が唐突に発光する。


 現われたのは金色の兜。

 獅子を模したバイザーに、二つの水牛の角飾り。

 装着するや両方の肩を通すように結ばれたのは白い布。

 何に使う布かはさておいて、ここに男騎士の鎧は完成形となった。


 ひときわまばゆい光と共に、男騎士の身体が輝き煌めく。

 邪神の周りにまとわりついた緑の光をもかき消して、激しく輝く黄金の鎧。いざ、彼はどこからともなく現われた、魔剣エロスを握りしめるとそれを上段肩に担ぐように構えて邪神をにらみ据えた。


 圧倒的な剣気が邪神を襲う。

 小さきもの、矮小な人類とせせら笑った相手の、目を背けたくなるような輝かしい姿を前に、邪神は完全に言葉を失った。


 そしてそんな沈黙を破るように――。


「さぁ!! これなるは、真なる勇者が纏う伝説の鎧!! 魔法と仲間達の魂により練り上げられた伝説の防具魔法だ!! よもやこのタイミングでティトが覚えるとは思わなかったし、知力の足りないこいつに魔法を使いこなせるとは思っていなかったが、ついにやりやがった!! 流石は俺様が見込んだ男だぜ!!」


「……エロス!?」


 喋ったのは男騎士ではなく、彼が握りしめる魔剣だった。


 そのとき、女エルフの脳裏に懐かしい記憶がよみがえる。

 かつて、男騎士が手にする魔剣と出会った時、彼が操っていた死体もまた同じような鎧を着ていなかったか。


 いや、着ていた。

 確かに彼は黄金の鎧を着ていた。


 あれは魔剣エロス――もとい彼の元となった英雄スコティの趣味などではなかったのだ。今の男騎士と同じ状況に他ならなかったのだ。


「ビビれよ邪神!! これがこの世界の勇者の証!!」


「魔法黄金鎧ギルガメッシュアーマーだぁあああああっ!!」


 男騎士の身体の中でエネルギーが爆発する。

 その奔流が大気を震わせ、大地を震わせ、今、海底都市オ○ンポスを震撼させた。


「「さぁ、行くぞ邪神よ!! ここからはもはや情け無用だ!!」」

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