第940話 どエルフさんと対邪神用特攻魔法

【前回のあらすじ】


 かくして男騎士の中にあった理想の女エルフ像は風に消えた。

 彼女との別れを悲しむ女エルフ。そんな女エルフをよそに、自分たちの妄想を正当化しようとする男騎士たち。ついには邪神を巻き込んで、もう一度魔性少年にアザトビームをと言い出す始末。

 これにはちょっと女エルフも魔性少年もドン引きした。


 しかしながら一番ドン引きしていたのは他でもない。


「お前ら、いい加減にしろよ!!」


 そんな叫びと共に、緑の光を纏って飛翔したのはアザトス。これまでの邪神を邪神とも思わぬなめた扱いに彼女も頭にきていたのだ。


 はたしてついにキレた邪神。男騎士パーティに牙を剥く。

 最初のターゲットであった魔性少年もろとも覆い尽くす範囲魔法を仕掛けてきた彼女。流石は邪神、その大規模魔法に女エルフも壁の魔法騎士も絶句する。


 はたして炸裂する大魔法――腐海曼荼羅淫蕩地獄。


 男騎士達の運命やいかに。


◇ ◇ ◇ ◇


「はぁ、はぁ、はぁ……やったぞ!! あのクソ生意気な人間どもを、魔法で仕留めてやったわ!! この技が発動したからには生きてはおれまい!!」


【大魔法 腐海曼荼羅淫蕩地獄: もう名前通りの精神感応魔法。聞くも地獄見るも地獄の色欲の大地獄に精神を幽閉し、心身をすり減らす魔法である。基本的には睡眠系の魔法の発展系だが、一度囚われてしまうと術者が解除しない限りどのような刺激を与えても抜け出すことができない。そしてこの魔法に囚われてしまった者は、それはもう目が回るような快楽に打ち震え続けるという】


 ぐふふ、ふははと笑う邪神。

 その身体を覆っている緑の光が禍々しく明滅する。


 ほの暗い怪奇メフィス塔の頂上に緑の光をたなびかせて、彼女は不気味な哄笑を振りまく。それは人の劣情をかき回すようなおぞましい音色で、もしここに正気の者が一人でもいたならば、たちまちその音を聞くやひっくり返ってしまうだろうというほどの呪いの叫びであった。


 その眼下には確かに魔法に囚われて震える男が二人。


 壁の魔法騎士に魔性少年。

 二人は前のめりに倒れて、尻を大きく突き上げて苦悶の表情を浮かべていた。

 なんとも情けない格好である。


 哀れかな男騎士パーティ。邪神の持つ淫らな力に打ち負けてしまったか。

 壁の魔法騎士も魔性少年も男の子。経験豊富か経験不足か関係なく、そのような邪なパワーの前には等しく無力であった。


 これまで!!

 勝負あった!!


 ――そう邪神が思った時。


「うー、けほけほ、いったいなんだったというんだ」


「ちょっとゼクスタント!! コウイチくん!! 起きなさい!! こら、そんな下品な格好するんじゃありません!! 発禁になるでしょ!!」


「なっ、なにぃいいいいっ!!」


 男騎士と女エルフ。

 二人がそんな地獄のような塔の上に平然と姿を現した。


 まるで魔法が効いていない。

 ピンピンした感じで動いていた。


 邪神の顔に焦りが滲む。それはそうだ、彼女が今持っている最大の魔法を、彼らにはぶつけたはずだったのだ。なのに、まったくのノーダメージ。


 いや、確かに壁の魔法騎士と魔性少年はその魔力の毒牙にかかった。

 邪神の魔法が無効だった訳ではない。


 だとすれば、男騎士と女エルフは自力で邪神の魔法を耐えきったことになる。


 しかしそれこそあり得ない。

 精神感応魔法の成功判定は知性によって行われる。

 術をかけるものとうけるもの、その知性の差によって成功か失敗かが別れるのだ。


 そして今回は神と人間の対峙である。

 幾ら邪神が、その権能の一部しか、依り代であるデビちゃんに宿すことができないとはいっても神は神だ。そこに人間の知性が及ぶはずもない。


 あり得ない、起こりえない。

 その事態に邪神が一瞬狼狽える。

 仕掛けた方にもかかわらず混乱のるつぼに落ちた邪神。しばしの沈黙の後、ようやくその暗黒の知性が、この事態を合理的に解決する、たった一つのありえるかもしれない可能性をたぐり寄せた。


 そう、それとは――。


「まさか貴様ら、痴性判定に成功したというのか!!」


「……痴性判定?」


「……なによその、字面だけでまたなんか私に迷惑がかかりそうな奴は」


 そう。邪神は確信した。

 確かに知性では人間に負けはしないだろう。


 しかし痴性ならばどうだろうか。

 自分のような完全生命体――生殖などを必要とせず、自己完結をして存在できる者には必要ない痴性。それを種の存続のために持ち合わせている人間たちならば、あるいは自分を上回るかもしれない。


 いや、もっと端的に言おう。


「スケベ!! 神をも上回るスケベなのね!! お前達、そんななんでもない顔をして、四六時中スケベなことを考えている、スケベの使徒なのね!! だから、私の魔法が効かないのだわ!!」


「……何を言い出すんだ? この恥ずかしい邪神は?」


「……そんな訳ないでしょう。変な言いがかりを付けないで欲しいわねまったく」


「いやけど、そうじゃないと今の状況を説明できないのだわ!!」


 そう、男騎士と女エルフがスケベだから、自分を上回るスケベだから、魔法が効かないのだと邪神は確信した。


 字面の通り、彼女が使った魔法はスケベ魔法。

 それに囚われるということは、彼女のスケベ力に負けたということ。

 逆に打ち勝つということは、その程度のスケベには負けない強靱なスケベ力を持っているということ。


 間違いなかった。


 目の前の男騎士と女エルフは、たぐいまれなるスケベの持ち主。

 神をも凌駕するエロエロ野郎達に違いないと、邪神は確信した。


 そして戦慄した。


 神をも越えるエロスを持つ人間が、この世界に存在することに戦慄した。


「いや、いやなのだわ……。そんな、男女揃って、ドスケベだとか……。きっとふたりして、新世界のアダムとイブになる気なのだわ……」


「いきなりなんだどうしたんだ? いったいなんでこんなに狼狽えているんだ?」


「なんにしてもチャンスよティト!! こちらから攻める番よ!!」


「やっ、やめてなのだわ!! おか、○されるのだわ!!」


「「いや、○さんわ!! 何を言っているんだ!!」」


 キャラ崩壊して狼狽える邪神に突っ込む男騎士と女エルフ。


 ちなみに普通に二人は幽霊なので、魔法の対象外だということに邪神が気づくことはなかった。あまりにもドスケベオーラが漂っているので、そんなことに気づきもしないのだった。


 女エルフも男騎士も、流石だなどスケベさん、さすがだ。

 そういうよりほかない、見事なトンチキプレイであった。

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