第934話 壁の魔法騎士とヤベー助っ人
【前回のあらすじ】
壁の魔法騎士、妄想炸裂!!
まさかまさかのドン引き展開。妻が好きすぎて好きすぎておそろしいウワキツ妄想をまき散らす。そう、恋愛経験が妻しかない男というのはこれだから厄介。
どんな女も基準が妻になってしまう。
妻しか女を知らないから妄想が貧困になる。
健全なんだけれど、違う方向で恥ずかしい。
そんな感じで、共感性羞恥をバリバリに発揮し、味方はおろか敵までドン引きさせる壁の魔法騎士。本人はいたって平気というか、羞恥無効のスキルを持っているのでなんともないが、周りの人間には猛毒だ。
まさかまさかの大波乱。ラスボスと味方が同時にさじを投げる熟年濃厚ラブコメ展開に、はたして誰が待ったをかけるのか。
「もうなんていうか、地獄としか言いようがないわよね」
そして、こんな所に助っ人に現われるのはいったい誰なのか。
ヤベー助っ人とはどんな奴なのか。
壁の魔法騎士の知り合いで、ヤベー奴といったらもうアイツしかいない気がするんだけれど、そうなると冷静にツッコミを入れていた、モーラさんがまた被害に遭ってしまうんじゃないのか。
「え、うそ、これってそういうフリだったの!?」
という訳で、今週もどエルフさん、馬鹿馬鹿しさマックスで始まります――。
◇ ◇ ◇ ◇
「も、もうやめてくださいゼクスタントさん。奥さんが好きなことは、充分に僕たちに伝わりましたから」
「そ、そうだ、もうやめろお前。ちょっとそれは、お前は恥ずかしく思っていないかもしれないが、周りに相当ダメージが発生する奴だぞ」
「だから何が恥ずかしというんだ!! 夫が妻を好きでいったい何が悪い!!」
悪いことはない。
夫も妻も、お互いを深く思い合うのは大切なことだ。
いくつになっても夫婦円満でいる秘訣は、お互いがお互いに恋し続けること。
そして、何歳になっても恋というのは男と女を綺麗にする。
まったくそれは問題なかった。
けれども年相応に落ち着いた付き合いというのがある。
いくらなんでも壁の魔法騎士の妻とのやりとりは、彼の年齢にしては若々すぎるものだった。
子供もいて、一通り夫婦の危機も経験して、なおそれなのか。
もっとこう年季の入った夫婦らしい、わざわざそんなことをしなくても伝わる何かがあるのではないか。そう、魔性少年も邪神も思わずには居られなかった。
そんな中、ふっと壁の魔法騎士が自嘲のようなため息を漏らす。
「分かっている。いい大人が、こんな新婚夫婦みたいなことをやっていて、恥ずかしくないのかとそういうことが言いたいんだろう」
「ぜ、ゼクスタントさん!!」
「なんだ分かっているのか……」
「しかしな、それでも俺にはこの妄想を止めることができないんだ。なぜだか分かるかコウイチくん、そしてアザトス?」
「……すみません、分からないです」
「色ボケだからじゃないのか?」
全然違うとそこは強い声を出して否定する壁の魔法騎士。
思わず、否定されたアザトス、ひょいと肩と背筋が伸びたのも仕方ない。それくらい迫力のある否定だった。
なにもそこまで強く否定しなくてもと思いつつ、そこまで言うからには何か理由があるのだろうと二人は納得する。
はたして、もったいつける間を置いて壁の魔法騎士、彼は理由を語りはじめた。
そう、それは――。
「新婚みたいなもなにも、俺と妻には新婚時代しかなかったんだ。妻はまだ若い頃に殉職してしまって、夫婦らしい経験なんてろくに詰むことができなかったんだ……」
「「割と冗談にしづらい理由が出てきた!!」」
割と茶化すことができない真面目な理由だった。そして、ともすると人の心を傷つけかねないデリケートな扱いが必要とされる理由だった。
そうである。
壁の魔法騎士と彼の妻は、不幸にも短い時間しか一緒に居ることができなかった。いや長らく一緒には居たが、夫婦として共にあれた時間は少なかった。息子がいるのでそんな風には感じないが実際の夫婦経験は浅かった。
だからこそ、ついついいろんなことを妄想してしまう。
訪れなかった新婚時代を思い描いてしまう。
これはもう仕方のないことだった。
やはり悲しきモンスター童貞であった。
「……どうしよう、無茶苦茶恥ずかしい妄想のはずなのに、止めることができない」
「……私も迂闊に夢を具現化してしまったが、こんなことになるとは思っていなかった。というかいくらなんでも哀れすぎない、彼」
大陸のために命を捧げ、人生を捧げ、そして妻との時間さえも捧げてきた壁の魔法騎士。故に、彼の悲しき妄想くらい目を瞑ってあげるべきではないのか。
仲間の魔性少年もそう思ったし、敵の邪神もそう思った。
そして、もうちょっと闘い易い相手が出てきて欲しいと、心から願った。
このハートブレイク中年喪男を相手に、ギャグベースで闘うのはキツい。
「さぁ、どうだ分かっただろうコウイチくん!! 大人だってな、こんな風にエッチな妄想はしてしまうんだよ!! 既婚でも、もう結婚していい年が経っていても、それでもいろいろ考えちゃうんだよ!! だって、男なんだから!!」
「……いや、まぁ、はい。それは分かりましたが、それとは別の方向で恥ずかしいので、できればすぐにやめてもらいたいというか」
「何が恥ずかしいんだ!! 女性が好きで何が悪い!! 好きな女性のエッチな姿を思い描いて何が悪いと言うんだ!!」
「いや、エッチさはそんなにないんだが、なんというかこう、いろいろと業の深さが滲み出ているというか、こんなことをしてしまったのが申し訳ないというか」
「……ぶっちゃけるとゼクスタントさん、いくら奥さんが好きでもその愛情の抱き方はどうなんですか。もっと、自然体の奥さんを見てあげましょうよ。奥さんはそういう対象じゃないでしょう」
「そんなことはない!! エリィだって生きていたら、俺にエロい目で見てもらいたかったはずだ!! そういうエッチな妄想の対象として見られることに、口ではやめてと言いながら、心の奥底では可愛い人って思ってくれているに違いないんだ!!」
「「そういう所がホント怖い!! 無理!!」」
「そうだ、その通りだゼクスタント!! パートナーをエッチな目で見ることができてこそ、真の男女の関係!! いつだって、お互いの間にエッチな気持ちがなければパートナーは務まらないのだ!!」
その時だ、塔の頂上にあの男の声が響き渡る。
二つ下のフロアで、不幸にも壁の魔法騎士が粉砕してしまった奴の声が。
そしておそらく壁の魔法騎士よりやべー思考を持ち合わせているあの男の声が。
「ティト!! 復活したのか!!」
「えぇっ!! ティトさん!?」
「ちっ……新手か!! 次から次へと忌々しい……って、えぇっ?」
困惑の邪神の声。それもそのはず、頂上にかけつけた男の姿は――。
まだしっかりと透けていたのだから。
「リーナスの騎士ティトここに見参!! まだ肉体は復活していないが、盟友ゼクスタントを応援するべく透け透けで参った!!」
「どういう口上よ!!」
そして遅れてやってきた女エルフもまた、透けたまままだった。
まさしく透けっ人。
おあとがよろしい主人公コンビの遅れての登場であった。
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