第941話 ど男騎士さんと鬼の修行

【前回のあらすじ】


「お前達、スケベなんだな!! スケベなんだわ!! 神様よりもスケベなんて、とんだどスケベなんだわ!!」


 邪神ご乱心。

 口調まで乱れる大番狂わせ。

 無理もない、精神感応系の魔法を見事にしのぎきり、男騎士と女エルフは人の身でありながら邪神に立ち向かってみせたのだ。


 人間と神の知性差は歴然。覆すことなどできるはずもない。

 だとすれば、神を上回るには知性ではなく――痴性。


 男騎士と女エルフ。この冒険で培ってきたスケベパワーを炸裂させて、彼らは見事に邪神に打ち勝ってみせたのだ――。


「いや、スケベパワーって。そんな訳ないじゃない」


 もちろん、そんな訳がなかった。

 男騎士も女エルフも、前のフロアで壁の魔法騎士に身体を砕かれている。そのため魔法攻撃の対象外になっていただけであった。


 しかしながら魔法を破られたショックの方が大きい。

 よく考えれば分かりそうなことなのに、あまりの衝撃に思考が単純化してしまった邪神アザトス。はたして、彼女の運命やいかに。そして、男騎士と女エルフは、神も認めるスケベカップルになってしまうのか――。


「いや、神も認めるスケベカップルってなによ、やめてよそういうの」


 なってしまうのか!!


「煽るな!! お願いだから勘弁して!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「なっ、なんてやらしいんだ。神の私の精神感応魔法を簡単にはねのけるほどにエッチだなんて。そんな人間が許されていいのか」


「……言われているぞモーラさん?」


「私だけじゃないわよ。アンタも一絡げにされて言われてんのよ。なに関係ないみたいな顔してるの」


 というか、アンタが普段からそういう感じで私をスケープゴートにするからでしょうと、それとなく男騎士を睨む女エルフ。そんな視線をするりと躱して男騎士、彼は邪神の前へと出た。


 ここまでトンチキに次ぐトンチキ展開。

 またしても、各フロアでの○金闘士との対決のように、くだらなくぐだぐだな対決になるのかと思われたが、ようやく両者ともに正気を取り戻した。


「邪神アザトスよ!! 俺たちとお前が争う理由はないはずだ!! おとなしくデビちゃんの身体を返せ!! ならば、その命まではとらん!!」


「ほざけ人間風情が!! 神に敵うと思うてか!! 我ら確かに、この世界においては主神たる七柱とは異なる偽神ではあるが、貴様ら人間に劣る存在ではない!! その不敬、死で持って償うが良い!!」


「ついさっきなんか知らんが負けていたくせに威勢をはるではないか!!」


「負けてないのだわ!! いや、むしろそこについては負けてしまってもいいのだわ!! そんな恥ずかしいことで勝っても嬉しくもなんともないのだわ!!」


 男騎士と邪神。

 ついに最後の決戦に挑む。

 はたして邪神、その身に宿した緑の光を操って、光の槍かはたまた剣かと武器に変える。そして、勢いよくふりかぶると、それを男騎士に向かって投げつけた。


 音速、いや、光速をも越える。

 光の槍は物理法則を無視したかと思うと、次元を断絶して男騎士に迫る。

 まるでコマドリした映画のように、断続的に空間を貫いて飛んだそれは、気がつけば男騎士の胸を貫いていた。


 その魂でできた身体の一部が霧散する。


「ティト!!」


「くはははっ!! 魂の姿であるから物理攻撃が効かぬとでも踏んだか!! 甘いわ!! 我が魔力を込めた一撃は、肉体はもちろん魂をも削り取る!! 二・三発も喰らえば、貴様のような脆弱な人間の魂は消し飛ぶというもの!!」


「……そうか、ならば、魂の形を変えるのみ!!」


 男騎士の右手が腹をなぞる。そこは、彼の身体に刻まれた、鬼族の呪い――その呪印のある場所。ここしばらく使っていなかった、彼の中に眠る鬼の力を覚醒させるべく、男騎士は声を張り上げた。


「目覚めよ赫青鬼かくせいきアンガユイヌ!! そして、来てくれみんな――俺に力を貸してくれ!!」


「「「「応!!」」」」


 男騎士の身体から紫のオーラが立ちのぼったその時だ。虚空を裂いて、四つの装備がいきなり彼の元へと飛んできた。それは彼の死体が転がっている二つ下の双魚宮から飛んできた、彼の頼りになる仲間達――が残した遺品であった。


 一つ。

 それはかつて、西の国との境にある大砂漠。そこを徘徊する幻の移動都市の守護者。男騎士に倒されたものの、それにより長き呪縛から解き放たれたモンスター。


「もおぉおおおおお!!」


 ミノタウロス。その角である。

 はたしてそれは男騎士の周りをぐるりと一周すると、その左手へと収まる。そして男騎士はそれを、そっと――自分の股間へと沿えた。


 あれである。ジャングルに居る原住民とかがしているあのスタイルである。

 そう、男騎士は股間にミノタウロスの角を装備することで、その身に荒れ狂う鬼の呪いのエネルギーを封じ込めたのだ。


 そう、男騎士のために飛んできたアイテムたちの目的は他でもない。


「ティトどん!! 次はオイじゃ!!」


「性郷どん!!」


 次に飛んできたのは大性郷。彼が使っていた下駄だった。

 中に鉛が仕込まれたそれは、当然のように男騎士の足にするりとはまると、その足を地面に縛り付けた。足を上げるのが難しい重さ。それにより、鬼の力がまたしても縛められる。


 どっしりと地面に二の足で立って男騎士。

 その背中に、今度は虎の皮が飛んできた――。


「ティトどのいくであります!!」


 誰か。

 そう、こんな奴は一度も登場してきていない。

 しかしそれはまごうことなきティトのアイテム。


 そう、かつて梁山パークで彼が身につけていた虎のマスク。

 Ⅵ号戦隊ティーガーちゃんが身につけいた装備アイテムである。

 男騎士が出雲虎に洗脳されかけて身につけたそれには、なんということであろう今この瞬間どういう因果か魂が宿っていた。


 そして彼もまた多くの男騎士の戦友と同じく、男騎士に力を貸そうとしていた。


 そんな虎のマスクが大きく伸びたかと思うと、男騎士の身体を背中から包み込む。

 前掛け――いや、ちゃんちゃんこの形になって男騎士の胴体を包み込むと、それは隆起しようとする男騎士の身体を縛めた。


 いよいよ最後、飛んでくるのはもちろん――。


「ティト!! いくぞ!! 合体だ!!」


「まかせろ、エロス!! チェーンジ!! エロスワン!!」


 魔剣エロスである。

 はたして、男騎士が最も頼りとする相棒。大英雄スコティの魂を宿した魔剣が飛来したかと思えば、その肩にライドオンする。

 刀身が霞のように消え、柄だけが残って男騎士の肩に止れば、やがてその身体がまばゆく光りだした。


 四つの力が今、一つになって、男騎士の鬼の力を相克する。

 そう、これこそが男騎士が己の内に眠る鬼と、立ち向かうことで手に入れた力。


「鬼の力を今ここに、封印しつつ解放する!! さぁ、これが俺の新しい戦闘形態、鬼と人の力を併せ持ったスーパー人間!! その名も――!!」


 暗雲立ちこめるオチンポス。その天井を突くように光の帯が伸びる。

 世界をあまねく照らすようなその希望の光が収まったとき、その中央に鬼の力を身につけた、男騎士が立っていた。


 ストレートパーマになった髪。

 陰気くさく丸い顔立ち。

 青い服。

 黄色いちゃんちゃんこ。

 足には下駄。


 そう、その姿こそ。


「これが僕の新しい姿。名付けて、鬼太郎おにたろうフォームですよ、父さんさん」


「……著作権的にヤバい奴が来た!!」


 男騎士の新しい姿にして、著作権的にヤバい奴であった。

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