第935話 男騎士といつものアレ
【前回のあらすじ】
妻に対する重すぎる想いを否定される壁の魔法騎士。
いくらなんでも年齢に対して奥さんへの愛情が若々しい。もうちょっと落ち着いたらどうなのかと詰め寄る魔性少年と邪神。
そんな彼らに、そう言われても若い頃に死別してしまって、その頃の気持ちのまま今に至るのだと、冗談に出来ない理由を壁の魔法騎士はぶちまけるのだった。
そういうことなら仕方がない。
仕方がないけれど、それはそれとして気持ち悪い。
さらに妻への想いを暴走させる壁の魔法騎士。
いくらなんでも奥さんに対してエッチな欲求を抱きすぎだと、自分の子供くらいの見た目の魔性少年に諭されるも、まったく聞く耳を持たない。
もはや止らないし止められない。このまま行くところまで行くのかと思ったその時、塔の頂上に魔性少年もよく知った男の声が響き渡った。
「リーナスの騎士ティトここに見参!! まだ肉体は復活していないが、盟友ゼクスタントを応援するべく透け透けで参った!!」
ここにきてのまさかの男騎士参戦。
肉体こそ復活していないが――やばい展開にヤバい奴が絡んできたことは間違いなかった。はたして、魔性少年と邪神の運命やいかに。
◇ ◇ ◇ ◇
「パートナーに対してエッチな気持ちを持ち続けることは大事だ!! 子供にはその事がわからんのだ!! コウイチくん、君もよく覚えておきなさい!! 女性はな、いくつになっても自分が求められることを嬉しく思うものなのだよ!!」
「……いくつになっても」
「この隣におわす、三百歳どエルフがその証拠!!」
「いきなり飛び火させるな!! いつもこっちはそんな目で見られて迷惑してるのよ!! というか、堂々と言うことじゃないでしょ、バカティト!!」
なるほど凄い説得力だと魔性少年が得心する。
弄られながらも、まんざらではない女エルフのこの感じ。これが子供には分からない、大人の男女の関係という奴なのだろうかと魔性少年は納得しかけた。
しかしながらそんなことは断じてない。
女エルフについては、男騎士に対してそれはもう長い付き合いで彼のことを知り尽くしている。言ってしまえば、もう彼に対してロマンティックなことは何も希望していない。恋愛方面で絶望しているからこその堂に入った反応であった。
ただ、そんな冷めた反応は熟練夫婦のそれに通じる所がある。相手に理想を重ねるのが恋ならば、相手をありのまま受け入れるのが愛である。確かに女エルフは男騎士に対して恋心は抱いていなかったが、愛情はちゃんと抱いていた。
そして、そんな態度が誤解を招いたのだろう。
恋と愛をはき違えた男騎士は自分の言葉が正しいのだと確信して、次々に言葉をまくしたてる。
「好きな女性のエッチな姿を思い描くのは別に悪い事ではない!! そして、それが一途に思う人の姿ばかりだとしても、なんら恥ずかしいことではない!!」
「そ、そうなんですか?」
「あぁ!! ゼクスタントと同じように、俺もまた一途に同じ人を思い続けているのだからな!! 男とはそういうものなのだ!!」
恋を諦めた女エルフの顔が突然赤くなる。
諦めているが、別に忘れた訳ではない。
突然このように、思い出したかのように恋心を揺さぶるようなことを言ってくる男騎士を、女エルフはちょっと厄介に思いつつもまんざらでもなかった。
ちょっと何を言い出すのよと、女エルフが横で照れ照れと髪を指で巻きはじめる。
そんな中――。
「という訳でだ!! 話はだいたい聞かせて貰った!! 邪神よ、ここでひとつ提案がある――」
「なんだ、いきなりどうしたというのだ」
「その魔法、俺にもかけてみてくれないだろうか?」
「「「いやほんと、いったいなんでそういう流れになるの!!」」」
男騎士が例によって例のごとく、またしょうもないことを言い出すのだった。
こと、変な魔法や変なアイテム、とにかく変なイベントが発生すると、自分からそれに脚を突っ込みにいかないと気が済まない男騎士。しかし、それにしたって今回の申し出は、突然だし脈絡もないし、ついでに言えば意味も分からなかった。
なぜそんなことを言うのか――。
疑問のるつぼに落とし込まれた女エルフに魔性少年に邪神。
三人、一様に疑念の顔を向ける中、ただ一人――長年の友人にして義理の兄弟である壁の魔法騎士だけが、腕を組んで何やら納得の表情を向けていた。
「俺もモーラさんへの想いはゼクスタントに負けていない!! コウイチくん、そしてモーラさん見てくれ!! 俺の恥ずかしい妄想を!!」
「「「そういう勝負じゃないから!!」」」
完全に何かを勘違いしている。
そしてこの流れはもはや修正不可能な感じの奴であった。
男騎士、一度言い出したら退くことを知らない、割とめんどくさい系男子である。こうなってしまったからには、めんどくさいことになるのはもはや必定。もはや避けることより、どうやってダメージを最小限に抑えるかを考える方が適切だった。
やる気満々、そして興味津々という視線を、邪神に向かって放つ男騎士。これには邪神も、大丈夫なのだろうかと少し気後れした顔をする。
そんな彼女に、まぁ、付き合ってあげてください、一回やれば気が済みますからと女エルフが言う。
はたしてその言葉に従って、アザトスがしぶしぶ目を光らせた。
「……アザトビーム」
「ぐぐぁああああああっ!!」
緑の怪光線が男騎士を貫く。しびしびしびびと震える男騎士、その身体から壁の魔法騎士と同じように白い煙が立ちのぼる。
しかし、形作るのは一人の女の姿だけ。
やはり男騎士もまた一途に女エルフだけを思い続ける男であった。そのシルエットはみるみると、女エルフのシルエットそのものに変わっていった。
金色の髪、碧色の瞳、白い肌に華奢な体つき。森の中で育っていないため、ちょっと野暮ったい感じの服装までそっくりそのまま。まさしく、男騎士の深層心理で思い描いている理想の女の姿は、女エルフと同じ格好をしていた――。
ただし。
「……あれ、なんかちょっと胸まわりが違うような。いや、だいぶ違うような」
「本人を隣に並べてみると一目瞭然。胸囲の格差社会」
「なんでよ!!」
そう、女エルフにはない巨大な二つのデカメロンがそれにはついていた。
その鞠のようなおっぱいをチョップで叩いて男騎士の理想の女エルフ――。
「イエーーーーイ!!」
彼女は奇声を発して華麗な胸ドラムをキメるのだった。
「いいぞ!! すごいぞかっこエロいぞ!! ビッグモーラさん!!」
「誰の何がビックよ!! ちょっと、どういうことよこれティト!!」
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