第946話 ど男騎士さんと○金騎士

【前回のあらすじ】


 鬼太郎はあくまで冗談。男騎士の下に集まった魂たちが再び形を変えて男騎士を包む。それは黄金の鎧。熱い男の魂と鬼の力が合わさって作り上げられた勇者の鎧。


 かつてその鎧を身に纏って、男騎士達の前に立ち塞がったエロスが叫ぶ。

 そう、それは勇者だけが使うことができる、魔法により生み出された最強の鎧。

 勇者だけが使うことができる伝説の防具。


「ビビれよ邪神!! これがこの世界の勇者の証!!」


「魔法黄金鎧ギルガメッシュアーマーだぁあああああっ!!」


 今、クライマックスに相応しい、魂の輝きを放って男騎士が剣を手に取る。立ち塞がる邪悪の神アザトスに向かって咆哮する。はたして、人の希望を魔法によって顕現させたた黄金鎧は、邪神の拳を打ち砕くことができるのか。


 ○金闘士編。まさかまさかの、最後の最後で男騎士が○金騎士に。

 はたしてどうなるどエルフさん。今週は、たぶん、やっぱり、きっと、おそらく、おふざけなしのクライマックスモードでお送りいたします。


「いや、それだけ予防線張られたら、流石に不安になるのだけれど」


 たぶん大丈夫です!!


◇ ◇ ◇ ◇


 黄金の鎧を輝かせて剣を構える男騎士。さぁ、立ち上がってこいとばかり、怪奇メフィス塔の天井にめり込んだ邪神に向かって彼は気迫を飛ばす。


 散々に男騎士に痛めつけられたが、そこはやはり邪神である。

 すぐさま身体を発光させると、彼女はその身体についた細かい傷を癒やし即座に立ち上がった。


 男騎士を睨み据える邪神の視線は険しい。

 だが、その中には危機感のようなものはない。

 これだけ痛めつけられたというのに、彼女の瞳の中には静けさと冷たさが同居していた。それが神ゆえの人間を超越した精神からくるのなのか、それとも何かしら男騎士のこの○金騎士状態について、思うところあってなのかは分からない。


 なんにしても立ち上がってすぐ、邪神アザトスは拳を前に突き出す。

 徹底抗戦の意思が感じられるポーズ。

 どうあっても、彼女はこの勝負引く気はないらしい。


 むろん男騎士とてその気持ちは変わらない。


「アザトス!! 大人しくデビちゃんの身体から立ち去るという選択肢はないのだな!! あくまで俺たちと戦うというのだな!!」


「もとよりその気でなければこのように姿を現さぬわ。今更だな」


「ならばよし!! こちらも全力で行かせてもらう!! その神性、我が剣で吹き飛ばされても文句は言うまいな!!」


「ほざけ人間!! 貴様程度に頭を下げる私ではないわ!! 御託はいい!! 最初から全力で来い!!」


 闘いの口火を切ればまずは男騎士が駆け出す。

 本来の彼の領分である剣を担いでの突撃。上段からの切り下ろし。彼の必殺技バイスラッシュが、今、神域の速度と、渾身の力を込めて放たれた。


 大性郷とのトレーニングで強化されたそれに、さらに黄金鎧の力が加わる。

 空を斬った先から大気を震わす衝撃波を纏って放たれたそれは、邪神の身体を僅かにかすめて、怪奇メフィス塔の頂上の床を削った。


 雷光が落ちたかのような大爆発。

 そして、そこから続いての大崩落。


 男騎士が斬りつけた怪奇メフィストの天井は大きくえぐれている。すぐさま返す刀でアザトスを斬りつけるが、それを邪神が躱したのは賢明な判断だった。


 今の男騎士の実力は、目の前で相対する邪神と比べても決して劣りはしない。

 黄金鎧は確実に男騎士に鬼化以上の力をもたらしていた。


 その内に渦巻く暴風のような鬼の力に、かつては半ば身を任せて踊らされるように使うことしかできなかった男騎士。


 しかし今、黄金鎧によりその力は完全に男騎士の制御下に入った。

 ただ鬼の力が制御下に入っただけではない。黄金鎧はそこに加えて、鬼の身体の再生力を上回る防御力さえも男騎士に与えた。


 ただでさえ単騎で決戦兵器となり得る打撃点を持つ男騎士。さらに鬼の力でそれが強化された所に、ほぼ無敵の防御力が備わったとなれば鬼に金棒。


 神をも圧倒しこの世界の天秤バランスを破壊しかねない、切り札級の戦士がここに今誕生したのだ。


 邪神アザトス、これまで散々に男騎士もとい人間を侮ってきたが、ここで慎重に出方を窺いはじめた。


 身体能力においては、男騎士の方が間違いなく上回る。

 それを察知できない邪神ではない。


 確かに彼女が宿っているデビちゃんの身体は、神が宿るのに適した構造には違いないが、その権能を充分に宿すに足る身体かといえば違う。宿ることができると、その力を十全に引き出すことができるでは、そこに大きな開きが存在していた。


 すなわち、邪神が今抱えている弱点は、その宿った肉体の脆弱さ。

 そも、セイレーンはエルフと同じく精霊から進化した種族。

 魔力については申し分なく、また邪神の権能により身体強化を施してはあるが、根本的な弱さを克服するには至っていなかった。男騎士のように、人間としての一つの限界に到達した存在を相手にするには、いささか身体が弱すぎる。


「くっ、やはり宿る相手は選ぶべきだったな……」


「どうした!! 動きが精細を欠いているぞアザトス!! 貴様の実力はそんなものか!! おれはまだ、30%も実力を出していないぞ!!」


 ほざけ、とも言い返せないほどの圧倒的な実力差。

 アザトスは男騎士の太刀筋から、ただただ逃れ続けるという消極的な戦術に出るより他ないのだった。


 かろうじて、攻撃を避け続けることはできる。

 人間と神の違いは精神の違い。たかだか長くて数百年しか生きられない人間と違って、神は悠久の時を生きる者である。持久戦となれば話は変わってくる。


 なまじ男騎士は黄金鎧の力を今回初めて使う――。


「おそらく長くは持つまい。息切れした所を倒す。卑怯かもしれんが言うてはおられぬ。勝たぬことには仕方がないのだ」


 消極的戦法ではあるが邪神はあえて時間稼ぎという手に出たのであった。

 男騎士がその力を使うのに疲れてきたその間隙を狙う。

 神らしくないといえば神らしくないが、そこは己の特性を十全に使って戦うのが勝負である。邪神は態度こそ傲慢でこそあるが、勝負にその油断を持ち込むほどに愚かではなかった。


 だが、戦に臨んで油断がないのは男騎士も同じ。


「なるほど消耗戦狙いか!! ならば、こちらも手を打たせて貰うぞ!!」


「……なに?」


「神だからってあぐらかいている余裕なんてねえってことさ!! ぐははっ、邪神よ、この黄金鎧の権能が、ただの身体能力の強化だと思ったら大間違いだぜ!!」


 魔剣の声に呼応するかのように、ひときわまぶしく輝く黄金鎧。

 海底にまるで朝日が差したかのように、海底都市○チンポスをあまねく照らすようなその強烈な光に、うっと邪神がたじろいだ。


 その瞬間、焼けるような痛みが、邪神の身体を唐突に襲う。

 これはと状況を確認するより早く、黄金色の炎が立ち上がると邪神が乗り移っているデビちゃんの身体を焼きはじめた。


 その炎をから感じるのは、間違いない――。


「これは原初の炎!! 生命を生み出した、この世界にはじめて存在した熱源!! なぜ!? なぜだ!! なぜ、脆弱な人間如きが、神でも触れることができない真理にアクセスすることができる!!」


「簡単なことだ!! この鎧の本質が、この原初の炎にあること!! 黄金鎧の魔法はすなわち、神という超常存在を一つ越えて、この世界の真理にアクセスするための秘術ってだけさ!!」


「くっ、そんな、人間如きが!!」


「さぁ、神をも焼く炎そして――俺の相棒の力強い剣閃に耐えられるか闇の王!!」


 魔剣の言葉が徐々に近づいていることに気がついた時にはもう襲い。

 強烈な光の中に、男騎士の姿が浮かび上がったかと思うとそれは既に邪神の頭上の上を飛んでいた。


 大上段、体重をかけた振り降ろしから繰り出されるのは間違いない。

 男騎士の得意技にして必殺技!!


「喰らえ!! バイスラッシュ!!」


 黄金鎧の闘気を吸った必殺の一撃が、その瞬間邪神の頭にうがたれた。

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