第942話 どエルフさんとゲゲゲの男騎士

【前回のあらすじ】


 三人の男の魂が今一つになる。

 男騎士の身体を使って一つになる。


 かつて男騎士と共に闘った者たち。その魂が、男騎士の呼び声に共鳴して彼の身体に乗り移る。


 ミノタウロス、大性郷、そしてⅥ号戦隊ティーガーちゃん――が身につけていたマスクになぜか宿った魂。


 最後の一つは除いて、誰も彼も男騎士に思いを託した熱き男達。

 そんな男達の無念や決意を引き受けて、今、男騎士は新たなステージを登る。騎士として、男として、一皮剥けた彼はついに鬼の呪いを調伏することに成功した。


 はたして鬼の力を解放しながら自由に操れるようになった男騎士は――。


「これが僕の新しい姿。名付けて、鬼太郎おにたろうフォームですよ、父さんさん」


「……著作権的にヤバい奴が来た!!」


 著作権的にヤバいスタイルになっていた。


 なぜ、どうしてこうなるのか。

 確かにそれは鬼だけれども、鬼の太郎だけれども、そうはならんやろ。


 八章クライマックスに突入してからというもの、紆余曲折のトンチキ乱舞を繰り広げてきたが、まだ繰り出されるトンチキ展開。


 作者の頭は大丈夫なのか。

 ニートしているはずなのになんでこんなに展開が雑なのか。

 というか、どうしてこうも苦しい展開ばかりなのか。

 ちっとも話が進まないのか。


 すみません、ちょっと他の原稿やっていてストック放出してたので、こっちの感覚取り戻すのに苦労しています。(真面目トーン)


「……そりゃ三年近く、休み無しでやってた小説を急に止めたら、書き方わからんくなるのも仕方ないわ」


 という訳で、今週も暗中模索どこに出るのか分からない、行き当たりばったり小説どエルフさんはじまります。


 どうか見捨てないで。(懇願)


◇ ◇ ◇ ◇


「……鬼太郎おにたろうフォームだと!? 貴様、バカにしているのか!!」


「本気にきまっているでしょう。言いがかりはやめてくださいよ」


 男騎士にしては珍しい丁寧口調。女エルフがちょっと眉を顰めたのは仕方ない。

 それでなくてもいつもと感じがちょっと違う。


 虎のちゃんちゃんこに下駄を履いた男騎士。

 これまでのファンタジー世界の戦士という感じはすっかりとどこへやら、もはや別人のように成り果てている。


 そこに加えてこの口調。

 鬼の力を制御しているとはいえこんな風になるものなのか。

 いや、そもそも鬼に変身したら、理性も何もなくなるのだ。これはまだよく持っている方だと言えるだろう。


 ただ、それにしても――。


「おい、ティ太郎。舐めプはそこそこにするんじゃ」


「分かってるよエロス博士」


「しかし相手は神じゃぞ。いったいどうやって闘うつもりじゃ」


「バーロー、気持ちで負けてたらどうやっても勝てねえよ。安心しろ、俺にとっておきの策があるんだ」


「……なんでいろいろと混ざってんのよ」


 声優が同じだからである。

 そしてキャラの外見的にも似ているからである。


 現代まで連綿と受け継がれるショタの系譜。

 その空気を匂わせて男騎士が不敵に笑う。


 お気づきかもしれないが、この時の男騎士は――ほんのちょっぴりだが知性が普段よりもアップしていた。

 まだ一桁代、日常会話も苦労するレベルは脱していないが、それでも普段の男騎士よりは大幅に知性がアップしていた。


 以前、その知性をカンストさせた虎のマスクが思いのほか効いているのだ。


 なんにしても男騎士の戦闘スタンバイは完了した。

 はたして、鬼に変身した時の彼と比べて、いささか頼りない体躯になっているが大丈夫なのか。知性を獲得するために大きく力を削ってしまっているのではないのか。


「ふん、何やら大げさに変身したが、それほどの力は感じないな」


「それはどうかなアザトス」


「なに?」


「鬼の力が漲ると同時に確かな知性も持ち合わせたこの身体を侮って貰ったら困るぞ。これまで、俺はこの力を正直に言って持て余してきたが、今回は違う」


 そう言うや、男騎士の身体が霞と消える。

 バカなとごちったか邪神、その首元に男騎士の手刀が添えられていた。


 うっと、喉を鳴らしたその瞬間にまた男騎士が距離を取る。

 もし彼が本気だったならば、先ほどのやりとりで邪神は死んでいただろう。


 思いがけず神に迫ったその動き。

 再び女エルフの前に立って、男騎士は不敵に口の端をつり上げる。

 先ほどまで小馬鹿にしていた人間のそんな仕草に、ぐぬぬと悔しそうに邪神は顔を歪めていた。


 どうやら男騎士の言葉ははったりでもなんでもなさそうだ。


 とはいえ、邪神にもプライドがある。すぐにメンタルを持ち直したアザトスは、男騎士に向かって高圧的な表情を作り直した。


「ふん。随分と自信があるようだが、所詮は人の技というもの。笑わせるなよ、この程度で神に至れると思ったか」


「この程度とは? まだ俺は実力の半分も出していないぞ?」


「減らず口を……!!」


 緑の光を放つ邪神。

 再びその攻撃が男騎士を思うかと思われたその時、男騎士はおもむろに虎柄のちゃんちゃんこを脱ぎ散らかすと、それを身体の前で振るう。


 梁山パークにて男騎士の身体を守ったマスクが変じたその装備。

 なぜか唐突に魂が宿った所からも、摩訶不思議の力があるに違いない。


 はたしてちゃんちゃんこは光の帯が織りなすビームを、ひらりひらりとまるでモノを払うようにしてにはねのけた。


 バカなと戦慄する邪神。

 本来であれば、その光の帯は男騎士が振るった布などつらぬいて、その持ち主を焼き切る威力があるはずだった。

 いや、そもそも光が屈折して曲がることなどあり得ない。


 あきらかにそれは邪神が知りうる物理法則を無視した、不可思議極まりない現象に他ならなかった。


 いったい何が起きているのか。

 そんな邪神の思考の空隙を埋めるように――。


「喰らえ!! 髪の毛マキビシ!!」


「また!! そんな!! いろいろとヤバそうな技!!」


 男騎士の短い髪がその頭皮から離れたかと思うと、邪神に向かって降りかかる。


 次々に打ち込まれる黒々とした毛。

 鋭さこそないが固いそれを四方八方から浴びせられ、邪神が苦悶の表情で唸る。


 それだけではない。


 雨あられと浴びせかけられる黒々とした髪に混じって、下駄が男騎士の足から放たれた。茶色く角張ったそれはくるりくるりと旋回し、邪神の身体に襲いかかる。


「いまだ!! 下駄ドローン!!」


「ぐはぁっ!! 下駄ドローンって!!」


「今風だけれど!! 体当たりする必要あります!!」


「そしてこれで、とどめだ――妖怪角笛!!」


 そういうや、おもむろに股間を突き出す男騎士。

 まるで中に入っているモノが膨張したかのように、その角が太くそして固くなる。はたしてそれを手に握りしめるのかと思いきや、男騎士はそれを股間に結わえたまま邪神に向かって突撃を仕掛ける。


「うぉぉおおっ!! くらえ、これが、デビちゃんを奪われた俺たちの怒りだ!!」


「「いやいやいやいや、待て待てまて待って!!」」


 最悪な絵面の最悪な必殺技。

 そして、原作に対するあきれるほどのリスペクトのなさ。


 いや待て、それは止めろとあわてて邪神と女エルフが声を荒げるのも無理はない。幾ら逆転展開と言っても、これは止めなくてはいけない奴だった。


 思わず違う意味で、ゲゲゲと言ってしまいそうな、下品な攻撃だった。


「そう、俺こそ下下下ゲゲゲのティ太郎」


「「えばって言うことじゃない!!」」

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